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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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死闘! 聖色四天王! その3

 熾烈極まる空中戦は、シルフィが一方的に押し込められる形で戦闘が進んでいた。

 「このっ!」

 姉妹による打撃と黒亀からの狙撃を同時に受けそうになり、シルフィは慌てて暴風の壁で身体を覆う事で防御とする。

 極小の台風の如き暴風は瞬時に展開、シルフィを包み込んで球状へと変化し、その勢いのまま停滞する。

 触れた者を乱気流の渦へと巻き込む攻防一体の技を見て、白亜麻姉妹は冷静に、扇子に風を受ける事で距離を取った。

 「おっとっと♪」

 「こわいこわい♪」

 まるで予期していたかのように、姉妹の動きは完璧にシンクロしたもので慌てた様子は一切ない。

 結果として、弾丸を一発逸らす為だけに手札を一枚切ってしまった事になる。


 「くっ……厄介な」

 シルフィはこれ以上の暴風壁は無駄と見て、即座にそれを解除。それと同時に全速力で降下する。

 案の定、先程までシルフィの頭があった辺りを銃弾が穿ち、背後へと流れていった。

 暴風壁の解除の瞬間を狙われるとは思っていたが、当然のように頭を狙ってくる容赦のなさ。

 そのあまりの殺意の高さに、シルフィは思わず身震いしてしまう。

 (『おいおい、ゴシュジンサマ。これはマズイんじゃないか……?』)

 精霊シルフィの言う通り、現状はかなりマズイ。


 唯一の味方であるノームと引き離され、得意の空中戦ですら今は相手の土俵だ。攻め手になりうる攻撃も手持ちになく、生き残る事だけに集中してやっと戦いとなっているのが今の状況なのだ。

 ……いや、ひとつだけ。攻め手になりそうなものはあるにはある。

 ダークエルダーの天災博士が作り出した、未だ実験段階の面白兵器。使い物になるかどうかは未知数なのだが。

 「選り好みはしていられないか……!」

 シルフィは観念したようにバイザーを掴むと、側面に備え付けられたボタンを押す。

 それはシルフィの腰に装備された追加装甲と連動しており、それが可変し排出孔を開く事でとある物が射出される仕掛けとなっているのだ。


 それは、

 「「……ベーゴマ?」」

 白亜麻姉妹が揃って口にし、一体何故という顔をする。

 そう、射出された物とは大量のベーゴマであった。

 黒雷の持つヴォルト・ギアと同じ技術を用い、貯蔵庫からあらん限りの在庫を放出されたそれは、108つからなる黒色の大群。それが全てシルフィの足元へと落下し、風に拾われるような形で全てが宙へと浮かび上がる。

 代わりにと言うようにシルフィが地面へと着地したが、白亜麻姉妹はこれから何が起こるのか興味津々といった様子で遠巻きに眺めているばかり。

 黒亀からの狙撃も来ないので、やはりシルフィが何をしたいのか気になっているのだろう。


 舐められているし、侮られてもいる。だがそれは今は好都合だ。

 「レディィィィスアーンドジェントルメェェェェン!」

 自ら道化を演じる為に、シルフィはより一層声高に声を張り上げる。

 「これから私が行いますのは、ベーゴマを使った大道芸! 世にも不思議な、空を飛ぶ独楽達の大空アートにございます!」

 右手を掲げ、指揮者の如く振るうとそれに追従するようにベーゴマの群が動く。

 それを眺める白亜麻姉妹は呆れたような顔をしているが、気にしない。

 右へ、左へ。くるっと回って大きく拡がり、そして。

 「このベーゴマのひとつひとつがダークエルダー特製の小型爆弾。人型以上の物に反応する近接信管付きにございます」


 そう声を上げた瞬間に、シルフィの眉間を狙った狙撃が放たれるが、それを防げるだけの暴風壁は既に展開済みだ。

 暴風による防御とベーゴマの操作のみに集中するため、わざわざ風の戦士の利点たる飛行能力を封じているのだ。

 唯一の持ち味たる機動力を捨ててまで使う必要がある武器なのかどうかすらも分からない、鈍く光を反射する鋼鉄の群。

 カシワギ博士が戯れに作ったアイテムに己の生存権を賭けるのは気乗りしないが、これしか手段がないのも事実。

 「「……あはっ、結構えげつないのね?」」

 今の話を信じたのかどうかは不明だが、白亜麻姉妹は共にベーゴマから距離を取るように動き、黒亀もまた高台に陣取る事を諦め移動の準備を始めたようだ。

 いくら怪人とはいえ、108つの爆弾を全て注意する事はできない。どれがひとつが無音で背後から迫ってくる可能性がある以上、いつでも逃げられる準備をしようというのだろう。


 しかしシルフィもまた、ベーゴマの操作と暴風壁の維持でそれ相応の体力は削られる。長時間の戦闘継続は不可能と見るべきだろう。

 なので、ここからは短期決戦。

 「さぁ……。一緒に踊りましょう?」

 そう言って、展開したベーゴマを一斉に放つ。

 時間制限付きの逆転の一手がどう転ぶか。


 戦場が再び動き出した。



 ◇



 シルフィが奥の手を出した頃。

 ノームは群青らとの近接戦闘の内でひとつ、新たな戦法を思いついていた。

 それは先の邪神戦線の折、ノーム達が怪人クラバットルに使用され苦戦を強いられた戦法。一対多という戦場において、簡単に手数を増やす手段。すなわち、

 「お願い、ノーム! ゴーレム召喚!」

 その言葉と共に足元のアスファルトが裂け、土と砂利と砂とコンクリートの塊が人型となって立ち上がる。

 それは全長2mほどの3体の土塊。顔がなく、足と腕の長さすらバラバラなそれらは、明確な意志を持って群青らに立ち向かう。


 「ほう、面白い事を考えるのう」

 「厄介と言うのだ、あれは」

 ノームと相対する群青は楽しげに嗤い、茜蜘蛛は忌々しげに顔を顰める。

 ゴーレムは斬られようが砕かれようが、そもそも土塊なので意味が無い。すぐにくっ付いて元通りとなる優れものだ。

 精霊ノームが全ての操作を行っているため、ノームの処理能力以上の働きはできないのだが、十分である。

 「これでようやく勝負になるかな」

 やられっぱなしでは終われないと思いついた戦法だ。

 シルフィの方も何かしら策があるようだし、何とかなるかもしれない。


 そう思っていた矢先の出来事だった。

 「動くな、小娘ども!」

 一発の銃声と共に、戦場に男の怒声が響き渡る。

 その場の誰もが動きを止め、何事かと見やる先。

 そこには、ジャスティス白井の男衆とソレに捕まったミチルの姿があった。



 ◇



 男は威嚇のために空に向けて銃弾を放った後、そのまま拳銃を捕まえた少女のコメカミへと押し当てた。

 「「ミチル!!?」」

 ブレイヴなんちゃらと名乗ったヒーロー達が少女の名を呼ぶのを聞いて、やはりこの選択は間違いではなかったと改めて認識する。

 「状況は……見りゃ分かるよな。人質ってワケだ」

 ブレイヴなんちゃらは先程まで聖色四天王と戦っていたようだが、どちらとも健在となるとそれなりに強いのだろうか。

 だがまぁ、それももう終わりだ。

 「動くなよ。目の前でオトモダチの脳みそが弾け飛ぶ様を見たくなけりゃあな」


 その言葉に、ふたりは歯ぎしりをしながらも従う気になったようで、空に浮いていたベーゴマは全て消えたしゴーレムも砂へと崩れた。

 順調過ぎて笑いが堪えられなくなりそうだ。

 「えー……。お主ら、仮にも正義の味方じゃなかったかのう? 人質なんて取って、それでええのか」

 折角楽しい気分だったところに、群青から言葉が掛けられる。四天王たちの顔は誰もが複雑な心境を表わすかのように顰めっ面で、こちらを非難しているようにも見えるが。

 「っせぇな怪人、勝ちゃいいんだよ勝ちゃ。黙って見てろよ」

 折角の勝ち確状況なのに、水を差さされちゃ堪らない。

 これからやる事を思って仲間まで引き連れてきたのだから。


 「ミ……その少女を離せ!」

 金髪の方が何やら騒いでいるが、手は出してこない。

 そりゃそうだろうな、ヒーローなんだから。

 「離して欲しけりゃ……分かってんだろ?」

 男は捕まえた少女の右耳へと銃口をねじ込み、捻る。

 その度に少女は身震いするように震えるのでとても楽しい。

 「へへっ……、そうだなぁ。お前ら、変身を解除してまずは全裸になって土下座でもしろや」

 まずは、というかそれが目的なのだが。

 ひん剥いてさえしまえば、後は仲間と共に遊び倒すだけでいい、

 あれだけの上玉を怪人に殺されては勿体ないと思っていたのだ。


 「な、なにを……!?」

 金髪の方が自らを淡く抱き締めるようにしている様を見て、男の愚息はもはや限界に近い。

 気の強いオンナを快楽に堕とすのが何よりも楽しいと、男は理解しているのだから。

 「チッ。さっさと脱げよノロマ」

 仲間達も既に限界だろう。奴らが言う事を聞かないのならば、この少女を使って分からせてやればいいだけだ。

 男はゆっくりと銃口を這わせ、少女の身体をなぞるようにして少女の太ももへと当てる。

 そして、

 「さっさと言う通りにしないと、こうだぞ?」

 男は躊躇いなく、引鉄を引いた。


 パンッと乾いた音が木霊する。


 ぐへへ……!

 それ用のゲームならシーン3つくらい埋まる(確信)。

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