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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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死闘! 聖色四天王! その2

 いつも通り投稿しようとしていたらメンテが入ったので一日遅れとなりました。

 前日までに書き終えられなかったのが反省点です。

 まず、戦闘の始まりを告げる音は風切り音であった。

 近接距離へと近付こうとする聖色四天王に対し、シルフィが双銃の掃射にて足止めを狙う音だ。そしてその音に混じり、時折音すらも置き去りにするような弾丸が飛ぶ。

 (『させないよ!』)

 「くっ……!」

 今も宙を行くシルフィに対し、心臓を狙う銃弾が放たれた。それは寸でのところで精霊シルフィによる風の防壁により進路を捻じ曲げられ、明後日の方向を穿ったが、一瞬でも遅れていたら間違いなく身体のどこかには命中していたであろう、精密射撃であった。


 「へぇ……。よく避けたね」

 風に乗った声が、シルフィの耳へ届く。

 それは少しばかり遠く、高台となっている檻の上。そこに狙撃銃と共に伏せる怪人の声だ。

 「聴こえている様子だから、自己紹介。ぼくは聖色四天王、玄の黒亀。狙撃手として、空はぼくの狩場でもある。……死ぬ時はなるべく一瞬で死ねるようにしてあげるから、変に気を張らないでいいよ」

 気のいいお兄さんのような優しい声色とは裏腹に、言っている言葉はこれ以上ないほど物騒だ。

 既に排莢を済ませ、スコープ越しにシルフィを狙うその威圧感は並々ならぬもの。何かの拍子に気を抜いたその瞬間には身体のどこかに風穴を空けられてしまうだろうと、容易に想像ができるほどに。


 そんな厄介者から叩きたいものだが、そちらへと目を向けようとする度に白の二重螺旋がシルフィの進路を塞ぐ。

 「「貴女の相手は私達。余所見をするのはやめてよ♡」」

 それは着物のような装束を身にまとった、両の扇子を得物とする双子の姉妹。

 彼女達はどういう理屈か空を蹴り、竹とんぼのようにクルクルと廻りながらシルフィの傍を付かず離れず滞空し続けていた。

 「私は虎の白姫」

 「私は虎の亜麻姫」

 「「私達は二人で一人。聖色四天王の紅二点」」

 彼女達はそう言いながらシルフィへと襲い来る。何が厄介かと言えば、姉妹それぞれが常にシルフィを中心に対称となる位置をキープしているせいで、挟まれる形から抜け出せない事だ。


 いくら飛んで回って、時にはアクロバティックな動きも織り交ぜているのにも関わらず、彼女達は常にシルフィの前後上下左右のどこかしらを挟む形で浮遊を続ける。

 「「無駄無駄。私達は絶対に貴女を逃がさない」」

 姉妹による挟撃と、黒亀による狙撃。空を自由に飛び回れるはずのシルフィが、いつの間にか鳥かごのように狭い空間の中へと追い込まれていた。

 「負けてなる……ものですかっ!」

 それでもなお、シルフィは翔ぶ。有り得ないと思っていたはずの、兄の言葉を胸に。



 ◇



 「シルフィ!」

 あまりにも一方的に近い空の戦いに、ノームは思わず声を上げた。

 絶対的優位であるはずの空で、あれほど頼りになっていた少女が一方的に押されているのである。

 手助けしてやりたいが、そんな雑念を隙だと言わんばかりに刃が頬を掠め、ノームは否が応でも目の前の相手を注視せざるを得ない。

 「そうだ、集中しな嬢ちゃん。でないとそんな細っこい首なんか簡単に切り落としちまうぞ」

 先程、手早く「朱雀の茜蜘蛛だ」とだけ名乗った怪人は、どっしりとした体型に似合わぬ素早さで偃月刀を振るう。


 更に、

 「最後はワシじゃな。聖色四天王がイチ、龍の群青じゃ。せめて楽しんでくれい」

 そう老怪人は呵呵と笑って、茜蜘蛛の攻撃の隙間を縫うように青龍刀による斬撃と鎖分銅の搦手を織り交ぜた攻撃を仕掛けてくる。

 その二人の猛攻はノームだけでは捌ききれず、精霊ノームが独自の判断で行う地形操作でギリギリ助かっているような状況だ。

 まさに怒涛。空の戦いが玉将を追い詰める詰将棋のようなものとしたら、こちらは速攻で獲物を仕留める猛獣の狩りのよう。

 力任せでも埋め難い差があると、そう言いたいかのようだ。


 「邪魔……するなってぇ!」

 ノームも負けじと反撃するが、勝負を焦って大振りな攻撃ばかりとなり当たる気配は無い。

 友のため、親友のため、戦友のため。あらゆる要素がノームから判断能力を奪い、焦りを生ませる悪循環。

 その様子を見て期待はずれだと気を落としつつも、一切手を緩める気のない群青と茜蜘蛛。

 戦士として存分に戦いたいという願いが叶えられぬまま、しかし仕事である以上は手を抜けないジレンマに苛まれながら、戦況は一方的に傾いてゆく。



 ◇



 少女はひとり、草陰に隠れて外の様子を探っていた。

 「なんなんだよぉ……なんなんだよぉ……」

 バスという安全圏からトイレへと向かい、戦場となった動物園に取り残された少女、ミチルである。

 彼女は怪人が跋扈する園内をステルスゲームさながらの緊張感を味わいながら、丁度よく落ちていたダンボールを被って歩みを進める。

 「! ……なんだ、アフリカハシリバコの亜種か。日本にもいるんだな」

 たまに怪人達に見つかる事もあるが、何かと勘違いしているのか自走するダンボールが当たり前のように扱ってくれるので回避はまだ楽な方だ。

 中にいるミチルからすれば、心臓が口から飛び出そうになるくらいにビビり散らかしているのだが。


 「もうちょっと……あと少し……」

 そんなステルスミッションもあと少し。もうすぐ動物園の出入口へと到着する。

 そうしたらダンボールを脱ぎ捨て、バスへと駆け出せば少しは安全なはずだ。

 先生や歌恋や楓達には怒られるかもしれないけれど、生きて帰れば丸儲けである。

 そう、バスまで辿り着けさえすれば、だ。

 「──ダンボールがひとりで歩き回るワケがねぇよなぁ?」

 そんな野太い声がして、ダンボールが剥がされた。


 「っ……!」

 瞬間、素早く身を起こし、手に握っていた土を相手の顔面に向けてぶん投げる。

 ダメージはないだろうが、目くらましにさえなってくれればいい。

 「ぶわっ!? ぺっ!」

 視界に入ったのは男がひとり。目くらましを食らわした相手だけ。それならば走って逃げることもできるはず。

 だったらと、ミチルは走り出す。

 一歩、二歩。三歩目を踏み出せば、後は加速を続けるだけ。

 逃げられる、そう思った。

 パンッと、乾いた音と共に銃弾が耳元を掠めるまでは。


 「ヒッ!?」

 恐怖に思わず身体が強ばり、脚からチカラが抜ける。

 もう、走ることはできない。立っているのがやっと。

 「こンのくそアマが……! 目と口の中に入ったじゃねぇか!」

 男は怒り心頭といった様子でミチルへと詰め寄る。

 怖い場所だと分かっていた。ずっと激しい爆発音や銃声が轟いていたのだから。それが背後に突きつけられてしまったら、もうダメだ。

 動けない。

 「この場で分からせてやってもいいが……。そぉだ、お前を人質にすればあの小生意気なメス共もたっぷり可愛がれるんじゃねぇか? けっへっへっ……」


 男はミチルの腕を掴み、首へ腕を回す。

 「さぁ行くぜ嬢ちゃん。君たちのだぁ~いすきな、ヒーローの下へ案内してやるよぉ」

 抵抗できないミチルはされるがまま。引き摺られるように、園内へと連れ戻される。

 時折胸元をまさぐるように動く銃口から漏れる、火薬の臭いに吐気を催しながら。



 ──未来は未だに、変わる事はない。

 なんとなく調べたら、銃口って一発撃った程度では熱くならないそうですね。

 季節によって変わるけど、速射とかワンマガジン撃ち切るとかしないとそう変わらないのだとか。

 熱を持った銃口で胸元を焼く、とかの描写もやりたかったのですが……。

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