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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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死闘! 聖色四天王! その1

 動物園での戦いが開始してからどれほど経っただろうか。

 迫ってくるクマ型の怪人にカウンターの一撃を浴びせながら、ブレイヴ・ノームは頭の片隅でぼんやりと考えていた。

 もう半日ほど戦っているような気がするし、一時間と経っていない気もする。

 倒した怪人の数は何体だろうか。

 数える程しか倒していない気もするし、数え切れないほど倒した気さえする。


 そんな、何もかもが曖昧になりそうな時間感覚の中で、不意に怪人達の輪が開かれた。

 (…………?)

 唐突な出来事に対して思考できず、そこでようやく脳ミソに酸素が届いていない事に気付く。

 (──はっ……)

 短く息を吐き、そして吸う。

 ずっと無酸素に近い状態で戦い続けてきた身体にようやく酸素が回り、同時にその分の疲労が身体を蝕む。

 先程まで軽快に動かせていた腕や脚が一瞬で鉛のような重さとなり、思わず膝をついてしまいそうになるが、我慢。

 未だに敵陣の真っ只中。怪人達の猛攻が止まったとはいえ、気を抜けば殺されかねない状況に変わりは無い。


 「……気を付けてノーム。どうやら幹部クラスが出てくるみたい」

 ノームの隣へと降り立ったブレイヴ・シルフィがそう告げる。その声は僅かにだが震えているが、それは恐怖によるものではなく疲労から成るものだろう。

 ノームが地を駆け回るのと同様に、彼女もまた空の上で縦横無尽に飛び回っていたのだ。

 視界の端に留める程度ではあったが、彼女の飛行方式は全身運動と言ってもいいほど身体を動かすタイプのもの。おそらくは羽根で推力を産み、全身でバランスを取っているのだろう。

 そんな神経を使うような戦い方をして、八方に気を配っていたらそれは疲弊する。


 (もっと私がしっかりしていれば……)

 ノームは己の不甲斐なさに憤り、ギュッと唇を噛んだ。

 もしも自分が日向先輩のように強ければ。もしも美月先輩のように多彩であれば。もしも……司さんのように、余りあるチカラと不屈の心を持ってさえいれば。

 そのどれもが足りない自分では、どうしても誰かに負担を押し付けてしまう。


 今だってそうだ。ノームが自分の身をきちんと守れていれば、シルフィはずっと空からの攻撃のみに注力できたはずなのだ。

 なのにノームのサポートという負荷を押し付けてしまっているから、彼女はこんなにも疲弊してしまっている。

 彼女のサポートが無ければおそらく、この戦いの中で2,3度は死んでいたかもしれないような危うい場面もあったのだから。


 「……そう嘆くな、ノーム」

 不意に、優しく髪を梳く感触がした。見れば、シルフィが敵を注視しながらもノームの髪へと手を伸ばしている。

 「未熟なのは私も一緒だ。互いに補い合えなければ生き残れないのだから、あまり自分ばかり責めるな」

 それは先程までのシルフィとは別人のような優しい声音。

 何故か聞き覚えのあるようなその声と、戦士らしからぬ柔らかい手の感触があまりにも心地よくて、思わず涙腺が緩みそうになってしまう。

 戦場だというのに、情けない。

 シルフィは自分の辛さをひた隠しにして、ノームを気遣ってくれているというのに。


 「……ふふっ、ありがと。もう大丈夫」

 しばらくされるがままにされた後、ノームは目尻を拭い、前を向く。

 戦いの疲れもあってかネガティブになりかけていたが、シルフィのおかげで立ち直る事ができた。

 今はとにかく生き残る事を考えようと、改めて拳を構えて敵を見据える。

 「………話は済んだかのう」

 そう、ノーム達へと声をかけてくるのは顎髭の目立つ老怪人。彼と四人の怪人が歩みを進める度、怪人達の包囲網に穴が空いていく。

 おそらく彼らが、シルフィの言う幹部クラスなのだろう。

 「ああ、待たせて悪かったな。………まさか、聖色四天王までジャスティス白井に従っているとは思わなかったが」

 シルフィの言葉に、四天王の面々が笑う。対してジャスティス白井達は渋い顔をしている事から、何事かの裏事情があるのかもしれない。


 聖色四天王は、シルフィが事前に北海道で注意するべき怪人を調べた際に真っ先に名前が上がったグループだ。

 リーダーである群青を筆頭に、どいつもこいつも凄腕の戦闘狂揃い。

 一般人に対して危害を加えたという情報は無かったが、代わりに戦士が相手ならば正義も悪も関係なしにぶちのめしに来るという厄介な存在であるとされていた。

 戦いこそが生きる糧だと豪語する彼らに、北海道を拠点とするヒーローや悪の組織が何度も辛酸を舐めさせられてきたらしい。

 万が一遭遇したら怯えるフリをして全力で逃げろと、冬眠前のクマ同然の扱いをされている危険な者たちである。


 「いやなに、我らは戦場(いくさば)さえ用意してくれれば助力くらいはしてやると言ってやったまでよ。本当なら名義貸し程度で働いてやる気なんぞ無かったんじゃか……」

 清々しいまでにぶっちゃける老怪人に対し、ジャスティス白井の面々はご立腹ながらも文句を言えずにいるようだ。力関係が分かりやすい。

 老怪人は周囲を見渡した後、苦笑と共に首を振り、

 「これだけの怪人を前に一歩も引かん勇者なんじゃ。ワシらが出ない理由はないわい」

 そう言って、嬉しそうに笑った。

 強者と相見えたい、という欲望にのみ従う彼らには、正義の事情も悪の事情も関係ないらしい。


 「というワケでお主ら、この少女らは今からワシらの獲物じゃ。邪魔だからさっさと散れ」

 周囲で突っ立っていた怪人達に辛辣な言葉を投げ、老怪人達は返事も聞かずに前へと歩み出る。ジャスティス白井の面々が何かしら叫んでいるが、もはやそれすらも馬耳東風。聞く耳を持たないとはこの事だ。

 しかし、ノームの不安は別のところにある。

 「ねぇシルフィ、どうしたらいい? ここで怪人達が散ったら、バスの方にも行っちゃうよね?」

 そう呟いた言葉通り、ノーム達の目的はここで怪人達を足止め、または殲滅であった。

 四天王と呼ばれる強者を前にして他の怪人達の相手もできると言えるほど烏滸がましくはないが、野放しにさせてはいけない者達である事は間違いない。

 かといって、打てる手は全て打ち尽くした後なのもまた事実。


 謎の集団からの援護はあったが、それも足止めがせいぜいで怪人を倒すには至っていない。

怪人達にもそれぞれの目的はあるはずだから、あまりバスに固執しない可能性もあるが、それでもどこかしらで被害は出てしまうだろう。

 今だって既に襲われているのかもしれないが、助けに向かうことはできない。

 弱い者に選べる選択肢はあまりに少ないのだ。

 「………必ず、助けがくる」

 不意に、シルフィがそう呟いた。

 「………根拠は?」

 「ない」

 「ないんだ……」


 ただの希望的観測に過ぎない呟きだが、何故かそこに不安や絶望感などは感じない。

 何か……信じられる何かがあって、ただそれを待っているような。そんな印象をノームは受けた。

 「最後まで諦めるな、か」

 それは歌恋と楓が三國先生から掛けられた言葉だ。

 何を以てそう言っていたのかは分からないが、何かがある可能性はある。

 ならばそれを信じて、戦い抜こうではないか。

 「木っ端の怪人は他の人達に任せて、ボク達は敵の主力を足止めできると考えようか」

 物は言いよう。まさに屁理屈だが、どの道選択肢は無いに等しいのだ。

 ならば、せめて生き残れる道を模索するべきだろう。


 「……よし、やろうシルフィ!」

 ノームは息を調え、両の拳を打ち合わせて身構える。

 敵は強いが、怯えてばかりではいられない。

 「ふん。せいぜい足を引っ張るなよ、ノーム」

 シルフィもまた宙へと上がり、得物を構えると同時。

 「では、手合わせ願おうかの」

 老怪人の呟きと共に、聖色四天王が同時にノーム達へと襲いかかってきた。

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