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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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されど正義は悪と踊る その5

 動物園内での激戦は続く。

 それは主に射撃戦であり、時折弾幕を抜けて怪人達が中心部へとたどり着くか、または戦場より離れて他所へと離れるか。その二択を迫る戦場であった。

 戦場はドーナツ状で膠着しており、中心部と円外部から多種多様な攻撃が怪人達を狙い、それに対して怪人側からも消極的な攻撃が飛ぶ、といった様相である。

 「進めーッ! あの悪人共を蹴散らすのだーッ!」

 戦況としてはやや劣勢ながらも、怪人達の中から時折飛ぶ怒声はまだまだ闘志を失ってはいない。怪人達を盾にしながら人間……ジャスティス白井のメンバーが偉そうにふんぞり返って命令を下しているのだ。

 アホだの役立たずだの、ただの罵声の方が多くはあれど、怪人達がそれに対して反抗することは無い。


 一応今回は彼らも雇われの身。負けそうだったら逃走を選べる戦場ならば、無駄に味方内でギスギスするよりもいざという時に見捨てた方が利口である。それが一部の武人型怪人を除いた者達の共通認識だ。

 まぁ怪人達も同じ組織の所属というワケではなく、多数の組織からの寄せ集めなので、互いに組織のメンツやら何やらと絡んでくるのでなかなか下手を打てないという事情もある。

 怪人達の誰もジャスティス白井を信用してはおらず、命令に従っているフリをしているだけ。ジャスティス白井のメンバーもまた怪人を使い捨てのコマ程度にしか考えていないので、どっちもどっちという話ではあるのだが。


 ◇


 「はてさて、どう死合ったもんかのう……」

 そんな裏事情なぞ全て知った上で楽しそうにそう呟くのは、先程言った一部の側。戦えさえすればなんでも良いとする武人型怪人のひとり、群青である。

 彼は顎髭を撫でながら、じっと戦況の観察を続けていた。

 地を操るブレイヴ・ノームと、空を翔けるブレイヴ・シルフィ。この両勇者に挑み、勝つための算段を付ける為に他の怪人達を捨て石にしていると言ってもいい。

 互いに利用しあう仲なのだし、気にする方が野暮だというのが群青の理屈である。

 「あー、しかし。背高ノッポばかりでよく見えんのう」

 群青の目の前には未だに多くの怪人達が並び、ノーム達と死闘を繰り広げている。その誰もが長身巨躯の猛者揃いが故に、年月と共に腰の曲がってしまった群青では視界が塞がれてしまうのだ。


 この際もっと高いところから観察しようかと辺りを見回し、丁度いい位置にあった檻の上へと飛び上がる。

 中心部からは少々離れてしまうが視界は良好。シルフィとノームを同時に観察できるベストスポットであった。

 「どうだい、オジキ。見込みはありそうかい」

 群青が檻へと着地したところで、そう声が掛けられた。

 見れば、群青の他にも怪人が三体、檻の上へと上がってきている。

 「なんじゃいお主ら、もう集まって来よったんか」

 「呼び付けたのはオジキじゃねぇか」

 群青の言葉に苦笑しながら答える怪人。彼らもまた群青と共に研鑽を積んだ仲であり、先程声掛けを頼んだ者達だ。

 どいつもこいつも戦いの中で死にたいと願う、生粋の武人である。


 彼らは群青と横並びになるように立ち、共に戦場を俯瞰する。

 群青らにとっては昔からやっている事だ。四人で並んで高台に立ち、戦況の推移を見定め、効果的なタイミングで強襲する。それが彼らの戦い方であった。

 「どうなんだいオジキ。死合いになりそうかい」

 自らの腰にぶら下げた瓢箪を手に取り、その中身を口に含んで己が得物たる偃月刀へと吹きかけながら、先程の怪人が群青へと問う。

 うわ、という声と共にひとり飛び退いたが、気にしない。

 「ほう、珍しいのう茜蜘蛛。お主が酒を呑まんとは」

 その様子を見て群青が笑った。普段の彼ならば戦場ですら平気で酒を呑み、酔えば酔うほど暴れ回ったというのに。

 「いやさ、童女相手にすんのに酒臭かったら嫌われるだろうが」

 茜蜘蛛は真面目な顔でそう言い放ち、手頃な布がなかったのか自らの服の袖で刃を拭う。


 「「うそっ、今更そんなの気にしてたの?」」

 そんな彼らしからぬ言動に驚いて、同じ言葉を重ねたのは双子の姉妹、白姫(しろひめ)亜麻姫(あまひめ)。彼女達はお揃いの鉄扇で酒気を払いながら、友の意外な一面に笑みを浮かべる。

 「なんでい、気にしたら悪いか」

 流石に気恥しいのか、茜蜘蛛はぶっきらぼうに言い放つと瓢箪を掲げ……口を付ける前に栓をした。どうやら前言撤回だけは避けたらしい。

 「「どうせ気にするなら、私達と居た時にも気にして欲しかったわ」」

 白亜麻姉妹が笑いながら茶化すように言うが、茜蜘蛛はそれに対しジト目を向け、

 「うるせぇ。お前ら俺以上に飲兵衛のくせにカマトトぶるなよ」

 そう言って瓢箪を放った。

 「「あらあら、心外ねぇ」」

 姉妹は不満げな顔を浮かべてはいるが、放られた瓢箪を難なくキャッチするとすぐに栓を開けて一口、二口。

 姉妹揃って回し飲みを始めてしまった。


 そら見ろと言わんばかりの表情を浮かべる茜蜘蛛と、気にした様子もない姉妹。そのやり取りを横目に見ながら、群青は最後のひとりへと向き直る。

 「さてと、黒亀。お主は奴らをどう見る?」

 黒亀と呼ばれた怪人はその声に応えるように眼鏡をくいっと上げると、己が得物である狙撃銃をくるりと回してノームを指した。

 「バ火力、単調、右利き。疲労は左脚と首と目。右側から後ろに回られると対応に遅れる。ちょっと苦戦するかも」

 そして次はシルフィ。

 「飛べる、手数が多い、低火力。疲労は背中と両腕と……頭、というか思考? 気を張り過ぎてもう同時に物事を対処しきれなくなってる。挟み込む事を意識しながら戦えば楽勝」

 と、端的にそう述べた。

 黒亀の観察眼はこの中の誰よりも正確で、その眼と一流の狙撃手としての腕を併せ持った彼は暗殺業務を主とする凄腕の仕事人。

 彼の見立て通りならば、いくら天地を制したヒーローが相手でも活路が見いだせる。


 「ほっほ。皆やる気があって何よりじゃの」

 群青は好々爺の如く笑いながら、それぞれの顔をもう一度見回す。

 自分を含めて、この中の誰がいつ死ぬか分からないのがこの業界だ。それは今日かもしれないし、今日じゃないかもしれない。だから最後まで悔いのないように、やりたい事は全力でやるのが群青のモットーであった。

 「……ならば、ゆくかの」

 誰の顔にも悲壮感や不安がないのを見て取って、群青は改めて得物たる青龍刀を持ち、空へと掲げる。

 続くように茜蜘蛛が、白姫・亜麻姫が、黒亀が得物を掲げ、同時にそれらを打ち鳴らす。

 『我ら、聖色四天王。今こそ此処に戦いを捧げ、生命の欲するがままに生涯を遂げん。戦士達の魂に、安寧の在らんことを』

 それは彼らの戦いの前の儀式のようなもの。

 宗教というものではないが、戦いの末に身に付いた習慣のようなものだ。

 そしてそれを経て、彼らはニンマリと笑うのだ。

 最後に思い出す友の顔は笑顔がいいから、と。


 彼らは往く、勇者達の下へ。

 たとえそこが死地になろうとも。

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