されど正義は悪と踊る その4
チーム:ギャラハッド対地風のブレイヴ・エレメンツの対決は、ややブレイヴ・エレメンツ有利に進んでいた。
「ガイア・スパーイク!」
ノームがその拳で地面を殴ると、その直線上に何本もの土の槍が乱立して怪人達を襲う。それは一本一本が成人男性ほどの大きさをしており、避けきれなかった怪人達は貫かれるか上空に吹き飛ばされるかの二択となる。
そして、足場のない空中に投げ飛ばされてしまえば怪人に対抗する術はなく。
「さぁ、独楽のように廻るといいわ!」
シルフィによってその怪人達は四肢が千切れ飛びそうなほど強力な小型竜巻へと晒され、そのまま手裏剣のように他の怪人へと投げつけられる。
当たって的ごと砕ければヨシ、防がれても再起不能になってさえいればヨシ。
更には上空から双銃よる掃射も相まって、火力はなくとも手数は十分。
天地を司る戦士達を前に、チーム:ギャラハッドの面々は攻あぐねているのだ。
「こなクソ!」
とある怪人が猛攻の中を抜け、前へと躍り出る。
彼は所属している組織の中でも槍の名手として知られた勇士。乱立する土の槍を蹴り、槍を廻して竜巻を相殺し、素早くノームへと肉薄して自慢の槍を振るう。
「セイッ!」
渾身の一突き。その穂先は確実にノームの顔面を捉え、惨たらしく殺害する……はずだった。
「──残念。ハズレ」
刺突の瞬間、不意にノームが視界の下へとスライドし、穂先は彼女の髪先を切るに留まった。
理屈は単純。ノームの立つ地面が丸ごと陥没し、尚且つ突き出した穂先が風の壁によって若干逸らされたからだ。
それによって穂先は空を突き、必殺を直感した怪人の身体は既に伸び切ってしまっている。今から槍を戻したところで、ノームの放つ一撃には間に合わない。
「見事!」
怪人はせめて武人らしくと、相手に賞賛の言葉を送り、その直後にノームの強烈なアッパーを喰らって砕け散った。
「……嘘だろ、あのショウジュウさんが一撃で?」
「大雑把に見せてたのもフェイクか。こりゃ本腰入れないと全滅するぞ」
先の怪人と同じ組織にいた者達は今の惨状を見て警戒を露わにし、それに倣ってか他の怪人達も一度攻撃の手を緩めてノーム達から距離を取り始める。
少しばかりの静寂。チーム:ギャラハッドに立て直す時間を与えてしまっているが、立て直しが必要になるのはブレイヴ・エレメンツもまた同じ。
「どう、ノーム。まだ、やれる?」
羽根を畳み、ゆっくりとノームの隣に立つシルフィ。
表情はバイザーによって隠されているものの、冷や汗を拭う余裕はない。
「……ふふっ。まだ、まだいけるよ」
ノームも同様に、震えそうになる膝を叩いて気合いを入れる。
ふたり共まだ、能力の酷使による負荷に慣れていないのだ。対多数戦の経験が少なく、スタミナを鍛える時間が足りないふたりでは、最初の競り合いの時点で既に息が上がってしまっている。
これがまだ、ひとりでも経験者がいればチカラの配分について言及してあげる事もできただろうが。それがない今は、ふたり共全力で叩く事しかできずにいる。
小休止を挟んだ後こそが本番なのにも関わらず、だ。
なればこそ、辛い戦いになるだろう。
それでもふたりに逃げるという選択肢はないのだ。
◇
「……ふむ?」
怪人達がそれぞれのやり方で気を引き締める中、ふたりの勇者の様子に気が付いた者がいた。
白く長い顎髭を生やした、青龍刀を背に負った怪人である。
彼の名は群青。悪の秘密結社:ナイトオブタケショーに所属する年配の怪人で、此度の騒乱では本気の戦いができるものと思って参戦した、根っからの武芸者であった。
彼の者は自慢の顎髭を撫で、傍に居た同僚の肩を叩く。
「おい。気が付いたかの?」
肩を叩かれた怪人は欠伸を噛み殺しつつも勇者の様子を見、合点がいったように頷いて。
「──なるほど。仕掛けるか?」
主語をすっ飛ばして、問う。
それに対して群青は首を振り、
「もう一当てした後かのう。我ら四人で掛かれば……」
そう呟いた。
なら声を掛けてくるわと、もう一方の怪人は人混みを掻き分け姿を消した。彼もまた武人であり、同胞もまた言わずもがな。おそらくふたつ返事で了承するだろう。
これから起こるであろう戦いに、群青は好戦的な笑みを浮かべ、もう一度勇者達へと視線を向ける。
視線の先では、気丈に振る舞いながらも既に限界が見え隠れしているふたりの少女がいる。
彼女達は決して弱くはないが、ペース配分というものを知らないのが不幸であった。
「可哀想にな。まだ若い芽じゃろうに、もう摘まねばならんとは……」
できればサシで、互いに万全な状態で挑んでみたかったと群青は思う。しかし、今は結社としても大事な仕事の最中。私情を挟んではいられないのだ。
「許せよ、戦場の華達。勇者等にならねば、まだ人としての幸せがあったろうに」
群青は彼女達を想い、手向けと言わんばかりに一筋の涙を零した。
◇
小休止の後、怪人達が動き出そうとするのを見てシルフィがまた宙へと舞い上がる。
宙から見る怪人達の群れはノームとシルフィを囲むように展開しているが、よくよく見ればそれにも層が存在しているのが分かる。
一層目には好戦的な怪人達。ギリギリ、シルフィ達の射程の外に展開しているが、突撃のタイミングを今か今かと待ち構えているようにも見える。
二層目は怪人と人間の混成部隊。主に遠距離武器を携えている人間が怪人達をサポートするように展開している。
三層目……というか、ここまでくると最早層とは言えず、そのほとんどが園内に仕掛けられているセントリーガンやスナイパーへの対処等を行っている。
シルフィ達以外にも戦っている者達は居るのだ。負ける訳にはいかない。
「さぁーて、休憩はおしまいだぜ、お嬢様がた?」
怪人のひとりが改まったような口調で言う。
おそらく、次の戦闘でシルフィもノームも限界を迎える可能性が高い。だけれどもそれは、逃げる理由にはなりはしないのだ。
(最後まで、諦めない)
ふたりの人物から掛けられた言葉を胸に、シルフィは己の得物である双銃を握りしめ、再び飛翔した。