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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
240/386

されど正義は悪と踊る その3

 あけましておめでとうございます。

 今年も『悪の組織とその美学』をよろしくお願い致します。


 ウラバナシの方にも小話を投稿しておりますので、良かったらそちらもお読みください。

 この場に揃った役者が名乗りを終えて、戦士達は己の信念の為に得物を構える。

 つかの間の静寂。

 「ひとつ、聞きたいんだけど」

 その静寂を利用しようと、ノームがシルフィへと声を掛ける。

 「悪堕ち? したとはいえ、今は味方と見ていいんだよね?」

 それは確認の問い。元は同じブレイヴ・エレメンツとして共に戦ってくれるのかと、そういった問いだ。

 それに対しシルフィは軽く鼻を鳴らし、

 「コイツらはダークエルダーの敵だ。むしろ貴様が手伝う側なんだよ。……私の邪魔をしなければコチラも邪魔をしない。それでどうだ?」

 と、逆に問うた。

 「ん。それでいいよ」

 ノームはそれに拳を打ち鳴らして答え、楽しそうな笑みを浮かべる。


 シルフィとしては元々共闘のつもりであったが、一応悪堕ちした(ブレイヴ・エレメンツとしてダークエルダーに所属していては体面が悪い為)という設定を守るためにこういった役作りをせねばならないのだ。

 服の色すら契約している風の精霊に無理を言って変更してもらっているだけなので、内面的にも特に何が変わったわけではない。

 全ては組織の幹部たちのこだわりあってこそである。

 面倒くさい、というのがシルフィの本音なのだが、それはそれとして。

 「ここのヒーローはお前達ふたりだけか……。お前らさえ倒してしまえば、我々ギャラハッドの仕事を邪魔する者はいないというワケだ。悪く思うなよ小娘ども」

 そう怪人が言う。舐められているのだ、というのはシルフィ達にも分かる。この業界では知名度がイコールで強さと結びつく為、まだまだ新人であるふたりではそれも仕方なかろう。

 経験不足のままなのも自覚しているが、だからと言って舐められっぱなしというのも癪に障る。


 「悪いけどお兄さん方。ボク達も負けてあげるワケにはいかないんだよね」

 友人達を守る為に。動物達を守る為に。日本の平和を守る為に。

 彼女達はその想いを胸に、敵の前へと立ち塞がるのだ。

 「いざ!」

 「勝負!」

 チーム:ギャラハッド対、地風のブレイヴ・エレメンツ。

 人のいない動物園という舞台で、両者は激突した。



 ◇



 一方その頃、駐車場では既に戦闘が繰り広げられていた。

 「うおおぉぉぉぉぉ!」

 様々な凶悪トラップが仕掛けられ、銃弾が飛び交う中を怪人が持ち前のタフネスで突破する。

 目指すは子供が乗っているであろうバス。現状ではあれが()()の弱点であり、それさえ抑えてしまえば抵抗はなくなるはずだが、

 「やかましいぞ、キミ」

 バスの前に立ち塞がる、真っ赤なマントを羽織ったマスク姿の女傑がそれを許さない。

 その女傑はあろう事か、道路標識を二本引き抜いて双槍のように扱う事で武器としていた。

 一般人ならば持ち上げるだけでも大変なそれを軽々と、だ。


 せっかく死線を乗り越えた怪人も、その女傑により文字通り叩き潰される。『一時停止』と『一方通行』の標識により再起不能となった怪人は既に5体。ヒーロー級の戦力でなければ倒せないはずの怪人達を、その女傑は軽々と片付けてしまっていた。

 「くそっ! なんなんだあのゴリラは!?」

 部隊のひとりがボヤくが、その答えを示せる者はいない。

 ただ、その声が聞こえたのか。女傑は軽い仕草で標識を持ち替えると、投槍のようにそれを投擲。ボヤいた者ごと周囲のコンクリを爆砕した。

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 飛び散るコンクリ片と肉片。幸いな事に飛び散ったのは衝撃をモロに受けた怪人だけで、人間の破片だけは飛び散っていないようだ。

 子供に見せるには刺激が強過ぎる。

 「ゴリラとはなんだゴリラとは。これでもまだ未婚の二十代だぞ。言い方に気を付けたまえ」

 しかしそんな事はお構い無しに、女傑は己の憤慨の理由を告げる。

 怪力持ちとはいえ乙女は乙女。傷付き安いお年頃なのである。


 「くそっ! お前らここは引くぞ! ここで戦力を消耗し過ぎてもいいこたぁねぇ!」

 「覚えていろ怪力女ァ!」

 「やる事やったら後でぜってー叩き潰してやるからな!」

 「せいぜいそれまで怯えてろゴリぷぎゃっ」

 「親方ァ! ジョニーナンデンが死んだ!」

 「このひとでなし! ゴリめきゃっ」

 「親方ァ! 今度はジョニーマンデンがコンクリ片の餌食に!!」

 「ひでぇことしやがるぜあの(アマ)ァ……! このゴひでぶっ!」

 「親方ァ! ジョニーカイデンまでやられちまったよ!」

 「挑発するからだクソッタレ共が!」


 元々は愉快な漫才集団か何かだったのだろうか。

 気を付けろと言った傍から誹謗中傷が激しいので、とりあえず禁句を言った奴から潰してやったが、それなりの数が動物園を離れ、市街へと駆けて行った。

 おそらく本来の目的があってそちらを優先したのだろうが、市街の方が戦力が充実しているはずなのでここは見逃しても問題ないだろう。

 女傑の使命は生徒の安全を確保する事。決して敵を殲滅する事ではないのである。

 「あの~……」

 周辺がようやく落ち着いたからか、生徒のひとりが窓を開け、女傑へ向けて声を掛ける。

 「もしかして、みく……」

 「違う」

 あまりにも素早い即答。女傑とて変装している以上は正体を隠さねばならない。それが世界の真理なのだから。


 「──私は、そうだなぁ……。んー………。そう、私は『マスク・ザ・雪まつりウーマン』。通りすがりのヒーロー見習いだ」

 苦し紛れに、その辺にあったポスターの文字を丸パクリした適当な名前だ。生徒達も先生方もどうリアクションしていいか困惑してしまっているが、名乗った以上はこれで押し通さねばならない。

 「いやでも三國せんせ」

 「マスク・ザ・雪まつりウーマン」

 「みくに」

 「マスク・ザ・雪まつりウーマン」

 「みく」

 「マスク・ザ・雪まつりウーマン」

 「ミクミク」

 「田中、お前は後でこの怪人の肉片フライを喰わせてやるから覚悟しろ」

 「ヒィッ!?」


 最後まで締まらない感じが続いたが、とにかくバスへの襲撃だけは防ぐ事ができた。後は……。

 (頑張れよ大杉、土浦。アイツがたどり着くまで、諦めるんじゃないぞ……)

 マスク・ザ・雪まつりウーマンは心の中で、未だに戦っているであろうふたりへと密かなエールを送るのであった。


 ……有言実行の為、怪人の新鮮な肉片を集めながら。



 ◇



 「……? なんか外が騒がしいような……」

 動物園内の隅っこに設置されたトイレに籠った少女はただ一人、ぼんやりとしながらスマホの画面を眺める。

 流石に置いていかれたりはしないだろうが、自分が居ない事が発覚すれば連絡くらいは入るはずだ。しかしそれが無いとなれば、少々不安にもなる。

 というかよく見たら圏外となっていた。

 「急ぐべきか、な?」

 既にバレていて捜索隊なんかを編成中であったら大事だ。叱られるどころじゃ済まなくなる可能性もある。

 「ミクミク、恐いもんなぁ……。よし、こっそり帰ろう」

 少女は不安に駆られながらも、急いで準備を済ませてトイレを出る。

 そこは既に戦場であると知らぬまま。

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