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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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されど正義は悪と踊る その2

 某月某日、日本時間にて12時ちょうど。

 彼らは一斉に日本各地へ出没し、高々と声をあげた。

 『我らは正義の使者。悪の組織ダークエルダーを倒す者なり』

 それはジャスティス白井という組織を母体とした、中小悪の組織達の寄せ集め集団。

 彼らは一貫して、ダークエルダーに対する反乱を主張する。それがもしもただのデモ行進等であれば、民衆は煩わしく思いながらも生ぬるい目で見送っていただろう。

 しかし彼らは、あろう事かダークエルダーとは無縁の、直接関係のない者たちへと銃を向けた。

 『ダークエルダーの作ったこの社会にて、我らに賛同しない者は(ことごと)く“悪”である。君達が悪ではないと証明したいならば、今すぐ反乱に加われ』と、そう言い放ったのだ。


 方向性を見失った過剰な正義は悪と同義であると、自ら示すような行為である。

 民衆とて生活があり、仕事があり、家族がある。そんなホイホイと反乱に加わったりなんてできるはずがない。しかし彼らはそれを許さない。いくら説明しようとも、悪として断罪すべしという態度を崩そうとしないのだ。

 すっかり困り果てた民衆。そこにふと、影が差した。

 「待てい!!」

 そう声をあげたのは、全身黒タイツの集団を背後に連れた色とりどりの怪人やヒーロー、筋骨隆々な政治家や地方のマスコット達。

 ダークエルダーの戦闘部隊と正義の味方が手を組んだ、現時点での日本の最大戦力である。


 「己の正義に溺れ、道を見失った哀れなもの達よ。我らが成敗してくれる!」

 ヒーロー達は口々に名乗りをあげ、自称正義の使者達へと向かって拳を振るう。

 後に“ジャスティス白井の反乱”と呼ばれる、今世紀最大級の戦争が開始された。



 ◇



 同時刻、北海道のとある動物園でも同じような集団が地下より現れた。

 「ジャ──」

 「待ちなさい!」

 しかし彼らが名乗るよりも早く、その言葉を遮る者がいる。

 「決して揺るがぬ大地の如く! 並み居る悪を殴り飛ばす!  怒涛なる大地の戦士! ブレイヴ・ノーム!!」

 それは彼女の、ヒーローとして上げるべき名乗り。これから貴様達を血祭りに上げる者の名だと、そう示すための行為だ。しかし、

 「………」

 しん、とその場の全ての者が静かになった。

 それもそのはず。あろう事か彼女、ブレイヴ・ノームは相手の名乗りを遮った挙句、問われもしないのに己の名乗りを上げきったのである。


 本来ならば悪の組織とヒーローの名乗りとは一問一答形式。

 何奴と問われて名乗るか、自ら名乗るか等の違いはあれど、相手の名乗りを遮ってまで己の名乗りを優先していい道理はないのだ。

 業界の暗黙のルールを破った者に対し、誰もが皆、困惑や怒りを覚えており、どうしたものかと反応に困っているのである。

 「……え、あれ?」

 この反応はノームも予想していなかったのか困り顔。

 彼女はヒーローとしての経験が浅く、邪神戦線で変身した以降は時折サラマンダー達にくっ付いて数度戦闘を経験したくらいである。

 暗黙の何某か、なんて言われても知らない物は守れない、ドのつくほどの素人なのだ。


 騒がしくなるはずの戦場(ただの動物園)が不気味なまでの静けさに包まれていた、その時。

 「……一体何をしているのだ、貴様らは」

 そんな状況を見るに見兼ねてか、ひとりの少女が上空から舞い降りた。

 「何もんだテメェ!」

 空から謎の美少女の登場に沸き立つ男達。

 少女は彼らを一瞥し、無言のままノームの側へと着地する。そして、

 「人に名を訊ねる前に、まずは自分らから名乗ったらどうだ?」

 そう言い放った。


 「ああん!? 生意気な娘だが、聞かせてやるよォ!」

 口調は悪ぶっているが、彼らは少しばかり嬉しそうに乱れた隊列を整え始める。

 何事も始めが肝心だ。歴史の転換期になるような大掛かりな行いほど、最初の名乗り上げというものが大切になる。

 古事記にもきっとそう書いてあるはずだ。多分。

 「見ろノーム。お前が彼らの出鼻を挫いたせいで、おそらく当初よりも大仰な名乗りを上げねばならないと気合いが入ってしまっているではないか」

 そうやって彼らが準備を整えている間、少女は手持ち無沙汰な為にブレイヴ・ノームへと声を掛ける。ノームは一連の流れに着いていけていないのか少々唖然としているが、話し掛けられてようやく正気に戻ったのか、少女の方へと振り向いた。


 「えぇっと、あのぅ。貴女はもしかして、シル……」

 「待て待て」

 名乗りの前に少女の名を呼ぼうとするノームに対し、少女は慌てて待ったをかける。

 「ノーム、お前はこの流れを何度ふいにするつもりだ」

 先程、彼らの名乗りを遮って空気を重くしたばかりだというのに、ノームは全く理解していなかった。

 ニチアサやそういう類に触れる機会のなかった者ほど名乗りという行為を軽視する傾向にあるが、争いや戦闘において相手の所属や立場をハッキリさせるのは重要なのだ。

 そして何より、これから倒す相手に失礼なのだと少女はノームに言って聞かせる。

 まぁそれはとある特撮オタクの受け売りであるのだが、間違った事は言っていないはずだ。


 「あー、そうなんだ。悪いことしちゃったなぁ……」

 と、ノームにようやく反省の色が見えた辺りで彼らの準備もできたようなので、少女は改めてそちらを見やる。

 「待たせたな」

 隊列を整えた彼らはずらっと広場に勢揃い。見映えのいい怪人達を前に出し、防具を揃えた人間体達は不承不承ながらも横へと並んで武器を立てる。

 今一度問おう。

 「さぁ、お前達は何者だ?」

 少女の声に答えるように、彼らの輪からひとりの男が歩み出る。

 きっと彼がこの集団のリーダーなのだろう。

 男は儀礼用の剣を振りかざし、声高に叫ぶ。

 「我らはジャスティス白井とその支持者達! 日本という国を蝕む、ダークエルダーに反旗を翻す者なり! そして、我らに与えられた名は……!」

 男はそこでタメを作り、後ろで怪人達が見事な組み体操を披露した後、

 「チーム:ギャラハッド!」


 どーん、と彼らの背後で演出の爆発が起き、周囲の動物達が騒ぎ出す。ダークエルダー製のシールドに守られているとはいえ、少々不憫だ。

 ドヤ顔で5秒ほど経ったのち、リーダー格の男は少女を呼び指し『次はお前の番だ』と煽る。

 様式美を語ったのだから、やらねばなるまいと。

 少女は恥ずかしさに若干顔を赤らめながら一歩前へと踏み出し、大きく息を吸う。

 「よろしい! ならば聞かせてやろう!」

 ふわりと中空に身体を置いて、得物の二丁拳銃をその手に持ち少女は叫ぶ。


 「吹けば四方に狂風(くるいかぜ)。凪に臨むは八方の(しるべ)

 少女は手に持つ拳銃を打ち鳴らし、暴風を撒き散らしながらその風に口上を流す。

 「悪に堕ちた舞風の戦士。我が名は、シルフィ・ノワール!」

 そう、少女の姿はブレイヴ・エレメンツの物にあらず。

 黄緑色を基調としていたそのフリルワンピースは様相を変え、目元を隠すバイザーと同色の、黒に近い深緑色へと変化している。

 いかにも悪堕ちしましたと、誰の目にも明らかに映るその姿。

 彼女こそが今のカレンの変身した姿、シルフィ・ノワールなのである。


 今ここに、この場に揃うべき役者達が名乗りを終えて。


 結末の見えている闘争が始まろうとしていた。

 2022年もあと少し。

 今年も今作を御愛読頂きありがとうございました。


 来年にはどうにか完結まで書けたらなぁと考えております故、翌年もどうかよろしくお願い致します。

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