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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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されど正義は悪と踊る その1

 駐車場から離れたカレンは素早く木陰へと隠れると、人目の無いことを確認してからブレスレットを取り出し、装着した左手首を宙へと掲げる。

 「シルフィ、いますか?」

 それは相方に問い掛ける声。その声に答えるように、ブレスレットの中からふわりと小人が飛び出した。

 『よーやくオイラの出番かい、ゴシュジンサマ?』

 涼風に四枚の羽を靡かせて、ニヒルに笑うは小人型をした風の精霊シルフィ。修学旅行という事で長らく隠れてもらっていた、カレンの大切なパートナーである。

 「本当は出番なんて無い方が良いのですけれどね……」

 待ってましたとばかりに出てきたシルフィに対し、カレンは自虐的な笑みを浮かべてそう返す。

 シルフィのチカラが必要な時とは戦闘を強いられる時だ。ダークエルダーとしての勤務時間中ならまだしも、今は学徒としての旅行中。出番がない方がいいに決まっている。


 『まぁ、ね。でも貴重な戦闘経験を積める機会なんだ。戦士として大事なコトなんだよ』

 シルフィは宙でくるりと一回転。その整った顔をカレンに向ける。

 どうやらカレンがシルフィと契約してから、訓練以外でマトモに戦闘を経験していない事を憂いているらしい。

 この戦闘を糧にしろと言いたいのだ。

 「経験なんて簡単な言葉を使いますけど、この戦闘ではみんなの生命が懸かっているかもしれないんですよ……?」

 カレンは戦士として戦うのが嫌というわけではない。兄と肩を並べて戦ったあの日から、チカラを振るう事に忌避感はないのだ。

 だけど、どうしても手が震えてしまう。

 それは自分が死ぬのが怖いからなのか、友人達が傷付けられるのが怖いからなのか。

 未熟なカレンにはまだ分からない。


 『戦士の戦いに誰かの生命が懸かっているのなんて当たり前じゃないか。闘技場の剣闘士じゃあるまいし』

 シルフィが言うことは正論なのだが、なんだか達観しているというか、価値観がカレンとは違う感じがする。

 精霊と人間では生き方がそもそも別物なので当たり前かもしれないけれど。

 「………分かってます。やります、やりますよ」

 カレンは震える手で己の頬を叩き、口の中で小さく一度だけ、人の名前を転がした。

 そして。

 「──行きますよ、シルフィ! ブレイヴ・エスカレーション!!」

 閃光と突風。覚悟を決めた少女は空を駆け、園内へと舞い戻った。



 ◇



 「ねぇノーム。ホントに私だけでやれるかな?」

 ひとりの少女……土浦 楓が、自らの持つブレスレットへと問い掛けた。

 「のーん……」

 それに呼応するかのように、ブレスレットから鼻のでかい土竜のようなモノが顔を出す。

 土の精霊ノーム。楓のパートナー。

 「……うん、分かってるよ。私はひとりじゃない。アナタがついていてくれるもんね」

 少女は言語が合わぬパートナーに対し、それでも意思の疎通はできているんじゃないかと思っている。

 今だって、『楓ひとりじゃない! ぼくが一緒だよ!』と声を掛けてくれたのだと楓は解釈している。それが正しいかどうかは置いておいて、合っていたら嬉しいなと思っているだけだが。


 「ボクがきっと護るよ。歌恋も、ミチルも、みんなも。絶対に傷付けさせたりさせない」

 少女は過去に一度、目の前で親友を攫われた経験がある。その後にどんな事をされたのか、彼女は一切語ろうとしなかったけれど。

 救出の際に立ち会った時には、彼女の綺麗な肌には蚯蚓脹れが多く残り、目は虚ろで円形脱毛症のような痕もあった。

 拷問を受けたのは間違いない。それを行ったクラバットルは文字通り海の藻屑と消えたが、生涯許すことはないだろう。

 そして何よりも許せないのは、その拷問も受けるハズだったのが自分であり、親友が巻き込まれたのは自分の落ち度のせいだという事実だ。


 「今度こそ……」

 今度こそと誓う少女はノームを一度胸に抱き、ブレスレットを掲げた。

 「ブレイヴ・エスカレーション!!」

 閃光と地鳴り。誓いを胸に抱いた少女は地を蹴り、戦場を見極めるべく大地を駆けた。



 ◇



 とある地下のトンネルより、軍靴の連なりに似た音が響く。

 それは足音に相違ないのだが、人のものだったり尾ビレだったり蛇腹だったりと、色々なモノが混ざった音だった。

 これから日本という国……いや、悪の組織ダークエルダーを打倒せんとするジャスティス白井の軍勢である。

 「おい、時間だ野郎共! 地上に出るぞ!」

 リーダー格であろう男性の野太い声がトンネルの中で反響し、全体へと届く。

 しかし、

 「うっせぇな! テメーに命令される筋合いはねぇんだよ!」

 「時間だけは合わせてやるが、外に出たら好きにやらせてもらうぜェ!」

 「はっはぁ! “ジャスティス”なんて名乗ってヤりたい放題していいってのは気分がいいな!」

 なんて、統率なぞまるで取れていない事が分かる発言ばかりが返ってくる。


 彼らは怪人としてのモチーフも所属もバラバラの、言わば寄せ集め部隊。正義の使者を名乗るジャスティス白井が、今回限り手を結んだ悪の組織の怪人達である。

 全国同時多発的反乱行動と銘打ったソレを行う為に、ジャスティス白井が主体となって各地の組織から兵を借りたのだ。

 「おいテメェ! ウチの看板に傷付けたらタダじゃおかねぇぞ!」

 リーダー格の男が、ヤリたい放題発言をした怪人に向けて怒鳴る。

 あくまでこれはダークエルダーという巨悪を打倒するという目的あっての作戦なのであって、それ以上の悪行を組織の名を借りて行われては本末転倒なのだ。

 まぁ、その悪行の基準は世間一般から見たものではなく、彼らの主観から見たものであるという点で、もはや彼らは救われない存在である事に間違いはない。

 彼らは正義を成す自身の行動が何より正しく、それを邪魔するものは全て悪だと言って憚らない連中なのだから。


 「あぁん!? やんのかテメェゴラァ!?」

 「よせマハバラ! 殺り合うのは今じゃない」

 ヒートアップしそうになった怪人を諌める別の怪人。おそらく同じ組織で上下関係にある者なのか、マハバラと呼ばれた怪人は舌打ちひとつで黙り込み、別の怪人に対して頭を下げると行列の中へと戻っていく。

 リーダー格の男はそれに対して鼻息ひとつ吐いて、まだまだ続くトンネルの先を見据えた。


 これほど統率が取れていない集団では、何かを成すことなぞ到底不可能にも見えるだろう。

 だがジャスティス白井には秘策があり、彼らはそれまでの陽動に過ぎない。

 (今に見ていろ日本に巣食うクズ共め。今日が貴様らの命日だ)

 リーダー格の男はただひとり、悪の浄化された世界を幻視し笑みを零す。

 その瞬間はもうすぐそこだと、あらゆる悪を嘲笑いながら。

 珍しくクリスマスイブの更新となりましたね。

 私は布団という恋人に毎日抱きしめられているのでこれっぽっちも寂しくないです。

 寂しくないですよ? ホントだよ?


 このまま筆が乗るようならば、年末に本編更新と年始にウラバナシの方の更新がありますので、来年もまたこの作品をよろしくお願い致します。

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