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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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北海道修学旅行編 その4

 襲撃の予告通知が届いた後。

 急に危ないからバスへと戻ろうと言っても信じてもらえないだろうと判断したカレンと楓は、とりあえずミチル達が満足するまで園内散策に同行するつもりでいた。

 一時間以内という制限時間付きの中、カレン達は駆け足ながらもお目当ての部分だけは巡る事に成功し、最後に行こうと予め決めていた『3Dアクション脱出ゲーム! バトルゾー!』と看板を掲げたアトラクションまで制覇したのだった。


 「凄かったねぇ~! 血に飢えたハイエナがあんなに寄ってくるんだもん! 私食べられるかと思っちゃったよ~!」

 そう興奮気味に語るミチルを後目に、カレン達は一様にぐったりとした表情をしていた。 

 このバトルゾーというアトラクション、説明文に「超! エキサイティンッッ!」とだけ書かれており、中のスタッフも何も説明してくれずにただ生肉の塊を数個渡してくるだけなのだ。

 そして状況を何一つ理解できぬまま迷宮部分へと立ち入れば、そこには金網にて遮られた通路部分とハイエナゾーン。

 そう、なんとこのアトラクション、生肉目掛けて金網へと突進してくるハイエナ達を避けながら迷宮を進むという、超危険な物だったのだ!


 「いやいや、危険すぎるでしょうこれ! ハイエナの爪が鼻先まで迫ってくるんですよ!? 一歩間違えたら怪我どころじゃ済みませんよ!」

 確かに『超! エキサイティンッッ!』の二つ名に恥じぬアトラクションではあったが、いくらなんでもやり過ぎだと、カレンは憤りを抑えきれない。

 入口で渡された生肉を金網の上からハイエナゾーンに放り投げる事で多少は安全に進めるようになるが、全てのハイエナがそちらに向かうわけではない。少なくとも数匹は、小さな生肉よりもカレン達の方が食いでがあると踏んで執拗に追いかけてきていた。

 捕食者に後を追われるという恐怖はなかなか体験できないだろう。しかもその状態で迷宮探索である。

 脱出した瞬間にぐったりするのも致し方あるまい。


 「まぁまぁ歌恋、落ち着いて。ほら、そろそろ時間だからバスに戻らないと」

 楓にそう言われて時計を見ると、確かに集合時間まで残り十分を切っている。

 あまりの衝撃に襲撃の事を失念してしまっていたようだ。

 「はい、じゃあ皆さんバスに戻りますよ」

 未だ興奮気味に先程の体験を語り合う三人に対し、カレンは彼女達の背中を押す形で歩ませる。ミチルならここでギリギリまで見たいと駄々を捏ねるかと思ったが、ハイエナで十分満足できたらしい。素直に歩いてくれている。


 ならばとカレンは楓に目配せし、楓もまたそれに頷く。

 「アッごめーんどっかにスマホ落としてきちゃったみたーい。探してくるから先に行っててー」

 呆れるほどの棒読みで言葉を残しつつ、楓は素早く反転ダッシュ。

 おそらく襲撃の前に人目につかない場所を探して変身するつもりなのだろうが、そんな怪しいまでに急がなくてもとカレンはひっそり溜息を吐く。

 「おーうお土産買ってこいよー!」

 幸いにもミチル達には怪しまれずに済んだようなので、カレンもまた自らの役割をこなすべく、まずは友人達をバスへと押し込む作業を再開した。



 ◇



 「遅い! リミット三分前だぞ!」

 カレン達が駐車場へと到着するなり、バスの前で苛立たしげに煙草を吸っていた三國先生が声を荒らげた。

 どうやらカレン達が一番最後の到着だったらしく、他の生徒達は全員バスの中で待機しているようだ。三國先生だけがバスの外で待っていてくれたらしい。

 「ごっめーんミクせんせー! 思ったよりハイエナに時間掛かっちゃってぇ……」

 「言い訳はいいから早く乗り込め。こっちは時間が押してるんだ」

 三國先生は可愛こぶってしなを作るミチルを一顧だにもせず、吸いかけの煙草を灰皿へと押し付けると周囲を見渡し、カレンへと向き直った。


 「土浦とは別行動か?」

 それは問い掛けというよりは確認のようなニュアンスだった。まるで楓だけはこの場にやってこないと予期していたような、そんな感じの。

 「え、ええ。スマホを落としたらしく、少し前に園内で別れました。()()()戻ってくるとは思いますが……」

 もうすぐ、と言えないのはカレンも楓もこれから襲撃があるのを知っているからだ。楓はブレイヴ・ノームとして戦闘を行うはずなので、すぐに帰って来られるはずがない。

 「そうか。まぁそうだろうな」

 三國先生は特に疑問を挟む事なく頷いて。

 「よし。大杉、今から行って手伝ってやれ」

 そう宣った。


 「えぇ……」

 この発言にはカレンも困惑するばかりである。

 この発言は多分、スマホを探すのを手伝ってこいというのではなく、迎撃の手伝いをしろと暗に言っているのだろう。

 流石にその辺りの裏はカレンにも読めるが、問題はこの三國先生が何を知っていてこのような発言をしているのかである。

 現状、カレンがブレイヴ・シルフィである事はダークエルダー内部でも一部の人間しか知らないはずなのだ。その情報がなければカレンはただの一般生徒か、せいぜい“何か戦闘力のある兄を持つか弱い少女”程度でしかないはず。

 前線に出していい戦力だと判断できるわけがない。


 「……ああ、そんなに警戒するなよ。私はキミの敵じゃない」

 疑っているのが顔に出てしまったのか、そんな事を言ってくる三國先生。そう言われたらますます警戒するのを分かっていての発言かは分からないが。

 複雑な表情をしているカレンを見てか三國先生は苦笑し、煙草を取り出して……流石に生徒の前では自重したのか、煙草をしまうと今度は棒付きキャンディーを取り出して口へと咥えた。

 「詳しい事は話せないが、君達のサポートは私の業務の一環でもある。ここの守りは我々に任せて、キミは親友を助けてあげるといい。……子供を被害者にするのは誰も本意ではないからな、防備はそれなりさ」


 自信満々とは言わないが、なんとかなるさと笑う三國先生。

 彼女が何者なのかは分からないが、襲撃の事を知っていて生徒達の保護を優先してくれると言うのならばカレンとしても都合がいい。信用できるかどうかはともかく、手が足りない状況なのは確かなのだ。カレンを騙す必要も彼女にはないだろうし、託してみるしかないだろう。

 「………分かりました。後をお願いします」

 ほんの少しだけ迷った後、カレンは三國先生に賭けることを決めて踵を返し、走り出そうとしたところ、

 「あ、ちょっと待て」

 という声がかかり、立ち止まった。


 「何か?」

 振り返れば、何か言いたげだが今言っていいのか迷っている感じの三國先生。

 「いやぁ、すまない。凄くどうでもいい用事だったんだが……」

 彼女はそう前置きした上で、

 「キミの兄……今はツカサだったか。彼に会ったらこう伝えてくれないか。『ミミックが早く呑みに誘えと急かしてた』とね」

 「??? はぁ……分かりました」

 よく分からない伝言を預かったカレンは、それの意味を考えるのをとりあえず後回しにしてとにかく動物園の中へと駆ける。

 親友を助ける為に。



 ◇



 「あっやば。トイレ行きたい」

 とある少女はバスの中、小声でポツリと呟いた。

 バスの中では用を足す事ができないので、少女は足早にバスを降りる。

 ちょうど三國先生と歌恋が話し合っている後ろを気付かれないように通り過ぎ、少女はトイレを求めて動物園へと入っていく。


 その先で大いなる試練が待ち構えているとも知らずに。

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