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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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銀行強盗の終わりとあれこれ その2

 「………で、結局連れて帰ってきちゃったんだ、コイツ」

 ミソラを連れて秘密通路から外へと出、銀行に寄った後に自宅へと戻り、リビングの扉を開けた瞬間に浴びせられたノアの開口一番のセリフがそれであった。

 おそらくは市内の監視カメラを使って一部始終を観ていたのだろう。理解が早くて助かる。

 「そうなる。マズかったか?」

 「別に。そうなるって気はしてたから」

 「そっか」

 ノアへの返事も適当に、ツカサは肉体的にはともかく精神的にだいぶ疲労したので、とにかくゆっくりしたい。扉を開けたその足でそのままキッチンへと向かい、お湯を沸かすついでに冷蔵庫からペットボトルを取り出し一気飲みをする。その後に三人分の紅茶のカップとクッキー缶を用意し、食卓へ。


 妹のお気に入りであるカモミールのティーパックへとお湯を注いで簡単なお茶会の準備を済ませると、ツカサは気の抜けたようにソファへと倒れ込んだ。

 「あー、もう。だっる~……」

 昨日にファミレスへと寄ってからこれまで展開が急過ぎるのだ。事後処理の報告書も読めず、レポートの提出も後回しのままなので何が起きていたのかハッキリと理解すらできていない。

 オマケに顔バレと精霊の解放と新たなる戦隊の誕生。怒涛の日々と言っても過言ではない。たった二日間なのに。


 ツカサが倒れ伏した後も部屋のあちこちを見て回っていたミソラは、全てが真新しいのか瞳をかがやかせながら、アレはなんだコレはどう使うんだとノアへと問い掛け、ノアはその全てを無視してクッキーを咀嚼している。

 誰も何一つ噛み合っていないこのフリーダム空間が何よりも愛おしいと、ツカサは何となく思うのであった。

 「──ちょっと、無視するのもいい加減にしてもらえるかしら! アタシだって復活したてで何もかも分からないの! 少しは教えてくれたっていいじゃない!」

 ようやく同胞に会えたというのに態度が冷たいと、遂にミソラが怒った。勢いのまま人間サイズのノアへと詰め寄り、人差し指でノアの額をコツコツと叩き始める。

 「なんだってねぇ、■■■■がノアなんて名乗って? このアタシよりも大きく強くなって? どーして神性なんて纏っちゃってるのかしら? 昔は木っ端みたいな精霊だったのに出世したものねぇ!」


 コツコツ、コツコツと、ミソラによる攻撃は止まない。ツカサがこんな事をノアにすれば即座に反撃してくるだろうし、今日のノアは何だか不気味な程に静かだ。

 攻撃を受けながらクッキーを咀嚼し、お茶を飲み、クッキーを口へと運び、咀嚼し、お茶を飲み、ミソラを口へと運び、咀嚼し、お茶を飲み、クッキーを口へと運び、咀嚼し、お茶を飲み。平然とそのサイクルを繰り返す。

 「えっ、今ミソラを喰わなかった!?」

 サイクルの中に普通に組み込まれていたら見逃しそうになったが、もうどれだけ見回してもミソラの姿はない。

 見間違いではなく、本当に喰われたのだ。

 「マジで!? 喰って平気なのか! 同胞だろ!?」

 一応善意のつもりで連れてきたのだが、まさか食ってしまうとは思いもよらなかった。腹を壊したりしないのだろうか。いやいや、そういう話ではない気がする。


 「ツカサ、落ち着きなさいな」

 しかしノアは平然としており、お茶のお代わりを自ら注ぐと、今度は冷蔵庫からアップルパイを取り出して机へと置いた。自分の分だけ。

 「アレに口頭で全てを教えるのが億劫だったから、一旦取り込んで情報の海に晒しているだけよ。一晩もあれば大体理解はできるだろうし、そうなったら吐き捨ててあげるから安心なさい」

 吐き捨てるとはまた随分な言い様だとも思うが、前に苦手な相手と言っていたのがミソラだとしたらその対応も頷けるものかもしれない。

 ツカサとて、あのドMっぷりは持て余すものがあったのだから。


 ようやく静かになったリビングで、ツカサは億劫そうに身体を起こすとカモミールティーへと手を伸ばす。

 飲み慣れないハーブティーだが、疲れた身体に染み渡るような優しい味わいがあって、これはカレンも気に入るなと納得する美味しさがある。

 甘いクッキーと併せて、なんとも贅沢な時間を過ごせた気になってしまうから不思議だ。

 そうやってニコニコしながらお茶会を楽しんでいると、先程からノアがじぃっとツカサを眺めている。

 「ん? なんだ、お代わりか?」

 先程は自分で注いでいた気がしたが、ティーパックを新しくしたいというのならツカサが立ち上がった方が近いのは確かだ。


 ついでにミソラ用に出したカップも片付けようかと、少し腰を浮かせたところで。

 「違うくて。いや、それもやってもらうけれど先に私のイタズラに付き合いなさい」

 先にイタズラだと公表してしまってもいいのかと考えながら、とりあえずツカサはソファへと再度身を沈める。

 「いい子ね。じゃあまずは目を閉じて口を大きく開けてもらおうかしら」

 はてさて何をされるのかと不安になりながら、ツカサは黙って指示に従っておく。

 万が一にも熱湯を注がれたりとか、噛み砕かれたミソラを放り込まれたらどうしようかと嫌な想像が頭をよぎるが、ノアがやる気になっている以上、もう覚悟を決める他ない。


 そのまま五秒、十秒と時間が過ぎるが、未だにイタズラをされている感覚はない。

 体感で十五秒ほどが過ぎ、まさかアホ面を拝みたいだけなのかと、ツカサが思わず薄目を開けそうになった辺りで。

 「はい、お疲れ様でした」

 という一言と共に、口の中へと一口サイズに切り分けられたアップルパイが押し込められた。

 「むぐっ」

 驚き、目を見開いて。思っていたより近くにあるノアの顔にドギマギしながらも口の中のそれを咀嚼し飲み込む。

 「おいし?」

 「……ん」

 「そう」


 ツカサ好みのその顔に見蕩れながらなので、返事はとても簡単だ。だけれどもノアは嬉しそうに微笑むと、今度はゆっくりと手を伸ばしてツカサの頭の上へと置いた。

 そのまま、髪の上を滑らすように手が動く。

 撫でられているのだ、とツカサが気付くのに数秒を要した。

 「こっちはご褒美。誰かの思惑と、偶然と、気まぐれによる結果とはいえ。ミソラを助けてくれて、ありがとう」

 余りにも唐突なノアのデレに、ツカサは気恥しくて逃げたいのに逃げられないというジレンマに苛まれながら。

 まだもう少しだけ、このままでもいいかと。

 そんな優しい時間が、少しだけ続いたのであった。

ミソラ「へー、今の時代ってこの箱とか板で色々観れるんだぁ。あっ、あれ美味しそう! お蕎麦もまだ残ってるの!? アレは何! ……ふーん、ラーメンって言うのね。外でたら食べてみよっと」


ノア(この子、人の体内でもものすごくうるさいのねぇ)

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