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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』

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精・霊・再・誕

 「あ、アレックスぅぅぅぅぅぅ!!」

 稲光の後に白煙の中へと消えた友(?)の名を、翔はただ叫ぶしかなかった。

 幾度倒そうとも復活する『パラノイア・レーベン』というゴーレムを相手に、復活される前に術者を倒そうという判断を下したのであろうアレックス。

 しかし術者……天翔る天竜寺は詠唱を途中で破棄してもなおゴーレムを生成できる事を隠していたのだ。その為にアレックスは雷の中へと自ら飛び込む形となり、現在に至る。

 「ふははははは! 馬鹿がっ! 自ら消し炭になりにきやがった!!」

 白煙が晴れぬ中、天竜寺が愉快そうに笑う。おそらくこうなる事を最初から見通しており、わざと長いの詠唱を唱え続けていたのだろう。

 これに関しては天竜寺の方が一枚上手だったと認めざるを得ない。


 「そ、そんな……。死んだんすか、あの黒マスクの人……」

 「分からん。だが……」

 人間は基本的に電流を耐えられるようにはできていない。低電圧を一瞬だけならばまだしも、触れて白煙が発生する程の電圧・電流では一瞬でも命取りだろう。

 「まさかこれ(狩人戦隊スーツ)が遺品になるだなんて。……仇を、取りましょう」

 普段はクールな明智も思うところがあるらしく、声を震わせながら拳を握りしめている。

 そう、これは命を賭けた戦いなのだ。犠牲者が出たとしても、翔達は戦い続けなければならない。そうしなければ、犠牲はもっと増えるのだ。

 「──大久保、明智。やるぞ!」

 「「応ッ!」」


 三人が決意も新たに身構えたその時。

 「勝手に殺すんじゃねーよ」

 白煙の先、アレックスが平然と立っていた。



 ◇



 「はあぁ~い♪」

 その場にいる誰もがド肝を抜かれる中、アレックスはしてやったりと言った表情でヒラヒラと右手を振ると、そのままスナップのきいた拳を天竜寺へと叩きつける。

 「! パラノイア──」

 一瞬遅れて天竜寺が反応し、己を守るべくゴーレムを生成するが、アレックスの拳はもうそんな物で止まりはしない。

 ずっとこの、至近距離からの一発の為に戦闘開始時から“気”を練り続けていたのだ。ギリギリで生成されたゴーレムの装甲を力任せに打ち砕き、遂にその拳は天竜寺の顔面を捉える。

 「いぃぃやっほォーう!」

 打撃音と共に、確かに下顎の骨を砕いた手応え。天竜寺は勢いのまま1~2mほど吹き飛び、地面を転がって己が無闇矢鱈に陥没させていた穴へと落下した。


 「ホールインワァァァン!」

 テンション高めに、アレックスは追撃を掛けるべく穴の縁まで移動する。穴の中では天竜寺が痛みに悶えながら、顎を押さえて無様に転げ回っていた。

 どうやら強過ぎる能力を持つが故に痛みに慣れていない様子である。

 「よーう、どうした天翔る天竜寺。もうおしまいか?」

 アレックスは穴を覗き込みつつ、その辺のコンクリ片を拾って鉄筋のみを引っこ抜いていく。なんだかんだ便利なのだ。

 「ぐっ……がぁ………どお゛じで……」

 天竜寺はアレックスを指差し、不思議でならないと言った表情をしている。おそらく、「どうして雷属性の中に突っ込んで平気なのか」と問いたいのだろう。


 「あー、それな。実はこのお守りが使えるかもってずっと考えてたんだわ」

 そう言ってアレックスが取り出したのは、翔から受け渡されたヴォルトの結晶体。かつては精霊の姿であったが、チカラを使い果たして休眠状態となった……言わば精霊のミイラである。

 この状態となった精霊には、それぞれ対応した属性を与えると復活する、とは精霊であるノアの談。逆を返せば、雷属性を一気に吸い取る盾になるかもと考えたワケだ。

 その考えが見事に的中した結果、雷属性となった『パラノイア・レーベン』を瞬時に吸収して、代わりに大量の白煙を撒き散らしたのである。

 白煙が出た理由は知らん。というか妙に脈動を始めたのでアレックスら気味悪がって結晶体をその辺に置いた。


 「──で、だ。お前のパラ……パラミシア? まぁそれが完全に雷属性そのものに成れるが故に、コイツに食い尽くされたというワケでな」

 説明になっているようでなっていないが、元より全てを解説してやる義理などない。

 「アタシ、ふっかーつ!」

 なんかすぐ横で可愛らしい女の子の声がした気もするが、幻聴だろう。

 「これでお前の切札は既に四体攻略されたも同然。残るは風か? 正直砂塵との差別化が甘い気もするが、やってみるか?」

 能力を使おうとすれば即座に鉄筋を天竜寺の両手足に打込み、地面に固定してやるつもりなのだが、わざわざ言う必要はないだろう。


 「ねぇ……ねぇったら。アナタなの、アタシを復活させたのは?」

 チョンチョンと脇腹を突っつかれる感覚があるが、状況を考えて欲しいものだ。

 「今いい所だからちょっと待ってて」

 そう、今は敵を追い詰めている悪役にとって最高の見せ場なのだ。俺はいつでもお前を倒せるんだが、という余裕を見せることにより、悪役としての魅力が引き立つのである。

 だからくすぐったくても我慢してるのだ。

 「え、ウソ。アタシの復活よりも大事な事ってある?」

 ただ幻聴からすればその優先順位は不服だったようで、せっかくアレックスがカッコよくキメようとしているのに、その傍でギャースカ喚き始めてしまった。


 「アタシというキュートで可憐な美少女型精霊が目覚めたというのに、人間がそのアタシを無視するだなんてなんて罪深い事なのか理解しての狼藉なの? なの? 今すぐ謝って平服すれば許してあげないことも無いのだけれど、それでも無視すると言うのならばアタシにだって考えがあるわ。………そう、あくまで無視するのね!? しちゃうのね!? いいわ、だったらアタシが過去に散々オトコってヤツを射止めた必殺技を使うわよ? いいわね? よ~く聴きなさいよォ? ──ミソラ、歌います! アタシの歌声を聴けぇ!!」


 そこまで無視していたら耳元で旧時代の邪神達へ送る讃美歌のような歌声が響いてきたので思わず逆水平チョップをしてしまったら、ソフビ人形ほどの美少女がくの字に折れ曲がりながら「ぐふっ」という音を洩らしつつ吹っ飛んでいった。

 「………さて、どこまで話したか?」

 何だかよく分からないが視界から消えたのでヨシとして、アレックスは再度天竜寺へと向き直る。

 彼が何をしたというワケではないのだが、何故か無性にイライラしたので鉄筋を二本、彼の太ももに打ち込んだがご愛嬌として頂きたい。

 「ね、ねぇ……! 今の、すっごく良かった! 生きてるって感じした! 正直キモチいい! もっとやって!」

 「また生えたよこの子ォォォォォォ!!」


 先程の一撃で時間が稼げるかと思いきや、精霊なので平然と空を飛んで帰ってきた。

 ああもう理解しています。彼女は先程まで結晶体だった雷の精霊ちゃんです。本当にありがとうございました。

 どうやら給電のプロセスを踏んだのがアレックスだったからなのか、初手から雑に扱っているのになんか滅茶苦茶懐いてきて怖い。精霊なのにドMの要素を全面に押し出してきてて本気で怖い。

 どうにかしてシリアス路線に戻したいのに、この子が居るだけで全てがギャグになる気がしている。これはマズイ。


 と、アレックスがどげんかせんといかん等と考えている内に。

 「──容疑者、『天翔る天竜寺』を確保。容疑は器物破損及び強盗殺人未遂、並びにテロ行為と固有能力による暴力・破壊活動。その他余罪も山盛りだ」

 という事務的な台詞と共に、痛みによって気絶してしまった天竜寺に翔が手錠を嵌めて逮捕してしまっていた。

 「えー……」

 何とも、呆気ない終わりであった。

 雷の精霊ミソラ。

 古代の信仰と己の力量により無理矢理妖精形態まで進化した、当時の中級精霊の中では注目の的だった彼女。

 ノアとはテンションの差も相まって相性が悪い。


 ……訂正。ドSとドMなので噛み合った時は酷い事になるというだけ。

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