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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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狩人戦隊、いざ出陣! その4

 「ふぁっ……ぶぇっくしょーい!」

 藁人形が凍結され、粉々に砕けた後に放り出された天翔る天竜寺がデカいクシャミをする。アレックス達だって先程まで存分に熱せられた後に急冷やされたようなものなのだが、ダークエルダー製のスーツや服はそれなりの体温調整機能があるのでまだ平気だ。少なくとも天竜寺ほど寒暖差を感じてはいない。

 「く、クソが……! やりやがったなァ……!」

 寒さにガチガチと震えながら、それでも気力は失わずに天竜寺は再度『パラノイア・レーベン』を展開する。しかし火は敗れ、水もまた凍らされて動けるとは思えないので、実質二属性を既に攻略したも同然。

 残る属性は風・地・雷。これを攻略できれば、アレックス達の勝利である。


 「立ち上がれ巨壁よ! 全てを踏み潰す四ツ足の大地よ! 我がチカラに宿り、万物を踏み潰せェ!! “パラノイア・レーベン・グラビトン”!!」

 次に立ち上がったのは全身が圧縮された砂でできた巨大な象。常に流体し続ける砂を纏ったソレは、中の天竜寺を完全に覆い隠しながらアレックス達を睨む。

 「あー……あれは無理だ。凍らないよ」

 ダンホーは巨象を一目見た瞬間に己の能力が無力と悟ったか、素早い動きで後方へと下がっていく。

 「逃げ足はやっ」

 残るのはアレックス達4人だが、流れる砂に対して有効打がある訳もなく。

 またどうしようかと、敵を前に悩む他なくなってしまった。


 「よォくもやってくれたじゃねぇかァおいィィ……。だけどコイツはどうしようもねぇよなァ?」

 巨象は長い鼻を振りかぶり、アレックス達へと振り下ろす。またもやギリギリで避けた後にはヤスリで削ったような痕が残り、人間が触れたら皮膚どころか骨まで削られそうな予感を覚える。

 「くっ……この!」

 再度振り上げられる前にと、延びた鼻に対して一斉に攻撃するも、弾かれた砂が飛び散るだけで効果はない。それどころか槍と双剣は弾かれ、矢は巻き込まれて砂の一部となり、鉄パイプは触れた先から溶けるようになくなった。

 この天竜寺、単騎の割に滅茶苦茶強くて嫌になる。

 「ハッ! 流石にこれには手も足も出ねェみてぇだなァ!」

 反撃はないと見るや、今まで以上の猛攻を仕掛けてくる天竜寺。アレックス達は巨象に触れることすらできず、かといって離れ過ぎると今度は周囲に被害が及ぶ。

 今度も都合よく助っ人でも現れないかと期待したが、待っている間にミンチにされる可能性の方が高そうだ。


 「博士、博士! 見えているんでしょう!? 何か打開策とかないですか!?」

 現場で分からない事は知恵者にぶん投げろという先人の教えに従い、アレックスはカシワギ博士へと助力を乞う。天災とまで謳われた幼女爺さんならば、何かしらの攻略法を思い付いてくれるはずだ。

 対するカシワギ博士は、アレックスの問い掛けに『んあ?』と間の抜けた声を発し、

 『なんじゃ、資料を読み込んだのではなかったのか? あの砂塵程度ならレベル3の必殺技でひとひねりじゃろうて』

 と宣った。


 「必殺技とは、狩人戦隊スーツの?」

 『そうじゃよ? バックルのダイヤルを3に合わせて、そこに武器を近付ければ発動待機状態になるという簡単な技じゃ』

 「……それ、資料のどこにあります?」

 『えーと……あったあった。ほれ、3ページ右下の注釈4の5行目に』

 アレックスが言われた通りの場所を読んでみたら、確かにそれらしい文章は書いてある。しかし、

 「『バックルのダイヤルに応じて必殺技が発動可能だぞ! 色々試してみよう!』って書き方でぶっつけ本番に使えるワケないでしょうがぁぁぁぁ!!?」

 思わず絶叫してしまうほど、その説明文は簡素であった。

 否、簡素というよりもこれは知育用のオモチャの説明書に書かれているような文章だ。己で試してみてどうなるかを知り、その経験を積み重ねていく事で賢くなるタイプのアレだ。


 『~~~っ! ……いきなり怒鳴るでないわ。仕方ないじゃろ、その資料は添削前の草案みたいなもんなんじゃから。本体合わせて間に合わせただけでも良くやったと褒めてくれたっていいんじゃよ?』

 「そうは言いますけどねぇ……!」

 巨象の攻撃を躱してヴォルト・ギアで会話をしながら資料を流し読まなくちゃいけない身にもなって欲しいと思いながら、アレックスはバックルダイヤルの機能についてのページを探す。どうやらダイヤルには1~6までの数字が当てはめられており、それぞれ幅広い用途で扱えるよう設計されているらしい。

 そして博士の言う3番のダイヤルとは“対超自然”。火炎放射や鉄砲水、落雷等の攻撃に対して用いる事でカウンターを狙える攻撃、と記載されている。

 残念ながら武器タイプによる変化等の対応表は抜け落ちているようで、つまりは試してみなくちゃ分からないというのが結論となる。


 「まぁ、打つ手がないよりマシか。おーい、一回集合~!」

 巨象の攻撃を避けながら、無茶を承知で自分の周囲へと翔達を呼び寄せる。先着順に必殺技のやり方を説明し、伝授したら即散開。

 おちょくられていると感じたのか巨象の攻撃がより激しくなったが、象という形をとっているが故に攻撃のモーションが読みやすく、誰も怪我をすることなく伝達を終えることができた。

 「試してみないと分からない、というのは不安だが……」

 最後に説明を受けた翔は文句を垂れつつも、指示された通りにダイヤルを3に合わせ、己の得物を近付ける。すると、

 《ハンティング・スキル! レベルスゥリィィイ!》

 という声が爆音で鳴り響き、待機音と共にスーツの各所がゲーミングPC並に光り輝く。

 「おいアレックス! このスーツの開発者っていつもこんなセンスなのか!?」

 普段特撮なんて観ないであろう翔がそんな文句を言ってくるが、

 「うるせぇ! カッコイイんだから受け入れろ!」

 アレックス的にはありよりのありなのでそう怒鳴り返す他ない。


 「お、おう……分かったよ……」

 アレックスの勢いに押され頷く翔。その間も待機音はけたたましく鳴り響いており、それが三人分ともなれば尚更だ。

 「ええい、やっかましいぞテメェら!!」

 三方向から微妙に音ズレした待機音を聞かされていた天竜寺も流石にブチ切れ、三人に対して巨象の鼻を横薙に振るう。三人はその攻撃を躱しつつ、それぞれの武器を巨象へと向け、トリガーを引いた。

 《OK! バースト・ハンティング・ストリィィィム!》

 やたらテンションの高い機械音声の後、三条の光線が一斉に巨象を穿ち、爆風と共に砂塵を消し飛ばした。


 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」

 運良く直撃を逃れたのか、天竜寺は無傷のまま地面を転がる。しかし即座に立ち上がると、またすぐに『パラノイア・レーベン』を召喚する体制へと移る。

 既に四回、彼奴のゴーレムを破壊しているのに、天竜寺の目に宿る闘志は消えていない。

 何が彼をそこまで駆り立てるのか分からないが、立ち上がり反撃してくる以上、相手をせねばならない。

 「羽ばたけ翼よ! 蒼天を駆ける稲妻の大鷲よ!」

 三度の詠唱。今度は雷属性かと身構える翔達。

 しかし、アレックスは待ってましたとばかりに身を屈めると、全身のバネを最大限に利用して跳躍紛いの突撃をし、天竜寺へと肉薄した。


 詠唱途中の天竜寺に対し、既に拳の間合いまで近付いたアレックス。

 「──中略!」

 しかしアレックスの拳が突き刺さるよりも、詠唱破棄をした『パラノイア・レーベン』の発生の方が早かったらしい。

 アレックスは何もできぬまま、天竜寺の周囲に発生した電撃の渦へと呑まれ、耳を(つんざ)くような雷鳴と共に白煙の中へと姿を消した。


 「あ、アレックスぅぅぅぅぅぅ!!」


 翔が叫びが木霊する。

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