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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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狩人戦隊、いざ出陣! その2

 「うおおっ!?」

 突如現れた3つの光柱に、天翔る天竜寺のビビる声が響く。

 してやったりとアレックスは笑いながら、光柱のあまりの眩しさに今後の改善案としてこれも提出すべきだと考える。

 黒マスクに遮光グラス機能が備わっていなかったら、間違いなく目を焼いていたレベルだ。これでは目立つどころの騒ぎじゃない。

 一方、その光柱は徐々に光量を弱めていき、最終的には細い一条の光となって消えた。後に残ったのは、それぞれ光柱の色に対応したスーツを纏った戦士達の姿。

 カンペには、ここで名乗りをあげるよう書いてあるはずだ。

 「……なぁ、やらなきゃダメか?」

 「ダメだ」

 案の定、気乗りしない翔に対し、アレックスはやらねばならぬと断固とした意志を示す。

 名乗りは戦隊の花だと言うのに、拒絶は許されない。

 「…………あーもう、分かったよっ」

 長い沈黙の後、気恥しさを押し殺して、翔達は一歩ずつ前へと進み出る。


 赤のスーツにその身を包み、手に持つ得物は一対の双剣。

 「剣閃、妙技! レッドハンターワン・ソルジャー!」

 青のスーツにその身を包み、手に持つ得物は珍妙な大弓。

 「一矢、必中! ブルーハンターツー・アーチャー!」

 緑のスーツにその身を包み、手に持つ得物は絡繰(からくり)仕掛けの大槍。

 「刺突、入魂! グリーンハンタースリー・ランサー!」


 3人はそれぞれポーズを取り、大見得を切って天竜寺を睨む。そして、


 『狩人戦隊、レンジャー・バスターズ!!』


 ヤケクソな叫びと同時、アレックスが予め仕込んでいた色火薬が背後で破裂し、変身一回目に相応しい戦隊名乗りとなったのであった。



 ◇



 「……な、なるほど。それがお前らのとっておきってワケか。……だが、俺の『パラノイア・レーベン』の方がカッコイイし強い! 残念だったな!」

 突然の爆発音に少々驚いたようにしながら、天竜寺は翔達を指差しそう告げる。

 「てーかそもそも、警察がなんでダークエルダーと一緒にこっちを攻撃するつもりなンだよ! テメェらの敵は悪の組織だろ!? コッチは正義でソイツが悪! だったら先にその黒マスクを始末するべきなンじゃねェのか!?」

 確かに、天竜寺が言っている事も正しくはある。本来ならば相反する存在として敵視しあうのが通常だが。


 「悪いな。今はお前がこの中で一番の悪役なんだわ」

 アレックスのその一言が、現状を物語っていた。

 アレックスはダークエルダーの一員を名乗っているとはいえ、現状はまだ()()。それに比べて銀行強盗やら器物破損やら、既に目の前でたっぷり犯罪を犯した天竜寺達の方が優先度が高いのは自明の理。

 まぁそれは建前で、ダークエルダーと警察機関が既に繋がっているという話ではあるが。

 「俺達の行いは全て正義だ! ……さては貴様ら、グルだな!?」

 正解とも言えず、アレックスはただ沈黙を貫くのみ。それをどう受け取ったのか、天竜寺は急にスンと黙り込むと懐から5つの指輪を取り出し、右手の指にそれぞれ装着している。


 そんなふたりの話を他所に、翔達は着心地のチェックや装備の確認を入念に行っており、それもようやく終わったのかアレックスと並ぶようにして立つ。

 「さて、じゃあ形勢逆転といきますか」

 アレックスは近場に転がっていた鉄パイプを掴みあげ、肩へと担ぐ。天竜寺が散々暴れてくれたおかげで、武器になりそうな物はあちこちに散乱している。本気で投げれば刺さるのは確認済みなので、後は攻略できるまで攻撃し続けるだけだ。


 いよいよ決着かと、アレックスが手癖で鉄パイプを振り回していた、そんな時。

 「……黒マスク、お前この俺を舐めてやがるな? イイだろう。だったらこっちも本気で相手してやんよ」

 アレックスの態度が気に食わなかったのか、天竜寺はキレ気味でそう宣う。そして、

 「“可変”しろパラノイア・レーベン! 奴らを潰し、俺達が最強だと知らしめてやろうぜぇ!!」

 叫びと同時。ゴーレムが一度大きくたわんだかと思うと、その瞬間に体躯は大きく変容し、人型だったその巨躯は一瞬にして同サイズの大蛇へと姿を変えていた。

 「マジか……おっと!?」

 鎌首を持ち上げた大蛇は瞬時にアレックス達へと突撃し、それが同時に開戦の合図ともなった。



 ◇



 「うおっ!? ……くそ、自分の身体じゃないみたいだ」

 大蛇の突撃を回避するために地面を蹴った次の瞬間、翔達はあらぬ方向へと吹っ飛び、陥没した穴に落下したりパトカーへと激突したりアレックスの横っ面に頭突きをしたりと散々であった。

 運良くパトカーへとぶつかった(レッド)はすぐに体制を立て直せたものの、ぶつかられた方は凹むどころの騒ぎじゃないので後の請求が怖い。

 「こ、これが戦隊スーツのパワーなんすね……。じゃじゃ馬どころじゃないなコレ」

 穴に落ちた大久保(ブルー)も這い上がってきて、翔の側へと寄る。明智(グリーン)はアレックスに平謝りしているので合流まで時間がかかるだろう。

 「ハハッ。なんだお前ら、ど素人なのかよ。大見得を切ってた割にダセェなぁ」

 天竜寺は完全に余裕の表情で、大蛇形態のまま静観してくれている。いや、単純に煽りたいだけのようだ。

 だったらこっちも乗ってやろう。


 「うるせぇな! お前こそ素人相手なんだから手加減しやがれ!」

 「はっはっはっ! やなこった!」

 「だいたい、ゴーレムが変形するなんて聞いてないぞ!」

 「手札を一枚、晒してやっただけ感謝しろ獲物戦隊!」

 「狩人戦隊だ張り倒すぞボケ!」

 「やってみろザコ!」

 子供っぽい言い合いだが、仕切り直すには十分な時間を稼げる。

 次はこちらの番だ。


 「行くぞ!」

 翔が双剣を構えて突撃するのと同時に、背後から大久保の援護射撃が放たれる。学生時代から弓道を習っていたと自慢げに話していた彼の腕は正確なもので、見事に大蛇の接地部分を数発射抜き、破壊する。

 「ぐおっ!?」

 天竜寺が呻くが、実際に本人が痛いわけではないのだろう。多分だが、あのゴーレムをいくら破壊したとしても天竜寺には傷ひとつ付かないはずだ。

 だけれども、あれだけの質量を生身から作り出すのならば何かしらの代償がいるはず。そのリソースを削り、天竜寺を引きずり下ろすのが今の翔達の勝利条件だ。


 慣れない身体をどうにか動かしながら、翔は気合いと共に剣を振り下ろす。狙うは先程の矢で破損した箇所。

 「ハァッ!」

 硬い手応えを得た後、振り抜いた剣は見事にゴーレムを切断し、分かたれたゴーレムの半身は即座に塵へと返っていく。

 「や、やりやがっ」

 天竜寺が怒りを露にした刹那、彼の背後からアレックスと明智による刺突が天竜寺に向けて放たれる。それは天竜寺に届きこそしないものの、ゴーレムの許容を上回るダメージを与えたのか、ゴーレムは爆砕するかのように弾けた。

 一度目の撃破である。


 「よしっ」

 戦える。このチカラがあれば、今まで見て見ぬふりしか出来なかった相手に対しても抑止力となる事ができる。

 翔はその確信を得てマスクの下で満足気に微笑むと、素早くバックステップして大久保の下へと戻って身構える。

 「……あー、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛! クソが。テメェらめんどくせェなぁ。使わずに済むかなァなんて思ってたのによォ……」

 案の定、天竜寺本人は未だに健在。既にゴーレムを生成し、己の身を包んでいる。

 生身を晒している内に追い打ちをかける事も考えたが、あからさまに切り札がある様子だったので距離を取ったのだ。初撃で頑張れば倒せる、というのが判明しただけでも儲けものである。


 「あーあーあー……! これはダークエルダー襲撃用のとっておきなのになァ! ここで見せるの勿体ねェなァ! でもお前らはここでぶち殺しておかねェと、気が済まねェよなぁ!!」

 狂気に染まった笑みを浮かべ、何やら自身に対して言い訳を並べている天竜寺。

 そして、指輪を嵌めた腕を大きく翳すと。

 「駆けろよ(ほむら)! 全てを焼き尽くす豪炎よ! 我がチカラに宿り、万象を灰燼(かいじん)に帰せ!!」


 “パラノイア・レーベン・ボルケーノ”と天竜寺が叫び、その瞬間に立ち上がった者は。


 その身に爆炎を宿した、巨大な藁人形であった。

『幹部の実力』ってタイトル、こっちに付けておけばよかったと今更ながら後悔しております。

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