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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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狩人戦隊、いざ出陣! その1

 「手伝え、だと? 俺達に何ができるんだ?」

 「なぁに、簡単簡単。何とかなるからさ」

 ゴーレムを煙幕で覆い隠したアレックスは今、パトカーの陰へと隠れている翔達の目の前に降り立って交渉を始めた。

 その場には翔の他にふたりのフル装備警官がおり、そのふたりがおそらくファミレスの時に共に居た仲間なのだろう。

 3人が揃っているならばアレックスにとっても好都合だ。

 「君達3人にこの新装備を渡すから、代わりに例のお守りをこちらに渡してくれ。それがウチの上司から出された条件だ」

 アレックスはそう言うと、先程カシワギ博士から転送されてきた腕章型のアイテムを3枚見せ付ける。博士の説明によれば、これは国防警察用に開発するようブロッサム大佐から指示を受けた物の試作品だそうだ。

 その受け取り証明としてヴォルトの結晶体を先んじて渡している辺り、何か企んでいる予感もするが。まぁただの受け渡し役のアレックスには関係ない事だろう。


 「コイツを装備すればアイツを倒せる。ここで指を咥えて見ているだけは嫌だろう?」

 私服の上に黒タイツマスクを被ったアレックスの言動はさぞ不審だろう。しかし嘘を言っているわけではないので信じて動いてもらうしかない。

 アレックスは腕章と同様に送られてきたプレゼン資料を配り、後は個人の判断に任せる。

 相手にはメリットだらけで、デメリットと言えば彼らにとって謎のお守りを渡してしまう事だろうか。流石に警察官がそんな詐欺を彷彿とさせる条件を簡単に飲むとは思えないが、こればかりは仕方ない。


 「……ひとつ、聞かせろ」

 資料を読み終えた辺りで、翔がそう声を上げる。

 「お前はダークエルダーか、それとも一般人か、それともヒーローか?」

 それはアレックスに向けて投げられた言葉。

 もうすぐ煙幕も晴れてしまうというのに悠長だなとは思うが、本人は至って真剣な様子でアレックスを見上げてくる。

 ならば、何とかして上手いこと答えてやろうとアレックスも悩んだが、何も良い言葉が浮かんでこない。

 仕方ないので、思った事を口にするまで。

 「子供が泣いている目の前で、そんな線引きは必要なのか?」

 それが今、アレックスがこの場に留まって戦っている理由のひとつだ。


 「………くっ、くくっ……! そうか、そうだったな」

 翔は笑い、膝を打つとポケットからヴォルトの結晶体を取り出し、アレックスへと渡す。

 「俺達の敵はアンタじゃない。ならばチカラを借りるのだって吝かじゃないさ。……だから使わせてくれ、その新装備とやらを」

 残った2名もまた覚悟を決めたようで、真っ直ぐにアレックスを見返してくる。

 「Good!」

 その様子にアレックスは満面の笑みで返し(マスクで見えてはいないだろうが)、それぞれに腕章を差し出した。



 ◇



 「クッッソがっ!! 煙幕ととり餅と電磁ネットと黒塗料と閃光弾なんてクソみたいな嫌がらせしやがって!! あの黒マスクぶっ殺してやる!!」

 天翔る天竜寺は、すっかり穢されてしまった『パラノイア・レーベン』の中で吠える。

 その表面は世界一黒いと言われる塗料と、それに付着した煙幕の煤で全体的に汚れ、更には動きを制限する為であろう大量のとり餅が全身の動きを阻害し、追い討ちを掛けるが如く、怪人捕獲用の大型電磁ネットまで被せられている始末だ。

 『パラノイア・レーベン』のチカラではそれらを直ぐに除去するのは難しく、更にはその妨害行為を主目的に変えたのか、攻撃よりもとり餅が飛んでくる回数の方が多いくらいだ。

 ビビり散らすのも理解できるが、せめてもっと正々堂々と勝負しやがれと、天竜寺はイラつきながら頭を掻き毟る。


 この『パラノイア・レーベン』は、天竜寺自身の能力により生み出したゴーレムだ。一回生成するのにそれほど体力を消費せず、消してまた直ぐに作り出せるような低コストの代物なので、塗料だなんだというのも本来は怖くはないのだが。

 相手が万が一、天竜寺がこのゴーレムを消した瞬間を狙っているのならば。一瞬でも生身を晒した瞬間に狙撃できるよう、既に体制が整っているのであれば。

 それを考え出すと、容易に再生成することはできない。

 (チッ! 調子に乗って足場ァ崩し過ぎたな。これじゃ移動もできないか……)

 最初の頃は黒マスクがずっとゴーレムに張り付くように動いていた為、大振りな攻撃を連発してしまったのだ。その結果、天竜寺がいる今の足場の周りは既に穴ぼこだらけで迂闊に動けなくなっている。


 「どこ行った黒マスクゥ!! 隠れてねェで出てきやがれ!!」

 安い挑発だが、やらないよりはマシだ。それにこのまま時間を稼がれるようなら、天竜寺としても切り札を使わざるを得ない状況になりかねない。

 本命の作戦の前に、これ以上手の内を晒したくないのだが。

 「おっ?」

 そんな時。唐突に視界を塞いでいた煙幕が突風によって流され、少しだけ視界が開く。

 その視界の先に居たのは、

 「よう、待たせたな天翔る天竜寺」

 相変わらず私服のままの黒マスクと、3人の警官であった。



 ◇



 「……おい、本当にコレで勝てるんだろうな?」

 「俺も嫌っすよぉ。カッコつけておいて簡単に負けるの」

 「同感。説明書は読んだけど、アレに対処できるかは別問題」

 「あーあーうるさいなアンタ達! スペックまで目を通したんだったら後は全力でやりなさいよ!」

 三者三様、口々に文句を言う警官達に対し、アレックスは怒鳴る。

 盾にしていたパトカーを背にし、ゴーレムと向き合ってなおコレだ。先が不安であるが、やると決めた以上は頑張ってもらうしかないのだ。諦めてほしい。


 「なんだァ黒マスクゥ。俺に勝てないからってそんな応援を呼んだのか?」

 人を小馬鹿にしたように、天竜寺が笑う。

 そりゃあ、自身のゴーレムに絶対の自信を持っているのだから、一般人が3人ほど増えた程度で勝利は揺るがないと確信しているのだろう。

 ちなみに他のヒーロー達は既に下がらせて、周囲の安全確保に務めてもらっている。

 天竜寺に対処するのは、アレックスを含めた4人だけ。それならば油断するのも当然だろう。

 しかし、その笑みを浮かべていられるのも今の内だけだ。


 「さぁ、見せてやりなさいな! 君達の、新たなるチカラを!!」

 アレックスが声高に叫び、同時に3人が腕章へと手を伸ばす。


 「「「ハンター・チェンジ!!」」」


 3人の声が重なり、腕章が腕にキツく巻き付くのと同時。

 3人の姿がそれぞれ、赤・青・緑の光の柱へと呑まれた。

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