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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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幹部の実力 その2

 「うぉぉぉりぃやぁぁ!!」

 「だらァァァァァァァァ!」

 封鎖された四車線の道路という広々としたステージで、アレックスという偽名を名乗るツカサと天翔る天竜寺が激突した。

 アレックスの持つ鉄筋付きのコンクリート片とゴーレムの腕が衝突し、いとも容易くコンクリート片が砕け散る。

 「ハッ! 愚かしいな黒マスク! そんなんじゃあ俺のパラノイア・レーベンにはキズひとつ……うおっ!?」

 セリフの最中に申し訳なくも思いながら、アレックスはコンクリートが砕けた事で剥き出しになった鉄筋を全力で投擲し、天竜寺を狙う。

 “気功”によって強化された肉体で、ダーツのようにして放たれる鉄筋の速度と威力は狙撃用ライフルによる銃撃に近い。しかし、それでもなおゴーレムの装甲を貫くには足りないようで、放たれた鉄筋は全てゴーレムに半分ほどめり込んだ辺りで停止してしまっていた。


 「この……ッ! ビビらせやがって!」

 自慢のゴーレムを傷付けられて腹が立ったのか、天竜寺はお返しとばかりにゴーレムの腕を振るう。その大振りな攻撃は巨体に似つかわしくない速度でアレックスを狙うが、そんな簡単に殴られてやるほどアレックスも甘くはない。

 アレックスが余裕を持って回避した後に、ゴーレムの拳は虚しく地面を叩く。直後、大きな地響きと共に道路が砕け、埋没された水道管が破裂したのか勢いよく水を吹き上げてゴーレムを濡らした。

 「おおっ、こっわ」

 流石の大きさだ、火力も相当のものだろう。防ぐ事も出来ないことはないだろうが、その勢いで地面に埋められる可能性もあるから油断はできない。


 「アレックス! なんとか応援が来るまで凌いでくれ!」

 外野……というか翔が何のかんのと声を掛けてくるが、気が散るので静かにしていて欲しい。

 ヒーローがこれ以上集まってしまったら、今度はアレックスの方が逃げるのに苦労するのだ。勘弁願いたい。

 「とはいえ、硬いなぁ」

 改めて、あのゴーレムを個人で代価もなしに創造している点に畏怖を覚える。ヒーローとしてなら凡庸な能力の内なのかもしれないが、敵に回すとひたすらに面倒なのだ。

 単純に速い・硬い・強いの三拍子が揃っているだけでも脅威なのに、おそらくあの様子では出し入れ自由で再生も可能、消費も重たくないと好条件が揃っているに違いない。

 要するに、ただひたすらダルいのだ。


 「オラオラどうしたァ!? ビビってンのかぁ!? ダークエルダーってのはその程度か!!」

 反撃してこないアレックスに対し、天竜寺はどんどんと調子ついて拳を振り回す。アレックスとしては単純に思考を優先しているだけなのでビビっている訳ではないのだが、かといってこのまま放置していてもこの辺り一帯が無惨な姿になるだけなのでどうにかせねばなるまい。

 あと、あまり手の内を見せるのも怖い。大勢に素顔が見られた状態からそのまま戦闘に移行してしまったのだ。認識阻害装置があるとはいえ、翔のような例外もいる。全力を出すわけにはいかない。


 こんな時にこそ黒雷やハクの装備があれば案外楽に終わったりするのに、どうしてこうも間が悪いのか。せめてノアが付いてきてくれればまだワンチャンあったものを。

 『お困りのようじゃな、ツカサくん』

 そんな思考に耽っていたその時、ヴォルト・ギアの通信機能が起動し、カシワギ博士の声が聞こえた。

 おそらくは野次馬の誰かから通報が入り、監視カメラの映像を拾った事でツカサが現場にいるのを確認したのだろう。


 「おっと、博士いいタイミングですね。俺の装備、どちらかでも出してもらえません?」

 『残念ながら黒雷もハクも最終調整中でな。出す訳にはいかんのだ』

 「そんなぁ……。じゃあせめて、何かしら武器とかもらえません? 硬くて重い……斬馬刀みたいなのが有難いのですけれど」

 『斬馬刀のう。……あー、先週からカゲトラくんが筋トレ用に持ち出してそのまんまじゃな。誰も使わんから無期限で貸し出したんじゃった』

 「彼奴め……」


 呑気な会話を交わしながら、道路はどんどん陥没し周囲の建物への被害は増えてゆく。人的被害が無いのだけが幸いだろうか。

 ゴーレムを抑える手段がないために暴れたい放題なのがマズイのだが、かといってほぼ生身のまま正面からぶつかり合いになるのは怖い。

 現場にいたヒーロー達も加勢してくれてはいるが、正直焼け石に水程度でしかない。押し潰されそうになったところをアレックスが助けに入るような場面も多く、逆に足でまといにしかならないような連中である。

 アレックスから見ても無名か、戦闘力以外に秀でている者ばかりなので、さもありなん。


 「じゃあ他に何かありませんか? ハンマーとか、オリハルコン製のチェーンソーでもいいですよ。攻城兵器なんかがあると楽なんですが」

 とにかく面倒になってきたので、なんでもいいからあの天竜寺を叩き潰してさっさと帰りたいアレックス。この際ダイナマイトでもいいから欲しい。

 『まま、落ち着きたまえツカサくん。ワシが何の準備もなしに話しかけるワケないじゃろう?』

 その一言の後、カシワギ博士の口から予想外の話が飛び出し、アレックスは思わず天を仰いだ。



 ◇



 「くそっ……! じれったいな。人質の救出もしなきゃならないのに、俺達は見ているだけかよっ」

 翔は戦場を囲むパトカーの群れに隠れ、何も出来ない自分にヤキモキしていた。

 バカデカいゴーレムの射程は想像以上に広く、それが銀行の前から動こうとしないのが本当にタチが悪い。なんとか現地の警官達と協力し、気絶した犯人達を離す事だけはできたが、中に残っている人質達はそのままだ。アレックスが用意していたシールド発生装置がなければいつ巻き込まれてもおかしくない場所である。

 中には子供の姿もあったから、きっとトラウマになってしまっているだろう。早く助けてあげたいが、シールドから出すのは逆に危険なので実に歯痒い。


 「アレックス、何とかなるんだろうな……?」

 たったひとり、天竜寺に対して畏怖すらしなかった謎の多い人物。正体はツカサというファミレスでアホみたいな強さを見せた男なのだが、翔とてそれ以上の事は何も知らない。

 本人はダークエルダーを名乗っているが、現状はマスクを被っているだけなので演技の可能性もある。額面通りに受け取って良いものかも分からない。

 「クソッタレ」

 翔は独りごちて、唯一取り上げられなかったラムネ菓子を取り出し、噛み砕いた。


 「翔先輩、状況どうですか」

 丁度現着したのか、翔と同班である明智と大久保が側へと寄ってくる。二人共、特殊警官としてはフル装備なのだが、ゴーレム相手には火力が乏しい物ばかり。翔同様、ここで見ている事しかできないので簡単に状況を説明し、待機を命じる。

 「うっわぁ。あのアレックス? って人、私服じゃないですか。掠っただけでも死にますよアレ」

 大久保が珍獣でも見るかのような声を上げているが、多分この場にいる誰もが同じ事を思っているだろう。

 “アイツは頭がおかしいんじゃないか”が現場の共通認識だ。


 そんな時、突然アレックスが天を仰いで数秒間止まったかと思いきや、今度は大量の煙幕を張ってゴーレムを覆い隠した。

 「なんだなんだ!? 何しやがった黒マスクゥ!!」

 大いに慌てる天翔る天竜寺を尻目に、アレックスは高々と跳躍すると翔達の眼前へと着地する。

 そして、

 「よーう、お巡りさん。お勤めご苦労様です。……ところで、ちょっと手伝ってくれない?」

 そう宣った。

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