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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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立てこもり事件巻き込まれ怪人人情派 その4

 せっかく互いの為を思って提案した人質解放の案件も、直感型の男に“胡散臭い”と断じられてご破算となった。

 Tシャツスラックス姿の覆面男に対しては的確な表現であるし、アレックスも子供達の目の前で血なまぐさい戦闘をしたくない一心での提案だったので、間違ってはいないのだが。

 「仕方ないなぁ」

 手にした傘をくるりと回し、そのまま天井へ向けて放り投げる。誰も彼もがちらりとそちらを見ている隙に、アレックスは素早く床に這いつくばった翔の縄を断ち切った。

 「お前結局何がしたかったんだよ」

 先の乱射を間近で見てしまい、若干恐慌気味である翔が問うが、アレックスのやりたい事がやれなかった以上何とも言い難いので、

 「んー、時間稼ぎ?」

 とだけ言って誤魔化した。

 実際は自分の指導の下で銀行強盗達がどれほどヒーロー達と渡り合えるか、また人質を絞る事による効果等を検証したかったのだが、決裂となってしまったのだから仕方ない。


 「野郎、やっぱりグルだったか!」

 翔を解放した事で憤る犯人達を後目に、アレックスは緊急シールド発生装置を人質の輪の中へと投げ込み起動させると、それはすぐさま多角形型の半透明シールドを発生させて人質達を覆い、外界からの隔離を遂行する。

 驚いた犯人のひとりがシールドに対して銃撃を行うが、ビクともしない。

 コイツは夏祭りの際にカレンが使った物と同じで、ロケットランチャー位なら数発は受けられる優れものだ。

 発動させてしまえば、とりあえず怪人からの攻撃がない限りは安心。

 後は、

 「さぁて、居合わせたからには手伝ってもらうぞ?」

 翔に手持ち用の盾とスタンロッドを投げ渡し、アレックスは拳を握る。

 ここからはあまり子供に見せていい場面ではなくなるのだが、母親が一緒ならば見せないように配慮くらいはするだろうと期待するしかない。


 「……もうあんたが素手で小銃に挑もうが問題ない気がしてきたよ」

 翔もまた覚悟を決めたのか、受け取った装備を確認した後に構える。敵の数が多い上にロクな装備じゃなくて申し訳ないのだが、今は貸せる装備がそれしかないので諦めてもらうしかない。

 騒ぎを聞きつけて金庫破り組も合流したようで、ロビーがいっそう狭くなるが、アレックス達にとっては不意打ちを警戒しなくて良くなった分だけ好都合。同士討ちも狙えるため、有利になったとすら言える。

 「いっくぜぇぇぇ!」

 アレックスが叫び、戦闘が始まった。



 ◇



 そこからは正に阿鼻叫喚の地獄絵図である。

 アレックスは床も壁も天井も使って跳ねまわり、四肢を振るう度に犯人達がひとりまたひとりと地に伏せる。怪人達もアレックスを相手にすべく追いかけ回してはいるのだが、仲間が邪魔で思うように動けない。そのくせ、目を離そうとすると全力の殴打が飛んでくるので警戒し続けるしかないのが現状だ。

 そんなアレックスとは対称的に、翔は堅実な戦い方を選んだ。

 銃弾を受けてもビクともしない盾を前に、犯人ひとりひとりに対して丁寧に対処を続けて確実に昏倒を狙っているのだ。

 背中を見せた瞬間に撃たれるのは承知の上なので、あえて輪の中には入らずに壁を背にしてチャンスを伺う、そんなスタイルだ。アレックスを狙って視線を逸らした相手に対して素早くスタンロッドを振るい、昏倒させたらまた壁際に戻るを繰り返している。

 そんな翔に対して行動を起こそうとすれば、すぐさまアレックスが潰しに来る理不尽の極みのような状況なので、犯人達として手の打ちようがない。


 いくら銃器を所持し、怪人を従え、人数差があったとしても。

 それを経験とパワーで覆してくる男2人を前にして、犯人達は徐々に数を減らしていき、やがて怪人以外に立ち上がる事のできる者はいなくなっていた。

 「さぁて、ようやく本番だな?」

 若干息を切らしながらも、アレックスは呟く。

 最終的に残った怪人が4体。その他の人間達は皆床に這い蹲るか壁に叩きつけられたりして人の山を形成しているので、まず戦線復帰は有り得ない。

 お互いに邪魔者が全て倒れた状態となったわけだ。


 「……あー、全く面倒な任務だ」

 唐突に、今までほとんど喋ることのなかった怪人が、後頭部を掻きながら口を開く。

 「俺達はただ、チンケな組織に飼われたフリして動向を探ってただけなのによぉ。たまたま襲撃先で面倒事に当たるなんて、ついてないぜ」

 「まったくよ」

 「バカの相手も疲れるよな。人間ってこんなのばっかか?」

 「こんなんばっかなら俺達苦戦してねーって。あくまでバカ代表みたいな組織だっただけだな」

 ガハハハハ、と彼らは笑う。どうやら潜入捜査員みたいな立ち位置で彼らに協力していたようだが、今の時点でもう見限ったらしい。


 「……で、【ジャスティス白井(ホワイ)】に潜入してみてどうでしたか、【ドンピラ組】の皆さん」

 アレックスのその一言で、急に怪人達は相好を崩すと、

 「マジ!? 俺達ダークエルダーに認知されてるってよ!」

 「キャー! 遂に私達も全国デビューなのねっ! 親父さんに報告しなくっちゃ!」

 「バッカお前ら、はしゃぎすぎだって! もっとこう、釈然とだな……」

 「お前も慌てすぎて変になってるぞ。落ち着けよ」

 なんて、更に仲間内で騒ぎ出してしまった。


 「おい、つ……アレックス。その何とかって組織について説明しろ」

 翔は何も知らないのかアレックスに対して説明を求める始末で、果てさてどう転ぶやら、なんて思いながらもアレックスは口を開く。

 「【ドンピラ組】は地方のヤクザ組織。大手の組織から溢れた怪人を保護し、療養とカウンセリングを施しつつも彼らの特異性を活かしてシノギをさせる……まぁ根っからの任侠の徒らしく、成り上がる事もなければ特段騒ぎも起こさないような組だな」

 アレックスの説明に、怪人達はうんうんと頷く。

 「そうなの。私達はこんな大それたコトしたくなかったんだけど、親父さんのお願いで新興宗教っぽい【ジャスティス白井】に潜入するコトになってね?」

 「そうそう。怪人は絶対許さない、みたいな空気かと思ったら、自分達が顎で使う分には問題ないみたいでな?」

 「『俺達正義の代行者!』って謳いながら、結局はチンピラの集まりみたいな組織だったな。全国規模らしいから頭数は揃ってるけど、ろくな奴がいなかった感じだ」


 聞くまでもなく、ペラペラと喋ってくれる怪人達。

 アレックスも何だか毒気が抜かれ、この調子ならば逃がしても問題ないか、なんて思い始める。

 ドンピラ組に関しては怪人達の受け皿として機能しており、要監視対象ではあるが現状は手出し無用とも言われている。セーフハウスにて数日匿い、情報提供を求めるくらいだろうか。

 後は辺り一面に転がるジャスティス白井の配下達であるが、ヒーローと警察の包囲の中で転送装置も無しに回収するのは難しいだろうし、かといって非番の日に働かされた報いを与えないとアレックスの気が済まない。

 翔はただ黙って状況把握に努めており、未だに得物を離す気がない。


 さてどうしたもんかと思案していたところ。

 「や~~っぱりお前ら、信用しなくて正解だったぜェ……!」

 それは、最初にアレックスの案をぶち壊してくれた直感型男の声。

 男は仲間の山から這い上がり、一段高いところからアレックス達を見下ろす。そして、

 「もう遠慮する必要もねェ。ぜーんぶ、ぶっ飛ばすぜ!」

 男は叫ぶ。

 「湧き出ろ、『パラノイア・レーベン』!!」

 直後に銀行のシャッターは全て弾け、アレックス達は無様にも投げ出された。

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