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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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立てこもり事件巻き込まれ怪人純情派 その1

 「……なるほど。それは多分、過去にチカラを使い果たして休眠中の精霊ね。私と同じ、紫色の球体であればおそらく雷の精霊で間違いはないわ」

 帰宅後に一悶着あった後、コンビニスイーツで手を打って貰うことに成功したツカサは現在、ノアとソファーに並びプリンを食していた。

 今は今日のおでん屋での出来事を話し、見解を聞いているところである。

 「休眠ねぇ。つまりチカラさえ戻ればすぐにでも起きるって事か?」

 「そうなるわね。私達のような精霊って、自我を獲得してようやく中位とか中級とか、まぁそんな階級っぽく呼ばれるのだけれど、溜め込んだチカラを使い果たすとまた自我のない下位に逆戻りするのよ。それを防ぎたい精霊がよくやる手口ね」

 ノアは説明をしながらも、両手から生どら焼きを手放さない。一度買い与えたら近所のコンビニやスーパーからデザート類が消滅するんじゃないかと、そう危惧していたツカサが一日に食べる量を制限させていた為、ふたつ同時に食べられるというのは新鮮過ぎて逆に戸惑っているのかもしれない。

 多分、内心では歓喜しているからこそ饒舌なのだ。


 「太古ならいざ知らず、今は電力に依存した社会だからね。雷の精霊なら充電させればいつでも復活するわよ」

 「充電て」

 「ホントの事よ。私だって、中位の時は時々コンセントに繋いでもらったり、雨の日に空へ上がって雷に打たれたりしてたしね。四大精霊とは違って自然回復も難しいから苦労したわ」

 「四大精霊というと、サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム?」

 「そう。それぞれに、熱、水、風、土があれば長持ちするから、個体数はダントツに多いわね。光と闇はそれぞれ既に大精霊だけで賄えているから、個体数としては少ない方。他の精霊はまぁ上・中・下それぞれ程々に数がいるはずよ」

 「ほーん。随分と他所様の事情にも詳しいな?」

 「まあね。コミュニティみたいなのはないけれど、自然と理解しているものだから」


 こんな感じで、ノアが普段よりも優しくて丁寧だからツカサもついつい気が乗って、今日は出す予定の無かった抹茶プリンまでノアの前へと差し出す。

 平然と会話しているようで、実際は今頃になって冷で呑んだ日本酒が回ってきているのだ。チャンポンしていないため悪酔いとまではいかないが、随分と気が大きくなっているのである。

 なのでノアがどうしてあの公園に姿を現したか聞く事も、日向を送った時に何があったかと聞く事も、回収班が仕事をこなした事も忘却の彼方へと消え去っている。

 明日は休日だからいいが、飲み過ぎである。美味い酒が悪いのだ。

 「あら、いいの? そんなに持ち上げても何も出ないのだけれど。まぁ貴方がくれると言うなら貰うわね?」

 ツカサが正気でないと知りつつも、一応確認しましたという体を装ってノアは抹茶プリンへと手を伸ばす。


 「ああ。今日ばかりは気分がいいんだ」

 よく冷え、生クリームとさくらんぼまで載せられているソレは、コンビニスイーツの中でもちょっとお高い部類の物だ。ツカサはプリン大好き人間なので、この手の商品があるとすぐに買い込んでストレス発散という名目で食後に食べているのだが、今回ばかりはファミレスとおでん屋でかなり贅沢をしたので、おすそ分け程度の気持ちでノアへと献上したのである。

 普段のツカサならば絶対に渡したりはしない物なのだが、酒のチカラとは恐ろしや。

 ツカサ自身は気付いていないが、酔うと人を甘やかす性質があるらしい。


 「で、取り返……奪った方がいいのか?」

 ノアにとっては元とはいえ、別個体の同族。休眠状態のままホイホイと持ち歩かれてはいい気持ちではなかろう。

 ダークエルダーと遭遇する為のお守りだと言っていたのだから、十中八九黒雷とノアが目当てなのだろうし、何が目的なのかも含めて一度ぶつかってみるのも有りかとツカサは考えているが。

 「ん~……まぁ、放っておいてもいいんじゃない?」

 ノアからの返答は、そんな軽いものだった。

 「いいのかよ。一応自分の配下みたいなものになるんだろう?」

 ノアは既に大精霊。中級の精霊ならば下になるはずだ。ノアも時折ではあるが忙しそうに動いている時もあるので、そういった場面での助力になるのではないか。

 「………心当たりがあるのよ。その休眠中のヴォルトにね。クソ生意気で反りが合わないから、できればそのまま眠っていて貰いたいというかなんというか」

 珍しく歯切れの悪いノアの物言いに、ツカサは思わず取っておきのお汁粉缶ジュースを差し出す。

 精霊は血糖値等を気にしなくていいから羨ましい限りだ。


 「あー、もうっ。分かった、分かったからそろそろ寝なさいよ。もうほとんど瞼が閉じているじゃないのほら。ちゃんと水は飲んだ? トイレと歯磨きは? 済んでるならほら、貴方のベッドはあっち。違うわそれはぬいぐるみの山……! こっちだってばっ!」

 流石にノアからストップがかかる形で、深夜の座談会はお開きとなった。世話焼きモード全開となったノアは非常に珍しいのだが、寝ぼけているツカサの脳みそには何も刻まれない。

 そんなこんなあって、長い長い一日はようやく終わりを迎えたのだった。



 ◇



 そして迎えた翌日。この日は祝日であり、ダークエルダーもまた大半の社員がお休みである。

 「………あったまいってぇ~……」

 そんな喜ぶべき日を、ツカサは二日酔いと共に迎えていた。

 「それ見た事か」

 ノアは呆れた風に笑いながら、常備薬の中からいくつか取り出して食卓へと並べる。どれも食後に、と書かれているものなので、まずは自分の分共々朝食を用意しろ、という催促なのだろう。

 「おはよ。……ダルいしサンドイッチでいい?」

 「おまかせするわ」

 朝の挨拶もそこそこに、ツカサはキッチンへと向かってエプロンを着け、ノアは居間にいつの間にか設置された謎の機械を眺めている。


 「昨日から置いてあったけど、それなに?」

 「聞かない方が身のためよ。しつこくすると、その二日酔いを更に悪化させてやるから」

 「うへぇ」

 家主の質問すら尊重されず、攻撃的なカウンターすら待っていると言うのだから、その時点でツカサは手出しするのを諦める。

 『──本日の天気は晴れ。残暑が続きますが、熱中症には……』

 何気なく付けたテレビからは天気予報が流れ、今日もまた何気ない一日が始まる事を予見させてくれる。

 頭痛が無ければ、良い休日が過ごせそうだ。

 「そうだ、今日は銀行に行ってくるけど、ついてくる?」

 「……今日は行かない方が楽しそうだから、やめとくわ」

 「?? ……まぁ、了解」

 所用のついでに外食でもと思ったのだが、ノアは何やら思うところがある様子で誘いを断った。

 普段ならとりあえずくっ付いてきて何かしらを購入するのだが、不思議な日もあるものである。



 ◇



 (以上、回想終わり)

 そう、これまでが今朝の出来事。

 今現在がどうなっているかと言えば。

 「テメェら! 死にたくなければ手ぇ上げて床に這いつくばりやがれ!!」

 悲鳴と怒号が渦巻く中、入口から堂々と押し入った男達はそれぞれが火器で武装しており、黒い覆面に市販の防弾・防刃ベストを一式揃えた()()()()な集団。

 なんとツカサは偶然にも、奇跡的に、あろう事か銀行強盗の現場に居合わせてしまったのである。

 (昨日に引き続き、なんだってんだ……)

 現代日本にも関わらず連日で銃火器なんてものを生で見てしまったツカサは、ただただ己の不運を嘆きながら素直に両手を上げてよく冷えた床へと膝を着いた。

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