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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』

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夜の帷と会話と出会い その2

 水鏡 美月を家へと送り、ひとりになった帰り道。

 ツカサはノアを迎えに行こうかとも考えていたが、そういえばまだスマホを買い与えていなかった事に気付く。

 基本的に引きこもりで面倒臭がりのノアが、ツカサから離れてひとりで行動するなど想像だにしなかった出来事だ。なのでお互いに連絡を取り合う事は無いだろうと、それっきり考えることすらしなくなったのだが。

 (こういう場面でこそ欲しくなってしまうな。何も問題を起こしていなければいいけど……)

 大精霊となったばかりで、おそらくはしゃぎたいのだろう。かといって未成年をこれ以上連れ回すのは教育上良くない。日向さんだけでも送り届けて、本人だけで遊び歩いてくれる分には構わないのだが。


 「……ん? もしかして美少女ふたり組って事は、ナンパ避けにならなくね?」

 日向もノアも、傍から見ればとんでもない美貌を誇る美少女だ。そんなふたりが連れ添って夜の街中を歩いていては、ナンパしてくださいと言っているようなものだろう。

 か弱……くはないが、数で囲めば押し切れると考えてしまうのが男の悪い所。おそらくふたりに対し、5人組で当たれればカラオケ位には連れ込めるはずだと、そう考えてしまう可能性は大いに有りうる。

 もしもそうなってしまった場合……。

 「ナンパした側の生命が危うい」

 片方は現役のヒーロー(確証はない)で、片方は超自然の申し子たる大精霊だ。機嫌を損ねようものなら、翌朝に近所の路地裏辺りで雑魚寝した男達が発見される事になるだろう。

 しかし、そこまで予想はできていたとしても今のツカサにはどうすることもできない。せいぜい可哀想な者達が罠に引っ掛からぬよう祈るばかりである。


 一応組織のオペレーターに連絡を入れて、先んじて雑魚寝をする予定の男達の回収を依頼しておく。杞憂ならばそれでよし。動ける準備をしておくだけでも助かる生命はあるのだ。

 それさえ済ませてしまえば、ツカサはもうフリー。急いで帰る用事も無ければ、買い物の予定もない、そんな余暇。

 帰る前に、少しだけでも暇を潰そうかなと考えていた、そんな時。

 曲がり角の先で、今の時代には珍しいおでん屋の屋台と出会った。

 「マージか。現存してるんだねぇ」

 ツカサの子供頃はまだ、屋台のラーメン屋やら焼き芋屋が活躍していた時代であった。

 夕方頃に聞き慣れたメロディが流れた時は、着の身着のまま財布を片手にその屋台を探し歩いたのも一度や二度ではない。

 そんな哀愁漂う木製の移動屋台が、目の前にある。

 これもまた一期一会。普段通らない道だからこそ出会えた奇跡に感謝し、ツカサは緊張しながらもその暖簾をくぐった。



 ◇



 「──~~ッ!! あー、もうっ! 信じらんない信じらんない信じらんない!! 私がこの仔猫で遊んでいる時に!? 「やっ! ボク、ダークエルダーの怪人の中の人なんだけど、一緒に遊ばない?」なんてくっっっっそつまらない言葉で割って入ってくるの!!? 脳ミソに何を詰めたらそんな芸当できるわけ!? マジ最悪!」

 ツカサがおでん屋と出会った頃、ノアはブチ切れていた。

 それもそのはず。日向 陽をどのように弄んでやろうかと、心の底から愉しいという感情が湧き上がってきていたそんな場面に冷や水をかけるが如く、5人のナンパ野郎が割って入って来たのである。

 無論、ノアは何一つ返答しないまま放電を浴びせかけ、5人組は即座に轟沈。それだけではノアの怒りは収まらず、今度は男達の感度を300倍に引き上げてその身体をピンヒールで踏んづけて回っている最中なのである。


 「ねぇ、聞いてるの蛆虫! どういう、神経で、邪魔を、したの!?」

 「あうっ! おふっ! ああもっと! そこはらめぇ!?」

 読点(とうてん)の度にピンヒールが男へと突き刺さり、その度に男が喘ぐ。

 傍から見れば地獄絵図だ。何せ美少女が男達を全力で踏み締め、その度に男から嬌声が上がり、それをただただ困惑した表情で見つめる美少女がベンチから動けずにいるのだから。

 「か、かっちゃぁぁぁぁぁぁん!! ああんっ!!」

 リーダーと思わしき男の渾名を叫ぶ者もいたが、それすらノアの逆鱗に触れてピンヒールの刑に処されている。他の3人は既に出すものを出し尽くして虫の息となっており、その凄惨さたるや筆舌に尽くし難い。

 偶然近場を通りかかった、ツナギ姿のいい男ですら口元を覆って逃げ出す始末である。


 「ほらっ! ほらっ! 最後に良い声で啼け、豚! 自分が下に見た女に足蹴にされてイキ果てろっ!」

 「ぶひぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいっっっ!!?」

 ……虚しい戦いは、終わった。

 男達は地へと伏せ、大精霊のみがその場に立つ。

 日常とは遠くかけ離れた、下手をすると怪人よりもおぞましい何かが、終わったのだ。

 僅か数分の、しかしとても濃い戦いの有様を、陽は目の当たりにしてしまったのである。

 「はっ……ははっ……。しろ。あか。やみ。……う、うあ……」

 見事に正気度を消失した陽は、不快な光景と己の敏感にされた感覚との相乗効果により一時的に発狂し、焦点の合わぬ目をしたまま虚空を睨む。


 その様子を見てノアは嘆息をひとつ。

 散らかった男達を蹴飛ばして隅の方へ寄せると、ちょうどツカサが手配していた回収班がやってきたのでそちらへと引き継ぐ。

 そして最後に陽の前へと立ち、

 「興が削がれたわ。不本意だけれど、今日のところはこれ以上何もせずに帰してあげる。……ふふっ、大丈夫よ。今からきちんと記憶を消しておいてあげるから。次に目が覚めた時には、楽しい思い出だけが残るように、ね?」

 ノアがそう宣った後。パチンという小さな音と共に、陽の意識は闇へと沈んでいった。



 ◇



 「──はっ!?」

 日向 陽が目を覚ましたそこは、見知った天井の下だった。

 自宅のソファーに寝転がっていたのである。

 「あれ……オレはどうして……?」

 目を擦り、上半身を起こしてみるが、特におかしいところはない。おかしいところは無いはずなのに、なんだか衝撃的な何かを忘れているような気がする。

 記憶を辿ってみても、夕陽の見える公園に居た辺りまでしか思い出せない。

 記憶と状況が一致しないのだ。

 「おっ、ようやく起きたか不良娘」

 ひとしきり混乱した後に、台所からひょっこりと母親が顔を出した。どうやら夕食を作っていたようで、手に持ったお盆には山盛りの唐揚げとキャベツの千切りが載せられている。


 「あんた、外で間違ってお酒呑んで、速攻寝落ちしたんだってよ。安室さんって綺麗な女の人がここまで運んでくれたって」

 「お酒……? 安室さん……?」

 お酒を呑んだ記憶は全くないが、安室 希空という女性の事は覚えていた。

 確か、司さんの仕事上のパートナーで、特撮談義もできる素晴らしい美人さんだった気がする。

 「そう、確か安室さんと一緒に帰って……。道の途中で、ナン……だっけ?」

 どうやらそこからの一切の記憶が抜け落ちているようで、いくら思い出そうとしても何も出てこない。

 おそらくソコで記憶が途絶え、安室さんによって運ばれたのだろう。

 「せめてもの御礼にって、揚げたての唐揚げをタッパーに入れて渡したら凄い喜んでくれてね。同性ながら思わず見蕩れちまったね、わたしゃ」

 「綺麗な人だもんね」


 そこからはもう、抜け落ちた記憶について考える事もなく、陽は普段通りの日常へと帰還した。

 夕食中に流しているニュースで少しだけ、路上で倒れていた5人組について触れられていたが、陽にとっては既に対岸の火事である。

 日向家の夜は、何事も無かったかのように過ぎてゆく……。



 ◇



 「よう、超人(スーパーマン)。昼間ぶりだな」

 青羽 翔が出会った運命。それは移動式のおでん屋台であった。

 憧れていた平成初期の残り香。それを体験する為に、翔は迷うことなく暖簾をくぐり、早速銘柄の分からない熱燗とアツアツのおでんを頂いていたところである。

 4つしかない丸椅子に、最初は翔のみが座っていた。しばらくしてもうひとり、そこに座ろうと暖簾をくぐった人物がまさかまさか、だ。

 名も知らぬ、しかし形容するにはこれ以上ないという意味合いもあって、翔は彼を超人と呼ぶ事にしたのだが、問題ないだろうか。仕方のないことだ。名乗られていないのだから。

 ひとつ離れた席に座ろうとする彼に、翔は手招きをして己の隣へと座らせる。

 既に出来上がった翔は人との距離感が測れない。

 明らかに迷惑そうな顔をしている超人をそっちのけで、翔は店主に声をかけるのだ。

 「おやじ、この人に同じ酒と適当に見繕ったのを」

 「あいよ」


 こうしてまたひとつ、接点が生まれた。

多分、『陽』と『日向』で表記ブレしてるとこありそうですね…?

余裕がある時に直しておきます。


来週からしばらく繁忙期故にどうなるか読めませんが、どうにか週刊連載が続くことを祈ってください。

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