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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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夜の帷と会話と出会い その1

 小石を蹴りあげ、ツカサは考える。

 『ダークエルダーについてどう思っているか』

 それが水鏡 美月からの問い掛けだ。

 ツカサ自身は己の所属する組織なので、何も悪い印象は持っていないのだが、水鏡から見れば大杉 司という人物は秘密裏に組織された国家機関から派遣された調査員である。

 その事を念頭に踏まえて答えなければならない以上、考え無しに思った事を話せば今度はこちらが怪しまれてしまうだろう。

 少々の間の後、ツカサが出した答えは。

 「巧妙な手口で人気を得ているようだけど、やはり悪の組織には違いない。早急に倒されるべき存在だと思うね」

 そう言い切った。

 「……そう、ですか………」

 水鏡は何故か落ち込んだような表情をしてから、黙り込む。

 どんな答えが聞きたかったのかツカサには分からないが、今の立場で答えられるとしたらこれだけだ。

 そも、()()と話したからって答えが変わるような人物でもないはずだが。

 ツカサに女心は分からない。


 「では、彼らの目指している事はなんだと思います?」

 今度は質問の内容が変わり、今度は水鏡が小石を蹴やる。

 何を目指しているか、と聞かれたら組織内での方針を答えてもいいのだが、流石にヒーローだと分かっている相手にそんな真似はできない。

 「そうだなぁ。明言している通りなら日本の征服なんだろうけど、他にあるとしたら……。うん、やっぱり『子供達のため』じゃないかな」

 ツカサは今までの行動を省みて、そう結論付ける。

 その答えに、水鏡は少し驚いたような表情で見返してきた。

 「子供達のため、ですか?」

 「驚くのも分かるけどね」

 ツカサもこの理屈は無理やりっぽいなとも思いながら、しかし間違ってはいないとも断言できる。


 「正直言ってさ、少し前までの日本って生き辛かったんだよね」

 利権や地位や面子等が複雑怪奇に絡まった、老人達の老人達による老人達の政治を始め、子育て難に低い年収と人格差別。物価もなかなか下がらない中、出費だけが増していく世の中だ。

 そんな中で子育てなぞできるかと、また年収の低い男など相手にできるかと。そう言った事情が絡み合って、年々子供の生まれる数は減っていき、今では逆ピラミッド型を半ば諦めているのが現状だ。

 将来、自分達を支えてくれるはずの子供達がいなくなるのを分かっていて、けれども目先の利益しか追わない大人達はそれに拍車をかける事しかしない。

 まさに悪循環である。

 「けれども、ダークエルダーがそれを阻んだ。不正の苗床を潰し、大人が心を入れ替えるまで教育し、何かがあれば法より先に悪が裁く、そんな暴力主義の国になった」

 民主主義とは何だったのかと言わんばかりの蛮行だ。


 「……だけれど、それは歪んで立てられた国の根本を崩し、建て直すチャンスになると?」

 「鋭いね」

 水鏡の言う通り、安定していたものを壊せば不安定となる。不安定となったならば安定させねばならず、それがもし根本からとなったら……。

 「時間がかかるとしても、それは今よりも良い政治になる……?」

 「建て直している間に、諸外国の言いなりにならないだけの武力が必要になるけどね」

 苦労するのは大人の役目だ。子供達がのびのびと成長できる土台が必要不可欠だからこそ、国というものは安定を求められる。

 「……やっぱりそれは、革命じゃないですか」

 その言葉に、ツカサは応えられない。その革命という言葉を先に聞いたのは黒雷だから、ツカサが下手なことを答えるワケにはいかないのだ。


 そんな問答も一段落した辺りで、ふたりは水鏡の実家へとたどり着いた。もうすっかり日は落ちてしまっているが、夕飯には間に合う頃合いだろうか。

 「ありがとうございました司さん。また今度、お話しましょう」

 「ああ、また」

 互いに名残惜しむ事無く、その場は解散となる。

 ツカサは道を引き返し、水鏡は自宅の門をくぐる。

 そして互いにポツリと、

 「ノア、うまくやっているかな……」

 「黒雷さん、今どうしているのかな……」

 その声はどちらにも届かぬまま、夜風に紛れて消えた。



 ◇



 「ではでは、ノアさんの質問ターイム♪」

 強制的に脱力させ、ベンチへと座らせた日向 陽の横に座り、微妙にテンションの高い状態でノアがそう宣言した。

 その被害を絶賛被っている日向は怪訝な顔のままだ。本日初対面の女性が急に自分に対して急接近をかまして来たのだから、さもありなん。

 「一体オレに何を聞きたいってんだ?」

 日向は今すぐにでも逃げ出したいのだが、ノアによって体内の電気信号を弄られている為に身体が思い通りに動こうとしない。更に追加で肌の神経を敏感にされ、それを快楽と感じるように調整されている。

 もしもツカサがこの場にいたら、「ヒーローの快楽悪堕ちマッサージコースじゃないですかやだー!」とか言いながらノアを張り倒してでも止めていただろう。

 未成年に対してのそういう描写は禁忌なのである。

 だがしかし、ノアはやる。“楽しい”こそが彼女の原動力なのだから。


 「まずは……そう。アナタの後輩についての印象はどうでしょう?」

 ノアはくすくすと笑いながら、その綺麗な人差し指で日向の柔肌をなぞっていく。

 力なく開かれた五指の先端を、小指から順々に。関節に当たる度に爪が引っ掛かり、その度に鋭敏になった感触によって日向の肩が震える。

 「──っ……ぁ………はっ」

 今の日向には、これが筆先で脇腹をなぞられているレベルの感覚だ。泣き喚くほど辛いものではなく、かといって無視できるほど弱々しい刺激ではない、そんな感じ。

 「後輩って……んんっ。だ、誰の事だ……?」

 「この質問内容から察して欲しいなぁ。大杉 歌恋と土浦 楓よ。プライベートでも仲がいいのでしょう?」

 このふたりの印象については別にノアが気になっている訳ではない。単純に関係ない話題から徐々に本題へと移ろうとしているだけだ。

 「さぁ、ね。可愛いとは思っているけど……いっっ!」

 ノア好みの回答ではなかったので、日向の耳たぶへと噛み付く。

 そのまま数秒、嬲るように舐め回してから放せば、日向は惚けたような表情のまま懸命にノアを睨み付けていた。


 「あらあら」

 ノアは気骨のある可愛い女の子が大好きだ。

 虐め甲斐がある、と言い換えてもいい。

 人間の電気信号すら操り、意のままにできてしまう彼女だからこそ、遠回りな方法で相手の心を陥落させるのを何よりも楽しみにしていた。

 日向はちょうど、そんなノアの嗜好を煽るような素質を十分に兼ね備えている。

 「あらあらあらあら」

 ノアの眼が妖しく輝き、日向の背筋には思わず冷たい汗が流れた。



 ◇



 一方その頃。

 国防警察支部を追い出されるようにして後にした青羽 翔は夜道をとぼとぼと歩いていた。

 昼間のファミレス襲撃事件や支部での一件など、今日は変なことばかりが起きる。

 そんな日なので今日だけは直帰をせず、どこか近場で呑んで帰ろうと思って散策していたのだが。

 「ホルモン焼きに高級寿司、居酒屋……どこもかしこも混んでいるとは、な」

 ゆっくり呑みたい日に限って、どのお店も大繁盛というのはよくある話だ。

 しかし今の翔の気分は、物静かなお店のカウンターで静かにグラスを傾けたいという欲求に傾いている。騒がしいのも嫌いじゃないが、そういう店には他の誰かと一緒の時に入るべきだろう。

 「もっと、気軽で開放的で……。静かに、救われるような……」

 ぽつりぽつりと独り言を呟いて、線路沿いの道へと入ったその時。

 翔は遂に、運命と出会った──。

 このお話はフィクションです。実際の人物名・団体名、うんたらかんたらとは関係ないんだからねっ!


 日向のシーンはちゃんとR15に収めるつもりでおりますので、ご了承ください。

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