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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第六章 『悪の組織と進むべき道』
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ツカサも歩けば騒乱に当たる その2

 その日、ツカサは思い出した。

 己の運命に課せられた、『不幸』という名の運の悪さ。

 平穏無事は日々がどれほど尊く、また求めれば求めるほどに遠のく物なのかを。

 「なんだってんだ一体!?」

 現代日本のファミレスという、最も平穏に近い場所に食事をしに向かっただけだ。それが何故か今、店内は激しい銃撃戦の様相を呈しており、ツカサは流れ弾に当たらないようにテーブルを盾にして隠れるので精一杯。

 それも徐々に流れ弾で削られているので、隠れていられるのもあと少しといったところだが。


 「いやぁ、今日は君達を含めて5組かぁ。これは系列店を含めても最高記録なんじゃないかなぁ?」

 「あら、それは良かったわね」

 「良くないんだけどねぇ。保証金だけは貰えるから、それでやり繰りしていくしかないんだけどさ」

 ノアは銃弾程度でどうにかなるような存在ではないため、一応バリアを貼っているようなエフェクトを出しつつ店長と思しき人物と会話を楽しんでいる。

 店長はもはや慣れたもんだと言わんばかりの棒立ちだが、不思議と騒乱に巻き込まれないのだから大したものだ。


 「味方はいないから自力でなんとかしろって事ねっ」

 特殊部隊、国防警察、怪人、ナルシスト。これにツカサが加わって5組。

 現状として、特殊部隊は人数差を活かして全体に向けてアサルトライフルを乱射しており、それに対して国防警察は盾を構えて防戦一方。怪人と下っ端は銃弾程度では簡単に倒れはしないが、少しでもダメージは食らうようで煩わしそうにしている。それでもなおナルシストと肉弾戦を繰り広げており、そのせいで銃弾の雨に身を晒す事になったナルシストは怒り心頭の様子で下っ端をなぎ倒している。

 つまり状況を動かすには。


 「まずは貴様らからじゃー!」

 ツカサはもはや盾としても成立しない程ボロボロになった机を特殊部隊達に向けて蹴り飛ばし、“気功”のチカラで一気に彼らの間合いへと飛び込んだ。

 「これを使いなさいな」

 楽しげなノアの声と共に投げ込まれた物を反射的にキャッチすれば、それは厨房にあったであろうオタマと中華鍋。

 要するにこれを使って勝てと彼女は言っているのだ。

 完全に楽しんでいらっしゃる。


 「やぁぁぁってやるぜ!」

 しかしアサルトライフル相手に素手で挑むよりはまだマシだろう。中華鍋なら盾にもなるだろうし、オタマは……まぁ何とかなるはずだ。

 「な、なんだコイツ!? ぐわっ!」

 ツカサの事は完全に無警戒だったであろう隊員に机の残骸が直撃し、その隙を突いて中華鍋がその隊員の顎先に炸裂する。いくら軍用らしきヘルメットを被っていようが、脳を揺さぶる攻撃の前には無意味。流石に脳天に叩き付けると殺してしまう可能性もある為に自重したのだが、無力化できるならば同じである。

 「お次はこう! そしてこう!」

 懐に入り込み、乱戦にさえ持ち込んでしまえば後はツカサの思うがまま。近場にいた男に対して、オタマで銃口をすくい上げ、振りかぶった中華鍋で膝を壊す。最後に国防警察を名乗る者達の方へ向けて蹴り飛ばせば、これで既に2人が脱落だ。


 「テメェ……!」

 ツカサを危険と判断した何人かはアサルトライフルを手放してナイフとハンドガンに持ち替えるが、生身の人間に対して使用する為の武器ではツカサは止まらない。

 頸動脈や眼球、その他急所を狙って振るわれるナイフは全て、鉄扇術をオタマで応用して軌道を逸らせる。拳銃に対しては既に“気功”を使って弾道を逸らす術を体得済だ。

 唯一怖いのは至近距離でのショットガンなどであるが、味方同士で隣接してしまっているコイツらは使うことができないだろう。

 つまりツカサが一方的に蹂躙する側なのである。


 「アチョー!」

 変なテンションで奇声を上げながら中華鍋を振り回せば、当たった者から次々と吹き飛んでいく。急所は極力狙わないで済ますつもりだが、逃走防止の為に片足だけは必ず折らせてもらう。

 恨むならヤケに頑丈な中華鍋とひん曲がったオタマを恨むがいい。

 そうして戦っていれば、気付けば特殊部隊もあと一人。ソイツも自分が最後なのを悟ってか、ツカサに向けて自爆覚悟で手榴弾を投げつけようとしている。何が彼らをそこまで駆り立てているのか分からないが、生憎と最善手はツカサの手の内にあるのだ。

 ピンが抜かれ、投げ付けられた手榴弾。ツカサは素人なので形状だけで手榴弾の種類を判断することは出来ないが、対処法ならば何となく理解している。

 爆発して広域に被害を及ぼすのなら、蓋をすればいいのだ。


 「ほらよっと!」

 中華鍋の内側で一度手榴弾を受け、バウンドさせる。接触直後に爆発するタイプだったらマズかったが、そうでなかったのだからセーフ。そのまま中華鍋を覆いかぶせるように翳し、手榴弾を内側に留めたまま床へと伏せる。

 数秒後に中華鍋の内側で炸裂音が響いたが、“気功”のチカラで押さえつけた中華鍋を持ち上げられるほどではない。

 おそらく床面と中華鍋の内側はズタズタだろうが、人的被害は全くなし。

 最上の結果である。

 「ば、バカな……!?」

 男がそう呟いた直後、ツカサの掌底によって顎先を掠めるように殴られ、軽い脳震盪を起こした後に気絶した。



 ◇



 「クソ! 市街地のど真ん中で銃撃戦なんて聞いていないぞ!?」

 とあるファミレスに()()()()()が運び込まれたという報告を受け、秘密裏に国を守るという使命を帯びた特殊警察部隊、通称『国防警察』が派遣された。

 彼らはダークエルダーが日本の中枢を支配する前から存在している組織ではあるが、今は実質的にダークエルダーの下請け。表向きのエリート達を寄せ集めた精鋭部隊として日夜国民の安全の為に働いているのである。

 そんな彼らが今回引き受けた任務は、()()()()()()()を奪取しろ、という異例の命令。

 楽勝だとタカをくくっていたのだが、満を持して突入した先に居たのは謎の特殊部隊と怪人&下っ端とナルシストヒーロー。後の客の大半は素早く逃げた。鈍臭い客が一組残っているようだが、保護しようとする前に銃撃戦が始まってしまい、それを持ち込んだ盾で防いで今に至る。


 「おい、大久保! 明智! まだ生きているか!?」

 「こっちは大丈夫っすよ(アキラ)先輩! くっそバカスカ撃ちやがって! 薬莢を拾わなくていい組織は羨ましいなぁ!」

 「バカ言ってないで、前に出る方法を考えろ!」

 ファミレスに突入した部隊は三人。他のメンバーはバックアップとして備えてもらっているが、こんな事になるのなら最初から建物を囲っておけばよかったと翔は後悔している。

 どうせ他に集まってきている者達も(くだん)の卵を奪いにやってきたのだろう。

 最初は食用という事で気楽に考えていたのだが、今ではその危険度も見直さなくてはならないようだ。

 ……と、考えていた最中、唐突に銃撃が弱まり、更にひとりふたりと気絶した人間が翔達の方へと飛んでくる。

 何が起こったのかと、盾の隙間から覗いてみると。

 「ヒューッ! 凄いっすねあの人。ひとりであの部隊と渡り合ってますよ!」

 大久保が驚くのも無理はない。

 そこには、生身で中華鍋とオタマを持った一般人らしき客が特殊部隊共を殴り倒していく光景が広がっていたのだから。


 「……意味が分からん」

 どこぞのカンフー映画じゃあるまいに、なんて。

 エリートとして訓練と経験を積んだ者達ですらやろうとも思えない行為を平然とやってのけるその人物に対し、翔は薄ら寒い狂気と畏怖を感じていた。

 とある卵、なんて表現をしておりますが、多分冒頭でバレバレであろうとは思っております。

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