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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
202/385

戦の後、それぞれ その1

 「まっっったく、何考えてるんですか!!」

 ようやく『王子』こと緑雷を倒し、平穏を取り戻した地下室、その中で。

 「超加速中で!? 上から下から超強力な砲撃を!? 天井に空いた穴の真ん中で!? ぶつけたらそりゃ崩落しますよねぇ!!?」

 最大の功労者たる黒雷は、コッペルナの前で正座させられ説教を受けていた。

 理由としては、先の戦闘で放った技の影響で地下室の天井部分が丸ごと崩落したせいで危うく生き埋めになりそうだったのが四名ほど居たからだろう。その四人がヒーローとして活躍している者達でなければ下敷きになっていてもおかしくなかったのだから。

 「ルナは小煩いわねぇ。無事だったんだからいいじゃない」

 「ノアは黙っててください! というか貴女だって主犯でしょう!?」

 「あら、やぶ蛇だったわ」

 やいのやいのと、騒がしくも楽しそうに叫ぶ面々に対し、残りの三人はやや意気消沈気味だ。

 霧崎とウンディーネは、両者とも強くなる為にこの秩父の霊峰へと訪れていたのだ。その中でライバルと思っていた黒雷が急激に強くなってしまい、どうしたもんかと考えているというのが正しいが。





 「ウンディーネ殿」

 急な黒雷の成長と、今後の訓練方針について考えていたウンディーネ。そんなところに、黄金の剣を引っ提げた銀騎士が近付いてくる。

 その様子に敵意はないが、何故かかなり緊張しているようで、ウンディーネは少し首を傾げつつ銀騎士へと向き直った。

 「銀騎士、さん? えっと……此度は御助力感謝致します。貴方がいなければ私達は生還できなかったでしょう。ありがとうございました」

 そこまで言い切り、頭を下げるウンディーネ。黒雷を欠いた状況での『王子』との戦闘は非常に厳しく、誰が死んでいてもおかしくない所ではあったのだ。

 そんなウンディーネに対し、銀騎士はあたふたしながらも首を振る。

 「ああいや、そんな畏まらないでく……ください。私……いや、俺も間に合ってよかったよ」

 突如口調の変わった銀騎士に、どことなく既視感を覚えるウンディーネ。先程も思った事だが、初対面のはずなのに見覚えがあるというのはどういう事だろうか。

 「失礼ですけど、どこかで会ったことがありますか? どことなく所作に見覚えがある気がして……」

 分からないままは気持ち悪いと、率直に聞くことにしたウンディーネ。その言葉で何かに気付いたのか、銀騎士はおもむろに兜を脱ぎ捨て、素顔を晒した。

 ウンディーネには……いや、水鏡 美月には分かるその素顔を。


 「さ、斉藤くん!?」

 斉藤 剣里(さいとう けんり)。またの名を二刀流の斉藤。糸目の獅子。キレたら手が付けられない人。

 それはいつも、美月が道場でよくよく顔を合わせる相手であった。

 「ああ、やっぱり水鏡さんだったね」

 銀騎士……斉藤は少しだけホッとしたように胸を撫で下ろすと、ぎこちない笑みを見せた。

 「やっぱりって……。もしかして、私の正体を知っていたの?」

 日本最大の悪の組織、ダークエルダーを敵にしている為、ブレイヴ・エレメンツの基本方針は『絶対に正体を明かしてはならない』としていた。

 もしも正体がバレてしまったら、周囲にどれだけの迷惑が掛かるか未知数な為である。

 つい先日に素顔が見られたのは置いておくことにして。

 「うーん……まぁ、ね。同じ流派で、何度も剣を交えているから分かったというか、それほどの使い手が限られてくるというか……」

 斉藤にそう言われ、確かに同門なら分かりやすいかもとは思う。斉藤くん以上に腕の立つ女戦士、という括りの中でならば、美月が最有力候補として上がるのは自然、なのかもしれない。


 「あ、もちろんバラしたりとかするつもりはないよ。ただ、俺もこうやって強くなったんだし、今後は頼ってくれたりなんかしたら、嬉しいかなぁって……」

 照れくさそうに頭を掻きながら、そう宣う斉藤。確かに今回はその助力に助けられたのは事実だが、それが剣の強さなのか、剣士の強さなのかと問われれば、それは前者であると答えざるを得ない。

 剣士として強いかどうかは、道場での鍛錬具合からも窺えるワケで……。

 「時が来たら、頼らせてもらいますね」

 己が井の中の蛙だと思い知らされたばかりのウンディーネは、そう言ってお茶を濁す他なかった。



 ◇



 「どうしたもんかなぁ……」

 地下室の隅っこ。この場の誰からも干渉を受けない場所で、霧崎はひとり頭を悩ませていた。

 主題はもちろん、弟子であるはずのツカサ……黒雷が強くなり過ぎている件である。

 もちろん、そのチカラの大半は黒雷スーツや大精霊ノアに頼っている事は霧崎とて承知している。“気功”の扱いや総量ならば霧崎に一日の長があるのも確かなのだが、いざ勝負となった時に都合よく“気功”のみしか使いません、とはならないだろう。

 そうなったらまず霧崎は負ける。

 それは面白くない。何一つ。

 「面白くねぇっ」

 強くなるのだ。強くあらねば。強いは面白い。

 だから霧崎は挨拶もせず、壁をよじ登って姿を消した。

 まだまだ強くなる。その一念を持って。

 彼の修行はまだ続く。



 ◇



 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 私は雑木林の中をひたすらに逃げていた。

 兄の裏切りと兄の死、そして本体の消滅。これらの事が立て続けに起これば、それは私だって逃げに徹する。

 「……いつか、必ず報いを受けさせてやる!」

 私は私達を葬った人間共に復讐を誓い、いつかの再起の為にその身を前へと転がす。

 今の私の姿は実に惨めだ。人間共にバレないように、本当に小さな小さなコグモ一匹のみを産んで、精神をそちらにコピーしただけなのだから。

 だから成長するまでは本当にただの昆虫として生きる他なく、『母』と同じ権能を擁するまでに長い時間がかかる。

 それでも私は生きたいと願ったのだ。

 「よっと」

 不意に、視界がボヤけた。

 いや違う。これはおそらく、閉じ込められたのだ。

 信奉者達によって押し込められていたカプセル、そのような物の中に。

 それが『瓶』と呼ばれる物だとは、今の私には分からない事なのだけれど。


 「ようやく捕まりましたか。……やれやれ、“苦労する”なんて占い結果を出すものではありませんねぇ」

 私を捕まえた人間ともう一匹、合計二匹の人間が居る。

 「くっ……離せ! 私を誰だと思っているのよ!!」

 「おやおや、もう日本語まで学習しました? 聡いですねぇ。さすが『お姫様』」

 さして褒めてもいなさそうな顔で、人間が話しかけてくる。

 これだけ聞かされていれば覚えもするだろうがと言い返したいところだが、その前に紅い髪の男が私の入った瓶を振るものだから反論の隙を封じられてしまった。


 「んなぁこたァどうでもいい。本当にコイツをあっちの国王に引き渡せば、この異次元間ゲートを閉じられるんだな?」

 「ええ。巡り巡って、とはなりますが、あと半月以内には?」

 「そうか。お前は胡散臭いが、占い自体はよく当たるからな」

 「えぇ……? カスティルさんも僕を胡散臭い呼ばわりするんですかぁ……?」

 「そう呼ばれたくなければその目元まで伸ばした髪と常に嘲笑うように笑っている口元を何とかしろ。フード被ってるから余計胡散臭いんだよ」

 「ああっ! お天道様、僕は全良な一般人なのに、どうしてこうも毛嫌いされるのでしょうっっ!」

 「その下手な芝居っぽい動きのせいもあるぞー」


 人間達はさも楽しそうに会話しながら、私をどこかへ連れていこうとしている。こんな瓶くらい割れないかとチャレンジもしてみたが、今のチカラではどうしようもない。

 これを万事休すと言うのだろうか。

 「………私をどうする気?」

 もはや抵抗は無意味と悟り、自身の行く末だけ問うてみる。

 どうせろくな事にはならないのだろうが。

 「貴女を異世界の、不老不死を求める王様の元へ連れていきます」

 ……早速知らない単語の山だ。

 「そこにいる人間は、貴女みたいなのを求めていましてね。そんな理由で侵略戦争なんて吹っ掛けられていてはたまらないと、カスティルさんと共に色々動いていたのですが……。まぁ貴女には何を言ってるか分かりませんか」

 人間は私を小馬鹿にしたように笑うと、ふと表情を緩めた。


 「……あちらでは、貴女を敵視する者はまだおりません。だからあちらで黙って粛々と過ごしていれば、回復するまでの間が稼げるでしょう。それからは、貴女の思うように生きるといい」

 人間はそれだけ言って、私の瓶に布を掛けた。これから何が起こるのかさっぱり分からないが、生きていられるというのならなんだっていい。

 異世界? とやらに連れ去られようと、私は私だ。

 生きて、産んで、育てて、育み。その星を我がものとし、次なる星へ種子を飛ばす。

 その性質は、変わらない。

 「せめて貴女が、笑って過ごせますように」

 人間はそう言って、私を連れ去った。

 ドナドナ。

 背景はあえて詳しく説明しません。何せ主人公がそこまで関与しませんから。

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