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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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決戦!『王子』と『姫』を討伐せよ! その9

 精霊ヴォルト改め、大精霊ノアが誕生し、黒雷と共に『王子』戦線に復帰したその頃。

 「どうして、どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!」

 『姫』は勢いよく腕を振り回しながら、チクチクと攻撃を繰り返すヒーロー達を前に辟易(へきえき)していた。

 「どうして私を虐めるの、お兄ちゃん!!」

 『姫』が叫ぶ。ヒーロー達にとってその声は獣の咆哮に他ならないが、唯一のデブリヘイムたるクオンには届く。

 「おー、理由が知りたいのか、妹よ」

 クオンもまた同じ言語で言葉を返すが、その声は酷くおざなりだ。

 何故ならばクオンは今、目の前にある球体を分解するのに夢中になっているし、その中身さえ手に入れてしまえば同族の妹には欠片も興味がないからである。

 「それはだなぁ……よっと」

 カポンといい音が鳴り、球体が半分に別れる。その中に納められていたのは、クオン……いや、偽物の仮面ダンサーストローグとほぼ同じ見た目のスーツを纏った人物。

 「俺がコイツを好きになったからだ」

 それは本物の仮面ダンサーストローグであった。

 意識はなく、身動きひとつしないが、僅かに胸が上下している事から呼吸だけはしている事が分かる。それと何故か超低ボリュームで退店BGMが流れているのでヒーローとしての権能もそのままだろう。

 つまり、無事に救出できたということ。


 「つまりもう、お前は用済みなんだよ、妹」

 クオンは暗く、冷たい笑顔を貼り付けてそう同族へと宣告する。その笑みも言葉も人間には理解できないものなので、それが理解できるのは『姫』のみだ。

 「なんでだよ、お兄ちゃん!」

 しかし哀しいかな、『姫』はそれらを理解するにはあまりに精神が幼く、そしてあまりにも同族を信用し過ぎていた。

 だからその真意も、重みも知るよしはなく。

 「彗星崩撃(メテオファイナリィ)!」

 天敵(アベル)による一撃で、ジョロウグモ部分の半身は消し炭へと変わった。

 「きゃあああああああああっ!」

 まともな痛覚は存在しないはずだが、さすがに半身が吹き飛べば痛みも感じるものか。『姫』は悲痛な叫び声を上げ、もはやゴリラから先しか残っていない己の胴体を爪で引っ掻き回す。

 「た、助け……! お、おお……に、お兄ちゃん……!」

 積もりに積もった戦闘ダメージとアベルの必殺技の前に、遂に自己再生するチカラすら失った『姫』。

 残ったゴリラの腕を必死に伸ばし、今なお縁者からの救援を求めるが。

 「眠れ、妹。人類の天敵よ。……願わくば、次の生では平穏が訪れますように」

 その声とともにクオンの蹴りが直撃し、『姫』であった物は完全に沈黙した。


 これにて、ひとりの男の奪還劇は幕を閉じ、人類の天敵がまたひとつ、この世界から消滅する事となるのである。


 残すは、地下の『王子』を残すのみ……。



 ◇



 その一方で地下はというと。

 「雷龍脚! 雷龍拳! 雷龍拳! 雷龍衝波! 竜巻雷龍脚ゥ!!」

 どこぞのコンボゲーよろしく、黒雷が大怪獣へと変貌したはずの『王子』を壁際へと追い込み、ひたすらに連打を叩き込んでいた。

 「■■■■■■■■■■■■!!」

 『王子』が咆哮し、自損を顧みずに特攻を仕掛けるが、

 「なんのパリィ! 雷龍刃! 雷龍円刃! 雷龍拳!」

 黒雷と一体化しているノアのチカラによって軽々と防がれ、更にコンボが紡がれる。

 現状の黒雷は、大精霊ノアと一時的に一体化する事でスペックを数段跳ね上げる事に成功している。

 元々人類には扱いきれない高性能を秘めた黒雷スーツは、リミッターを幾つも掛ける事で無理矢理ツカサでも使用が可能なレベルまで出力を抑えていた。それが今回、ノアとの合一化によってツカサの基礎能力が上昇し、それに合わせてスーツのリミッターも幾つか解除する事で、結果的に並のヒーローを遥かに凌ぐモンスターが誕生したのである。

 「■■■■■■■ッ! ■■■■■■■■■■■!?」

 これには強大化した『王子』とて抗いきれない。

 黒雷の技によって前脚や首は即座に消し炭となり、更には体内を駆け巡る高電流が常に内臓を焼き払い続けているためどこから再生したものか状態だ。むしろここまでされてよく朽ちぬものだと、銀騎士や霧崎は呆れるばかりである。


 「ははっ……。こりゃもう、俺達の出番はねぇんじゃねぇかなぁ?」

 霧崎やウンディーネ達は黒雷と交代するように、一度前線を離れて休息をとっていた。もうそろそろ小出しにできる技の殆どは対処されるようになってきていた為、このまま粘り続けるよりは大技の為に呼吸を整えるべきだと結論付いたからである。

 「……はぁ……はぁ………。それに、しても……。恐ろしい相手ですね、デブリヘイムというのは………」

 一度だけ『マザー』との交戦経験があるウンディーネが、荒れた呼吸ながらもそう述べる。

 自己再生、自己進化、自己増殖の三原理を兼ね備えたこの究極生命体は、討伐に時間を掛ければ掛けるほど厄介な存在になる。

 『マザー』は固く柔軟な昆虫の躯を持ち、大量の仔を身篭る為か部下を多く配置して森の奥深くへと陣取っていた。

 それは人類が己の敵であると知り、最大限に警戒していたからなのかも知れないと、今になって思える。

 その点『姫』と『王子』の場合は、アクワラジによって飼われていた為か、何に置いてもまだ『マザー』より未熟と感じた。

 ただ再生能力が非常に高く、いくら攻撃しても殺しきれないというその一点のみの強さでここまで追い詰められたのだ。

 人類の天敵、という言葉の意味を痛感する。


 「だがまぁ。彼がここまで強いのならば問題ないだろう。我の加勢も意味があったようだ」

 銀騎士がひとりでうんうんと頷き、己の得物たる二振りの剣を鞘へと収めた。その後にコッペルナが持ってきた疲労回復ジュースを片手に、いつでも戦闘に復帰できるよう居住まいを正して座り込む。ウンディーネはその仕草になんとなく見覚えがあったが、あとちょっとの所で思い出せない。

 (はて……?)

 ヒーローとしては間違いなく初対面であるはずなのだが、何故か見覚えのある気がしてくるこれはなんだろうか。

 「あの……」

 思い切って聞いてみようとしたその時、状況が動いた。

 巨大な炸裂音と共に、『王子』の巨躯が弾けたのである。

 「おおっ! 遂にやったか!?」

 銀騎士が腰を浮かし、ウンディーネもまた釣られて『王子』の方を向いてしまった。

 聞くタイミングを逃したと悔やみながらも、『王子』を討伐できた喜びを共感しようと黒雷の下へ向かおうとするが。

 「来るな!」

 そう、黒雷の一言で、ウンディーネ達四人は一斉に距離を取った。

 『王子』が炸裂した煙の中で、浮かぶシルエットは()()()

 ひとつは黒雷。もうひとつは。

 「………フシューッ……」

 人間と同サイズの、全身が緑色をした()()()()()()()()


 「……え?」

 ウンディーネが思わず声を洩らす。しかし、状況だけは理解できているのだ。

 圧倒的なチカラを持った黒雷と、それに防戦一方だった『王子』。弾けた『王子』の足下へと現れた、もうひとりの黒雷。


 つまり。


 「はっ! やっこさん、俺をコピーしやがった……」

 巨躯を脱ぎ捨て、目の前にいる敵を殺す為に特化した、『王子』の進化形態。

 緑色の黒雷……。縮めて緑雷が、そこに居た。

 『マザー』は人間を取り込んでからそれなりに知識を吸収する時間はありましたが、『姫』にはそれほど時間が無かったという、それだけの差です。

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