決戦!『王子』と『姫』を討伐せよ! その8
※修祓の文章をそのまま載せておりますが、問題があるようでしたら修正致します。
あと何となくここに重ねて申し上げますが、この物語はフィクションです。
“掛けまくも畏き 伊邪那岐大神”
瀧宮 帝の奉納舞に併せ、どこからか鈴の音が響く。
“筑紫の日向の橘”
──しゃん。
“小戸の阿波岐原に”
──しゃんしゃん。
“御禊祓へ給ひし時に生り坐せる”
一言一句毎に空気が澄み、一挙手一投足毎に穢れが遠のく。
“祓戸の大神達”
ここは既に戦場であり、更に渦中の真っ只中。
“諸々の禍事・罪・穢有らむならば”
ただその中で巫女は。
“祓え給ひ清め給へと白す事を”
己が役目のみに注力し、それを果たす。
“聞こし食せと”
霊峰の地と、巫女と、地脈。
“恐み恐みも白す”
それら全てを以て、この地は今、神域に限りなく近い場と化した。
◇
一方地下では、瀧宮の舞が終わるまでの前準備としてツカサが黒雷へと変身し、清酒と新米と小型の発電機が数台、魔法陣の各所に添えられていた。
「……なぁコッペルナさん。これ、本当に合ってる?」
確かにお供え物として、清酒と新米は合っているのかもしれないが、発電機単体はどうなのだ。
その言葉に対し、コッペルナはようやく下準備が終わった段階で汗を拭い、黒雷へと振り向いた。
「あのですね、我々が呼び出すのはあくまでも元ヴォルトですよ? だったら彼女の好きな物を並べておくのは定石でしょう?」
「……うーん? そりゃ、確かに?」
あくまでもこの仰々しい儀式は相棒たる彼女に贈るもの。ならばテンプレートな捧げ物よりも、好物を置いた方がいいのは分かるのだが。
「貴方が納得しようがしまいが、今ここに至った時点で貴方はやらざるを得ませんよ。だからはい、集中集中。その祝詞を噛んだら一生彼女にからかわれますよ」
コッペルナはあくまでも成功を大前提として話を進めている。
ならば黒雷もやる事をやらねばと、己を落ち着かせてカンペを読み進める。
「……そろそろ上では修祓が終わる頃合です。準備はいいですね?」
その言葉に黒雷は頷き、役目を果たすべく口を開いた。
◇
“我が戦士の名、黒雷において此処に言の葉を成す”
コッペルナが用意した物は祝詞と言うよりも召喚口上であった。仰々しくも例を見ない文面で、彼方の貴女に届くようにと、延々と文字が記されている。
“我が心を胸に。我が想いを口に。我の全てを以て、汝に生誕の祝福と、地上における名を授けん”
紡ぐ言葉は古式とも言い難い、日本語式の何か。何処ぞの国の祭事の口上を和訳したものかもしれないし、コッペルナのオリジナルなのかも分からないが。
“時は巡り、チカラは巡り。想いは輪廻し、産声を乞う”
実際奥ゆかしい言葉の羅列に、黒雷も舌を噛みそうになるが、一生笑いものにされるとあらばやりきる他あるまい。
“想像せよ。造像せよ。創造せよ。汝の御姿を今此処に。汝の心をその内に”
神域に近いこの場に於いて、魔法陣の効果は著しく上昇する。更に神宝たるルミナストーンがその中心に陣取り、そのチカラの解放と循環まで担っているのだから尚更だ。
“縁ある我の想い、聞き届けたならば応じよ! 縁ある我のチカラを認めたならばここに生誕せよ!!”
「………あら?」
異変に気付いたのはコッペルナだった。
異変というよりも異常だろうか。本来ならばこの魔法陣を介していたとしても、眠っていた精霊を叩き起す程度の意味しか成さない筈であったのだが、現在の魔法陣の反応を見るに、相乗効果でとんでもない程のマナが循環している。
それが如何程なのかと問われたら表現は難しいが、暴走すれば関東一帯がクレーターとなる規模と例えればよいだろうか。
「……………はぁ、へぇ……?」
コッペルナはもう呆ける他ない。
儀式は既に最終盤。マナの循環は驚く程に安定していて、下手に手を出したらそれこそ危険である。
「あのクソ占い師め……こうなるって分かっていましたね……? 絶対後で…………」
その独り言は儀式によって舞い起こった爆風と白光に掻き消え、それに無防備に晒されるしかないコッペルナは必死に踏ん張りながら奥歯を噛み締めた。
“我が授けし! 汝の、名は──!!”
『王子』と戦闘していた三人もまたあまりの異変に振り返って確認するが、黒雷達は既に白光の中。
気になりながらも手を離せないまま、ただただ暴風に晒されているコッペルナに哀れみの目を向けるばかり。
そして、遂に。
「さぁ、また一緒に暮らそう!」
アドリブを挟み、告げる名は。
“ノア”
その瞬間、白光と暴風が一瞬で消え去り。
それと同時に、黒雷の目の前には一人の麗人が浮かんでいた。
物語の妖精を思い浮かべる薄い四枚翅を背に、限りなく漆黒に近い紫色の長髪を背まで流したその麗人は、微笑を浮かべたまま大地へと降り立つ。
一糸まとわぬその姿は絵画の様に美しく、しかし艶かしい色艶を持っていて。その様相に黒雷は思わず生唾を飲み込んだ。
少しの静寂。そして、
「──まったく、目覚ましには少し乱暴が過ぎるわよ、ツカサ?」
黒雷にしか聞こえぬ声でそう呟いた。
「っ……! ヴォル……いやノア! 俺が分かるのか!?」
あまりの別人感に、思わずそう問いかけてしまう黒雷。何せ肩乗り精霊サイズがメインで、人型の時もまだ美人の枠を逸脱はしていなかった。
それが今、天上の美と形容しても遜色ない姿で現れたら動揺もするというもの。
「何を当たり前の事を言っているのよ。貴方がどうしても会いたくてこんな呼び出し方をしたのでしょう?」
それでもヴォルト──ノアは、昔と変わらずそこに居た。
「いぃやー、無事に目覚められたようで何よりですネー」
儀式の成功を確認したのか、コッペルナが揉み手をしながらノアへと近付く。そして無言で白のローブとピコピコハンマーをノアへと差し出し、自身は正座をして頭を垂れた。
「……ほーう、殊勝なことじゃないの、ルナ」
どこの意図を汲んだのか、ノアはそれらを受け取ると早速着替え、まずは一回、ピコピコハンマーでコッペルナの頭を叩いた。
ピコンと、いい音が鳴る。
「仕方のない事とはいえ、よくもこんな無茶を通してくれたわね」
ピコン。
「貴女、想像できる? 土壇場で自分の想定と違う着地点を用意された者の心境」
ピコンピコン。
「分かりやすく例えるなら、バージョン1.01を1.10に上げるつもりで準備していたら唐突に1.80まで引き上げられた気分よ? もうこれ別物じゃない? ねぇ?」
ピコンピコンピコンピコンピコンピコン。
「今回たまたま上手くいったからいいものの、下手をしたら全て消し飛んでいたのだからね? 分かってる? 器に合わない急な仕様変更は害悪なのよ? ねぇったら!」
「あー、ノア。その辺にしてあげて。コッペルナも反省してるから。段々とそのピコハン、雷属性帯びてるから! もう辞めたげて!」
ノアとコッペルナの間にどんな過去があったのかは分からないが、あまりヒートアップさせては危険だと判断して黒雷が止めに入る。
その言葉に水を差されたからなのかは分からないが、ようやくノアはピコハンを放り投げると、黒雷へと向き直った。
「さてと。大体の状況は理解しているわ。やるんでしょ、アレ」
ノアの指差す方向には、遂に三人の攻撃を克服し完全復活を遂げた『王子』の姿。もはや亀と言うよりは、ガ〇ラとキン〇ギ〇ラの融合体だ。二本足で立ち上がったその姿はもはや大怪獣である。
「……ああ、やるよ。ノアが手伝ってくれるなら百人力だ」
黒雷だけでは太刀打ちできず、その時よりも更に強力な姿と成り果てた『王子』。だがしかし、今の黒雷は負ける気がしない。
「百人力なんて、そんなヤワな例えじゃつまらないわ。私が手伝ったら十万馬力よ」
「ア〇ムかよ」
「アム〇よ」
「意味わからん」
「意味なんてないわ」
「そういうもんか」
「大体そんな感じよ」
そんな無益な会話を終えて。
一人の男と一体の精霊は敵へと向き直る。
「「さぁ──、お前の罪を、数えろ!」」
黒雷の大好きな口上と共に、二人は颯爽と駆け出した。
平和にキャンプしてた時は、この子の復活なんてここに差し込まないつもりでいたんですがね……。
物語の制御を怠った結果、ここにこうなりました。
後悔も反省もありませんが、これだけはハッキリ言えるでしょう。
ドーテーにAPP18超えの裸体を見せたら性癖歪む、と。