表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
195/385

決戦!『王子』と『姫』を討伐せよ! その4


 ──私は天へと続く大穴を登っていた。


 かつて、『母』より産まれし時に見た青。数多の兄弟姉妹と共に仰いだ空。

 多くの者はその場にいた敵に殺されてしまったけれど、私ともう一体の兄弟だけは何とか生き延び、今の今までは敵と同種の者達により信仰される事で生き長らえてきた。

 その時も拝めなかった空が、今は目の前に広がり始めている。

 「あはっ! 空、空よ!」

 鈍重なまでに肥大化してしまった兄弟には申し訳ないけれど、自分は脚と手が生えていて身体を支える能力に長けているから、先に空を仰がせてもらおう。

 私達が解き放たれた地下の空間にはまだ敵がいたが、兄弟だけでも問題ないはずだ。

 むしろ私が一緒に居ると暴れにくいと文句を言われてしまったので、気にしない事にする。

 今思えばそれは兄弟の心遣いだったのかもしれない。私は信仰されながらもずっと、『あの青がもう一度見たい』と嘆いていたので。

 私にしてあげられる事と言えば、兄弟がこの大穴を登る為に適した形態に進化するまで埋められないように守る事だろうか。

 「そうね、突然空いた穴だもの。突然埋まるかもしれないわ!」

 そう思って、今度は慎重に。穴を崩落させないように、ゆっくりと登る。


 ……敵はまだ空の見える場所にいるだろうか。

 正直、不安は多い。だれど、今の私達ならばあの敵達も問題なく駆除できる気がしている。

 『母』と同じ大きさとチカラを兼ね備えた私達ならばきっと、敵を滅ぼしてこの星を我らの理想郷へと再建できるはずだ。

 『■■、■■■■■■(おや、随分と速いな)

 不意に空から、銀色の何かが落ちてきた。

 それは通り過ぎざまに敵と同じ言葉を話していた様だが、生憎と私はその言葉を理解できない。

 銀色の塊は敵なのかなんなのか。何かは分からないけれど、まぁ兄弟ならば何があっても大丈夫だと思うので、無視しよう。

 『■■■(此奴が)()■。■■■■■(か。醜い姿だが)

 銀色の塊は更に呟く。

 『■■■■■■■■■(せめて祈ってやろう)

 私は行く。

 空へ。

 『■■■■■■■■■(地獄を楽しみなさい)

 大穴を、抜けた。その瞬間。

 「いよっしゃあ大当たりィィィ!!」

 横から打撃を受けた。



 ◇



 地震のような地鳴りの後、アクワラジの基地から少し離れた土地に大穴が空いた。

 そこは丁度、ツカサ達が到達したとされる地下室と座標的には同じ場所。基地から延びていたはずの階段が崩落し、さてどう援護に向かおうかと頭を捻っていた矢先である。

 「ほほう。この火力をデブリヘイムに向けずに次の手への布石としたか。あの秘蔵っ子め、なかなかやりおるのう」

 瀧宮はその行為にいたく感心し、ツカサへの評価を改める必要を感じていた。

 巫女として世界のバランスを保つ使命を帯びている瀧宮からすれば、個人で雷の精霊とルミナストーンを保持しているツカサという存在は目の上のタンコブ以上に厄介な者である。

 何せ想定が正しければ、ひとりで世界の消費電力を一瞬だけでも賄えてしまうエネルギー量だ。

 それがもし悪意を持って使用されたならば、個人で世界と戦争することすら可能であろう。

 それ故に、人格を見定めるべくしばらく監視していたのだが。

 どうやらそれなりに、知恵の回る者ではあるようだ。

 “じゃーから言ったろうが。ワシの目に狂いはないと”

 (やかましい爺め、まだ監視しとったか……)

 不意に、瀧宮の脳内に声が響く。

 それは以前、ツカサに依頼をした神様を名乗る者の声。

 ルミナストーンを現世へとぶん投げた張本人である。


 “ワシの予見では彼のチカラは後々必要になる。あの性格なら問題ないと、ワシは問い合わせに来たお主に順序だてて説明してやったよなぁ? それをお主はなんじゃ? 気軽にこの世界に、何じゃったかの~う?”

 神様爺さんは鬼の首を取ったかのように、瀧宮の脳内に散々嫌味を垂れる。

 普段どれだけ鬱憤が溜まっていたのかと言わんレベルで、だ。

 (ああもう、分かった分かった。ワシが悪かった。今度御供え物に上物の清酒を置いてやるから今は絡むでないわ鬱陶しい)

 瀧宮は神様相手に怯むことなく、対等のような口振りでそれをあしらう。脳内会議なので周りからは認知されていないが、神様と巫女という立場を考えれば、大変不敬な行為であろう。が、両者ともに気にしていないので問題はないのかもしれない。

 “殊勝な事じゃの。ならひとつ助言をくれてやるとするか。……今からそこを登って来るのは『姫』と呼ばれている側。人間をひとり取り込んでおる。下では黒雷と呼ばれている彼が重症じゃな。このままでは遠くない内に全滅するかもしれん”

 (ッ──!! それを早く言わんかいボケ爺ィ!!)

 小鈴での通信も無く、ダークエルダー側からの報告もまだ上がって来なかったのと、大穴を空ける余裕があったのもあってすっかり失念していた。

 地下に降りた四人は、たったそれだけの人数で人類の天敵を二体も抑えていた事を。


 「神よりお告げが来た! 今よりそこを登って来るのは人間を取り込んでおる側! 地下ではひとり死にかけておる! 誰か高高度からの落下に耐性のある者は地下の援護に降りてはもらえんか!?」

 瀧宮は大穴を警戒しているヒーロー達に声をかける。

 彼らは自主的に集まって来てくれたのは有難いが、有名どころを除けば誰も彼も知らないヒーローばかりだ。

 正直統率できる気がしないので、希望者を募る形での提案しかできないのが口惜しい。

 10秒、20秒と過ぎ、最悪の場合は瀧宮自らが降り立ってルミナストーンを使い無理矢理でも倒すかと考え始めたその時。

 「……我が行こう!」

 業を煮やしたかのように、銀色の騎士が名乗り出た。

 「トウッ!!」

 銀騎士は何も事情を聞かず、すぐさま大穴に飛び込んで姿を消す。

 アレだけ目立つ様相でも名を聞かぬとなると新入者(ニュービー)の可能性が高く、大型デブリヘイムの相手を任せるには心許ないのだが、背に腹はかえられぬ。

 「頼んだぞ……!!」


 その後数十秒の後に、大穴より大型デブリヘイム『(プリンセス)』が現れ、歓喜の声を上げた仮面ダンサーストローグの渾身の蹴りによって開戦した。

 銀騎士の中の人に丁度いい使い捨てネームドがいたので当てはめる事にしました。

 同じ章での初登場で紹介文すら書いてない事が幸いでした。次回辺りに判明するかと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ