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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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決戦!『王子』と『姫』を討伐せよ! その3

 暗鬱とした地下に、陽の光が差した。

 地上とを繋ぐ大穴が空いたのだ。

 密室に溜まり込んでいた二酸化炭素は爆風と共に空へと放たれ、代わりに秩父の澄んだ空気が地下室を満たす。

 「やってくれたな、馬鹿野郎……!」

 その状況に安堵半分、怒り半分で叫ぶのは霧崎。彼もまた、酸欠により思うように動けなくなり始めていた頃であったら為、本来ならば助かったとそう思えばよいものであろうが。

 彼の怒りは別の方向へと向いている。

 「バケモンが一匹、逃げちまうだろうがよっ!」

 そう、その大穴は黒雷達の生命を繋ぐ為とはいえ、あまりにも巨大に広がりすぎたのだ。

 丁度『(プリンセス)』が逃げ出せるほどの幅が。

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■──ッ!!」

 『姫』が、啼いた。

 産まれ、捕獲されてより、ようやく見れた空だったのだろうか。

 その巨体をうち震わせたかと思えば、次の瞬間には大穴の壁へと張り付き、跳ねるようにして上へと登って行く。

 霧崎達に手出しする暇はない。もう一匹、この場に残っている『王子(プリンス)』の相手をするのに必死だからだ。

 黒雷の欠けた三人だけでは無理もない。『王子』は更に活気づくようにして、大暴れを始めたのもある。

 『姫』に遠慮して迂闊に動けなかった『王子』は、今度こそ自由の身となって自身へ向けられた敵意に本気で抗う事を決めたのだ。



 ◇



 「おいおいどうするつもりだったんだ黒いの……!」

 霧崎は焦ったように呟いて、“気功”によって強化された拳を『王子』へと叩きつけた。

 金属よりも硬いとされるデブリヘイムの甲殻よりも、更に硬度を増したであろう『王子』の甲羅にヒビが入る。

 しかし、ヒビ止まりだ。

 追撃するには手数が足りず、少しでも攻撃を怠れば即座に再生され、更に硬度は増す。

 自己進化、自己再生、自己増殖。どこぞのファンタジー細胞レベルのその能力を前にしては、人の身から放つ攻撃なぞ蚊に刺された程度のダメージなのかもしれない。

 いくらバトルジャンキーの霧崎と言えど、理不尽を前にしては無力に近い。“気功”により一般人の域は超えていても、ヒーローと互角の戦力では大型デブリヘイムを単騎撃破したりはできないのだ。

 「くそっ……!」

 三ツ首がぐるりと霧崎を睨めり、全ての首が一斉に口を開けたのを見て、霧崎は慌てて退避する。次の瞬間には焔の十字砲火が霧崎のいた辺りを狙い、更には首を曲げる事で強引に逃げる霧崎を追尾する。

 自身を焼いたとしてもすぐに回復するからとやりたい放題だ。しかも同じ事を繰り返していればその内に耐火性能すら獲得するだろう。

 末恐ろしい化け物である。


 「おい! 青いのと魔女いの! どっちかあの蜘蛛を追いかけられねぇのか!?」

 霧崎達はこの地下室にたどり着くまでかなりの時間を要した。つまり地上までの直通路ができたとしても、たどり着くまでには時間がかかるはずである。

 取り逃したらまた『マザー』の時のような事件が起きて、また椎名のような境遇の子供がうまれてしまう。

 それだけはどうしても避けてやりたかった。

 しかし、

 「黒雷さんを置いていけません!」

 「魔女とは言ってますが、実は私まだ単独で空を飛べませんので……えぇ……」

 「ああそうだな手一杯だよなクソッタレ!!」

 とまぁこの調子だ。霧崎とて壁を蹴っていけば地上まではたどり着くだろうが、『姫』に追いつけるほどの速度は出ないし背中から『王子』の火炎放射を受けた場合の対処ができない。

 黒雷は見ての通り壁にめり込んだまま身動きひとつ取れやしないので、要するに誰も追いかける事はできない。


 「万事休すってか……?」

 一応地上には瀧宮達もいるが、霧崎から見れば少女と、忍者と、忍者と、いい感じの筋肉と、なんか気の流れがおかしい変なの、だ。

 とてもじゃないが『姫』の相手を任せるには心許ない。

 「大丈夫ですよ」

 絶望的な状況の中、しかしコッペルナは呟いた。

 その間にも『王子』の甲羅は棘付きとなり、三ツ首だった頭は四つに増え、叩きつける事しか能がなかった鯨の尾びれは触手のように延びる二又となっているのだが、それでも。

 「大丈夫です」

 気丈や、言い聞かせている感じでもない。霧崎から見えるその横顔は確信しているような表情だった。

 “現代で魔女を見掛けたら、決して敵対するな。アレらの生き様は人の世に在らず、さりとて人と寄り添う事を良しとした人でなし共だ。味方ならば災禍こそあれ、(えき)にはなる”

 そう、師匠こと春日井に教わった事があったと思い出す。

 この魔女こそがそうなのかは分からないが、魔女を名乗る以上、何かしらの魔術には精通しているのだろう。

 そんな者が大丈夫と言うならば、賭けてみる価値はある。


 「分かったぜ魔女いの。俺の役割はここでコイツを倒すこと。蜘蛛は外の連中に任せておけと、そういう事だろう?」

 霧崎の言葉に、魔女いの……コッペルナはこくりと頷く。その瞬間に帽子がズレ落ちそうになり、慌てて抑えているのが実にチャーミングだ。

 『王子』の暴風雨の如き攻撃に晒されてさえいなければ、微笑ましい絵面だったかもしれない。

 大丈夫です、と彼女は三度言って、今度は更に言葉を紡ぐ。

 「だって私の今日の運勢、大吉でしたから!!」

 そのツッコミどころ満載の発言を前に、霧崎はやり場のない感情を気功と共に正面へと放った。

 『王子』の右側前後の脚が綺麗に消し飛んだが、八つ当たりなので気にしない。

 「このアマ……!」

 これが手下だったら半日ほど庭に埋めておくのだが、相手は怪しい格好をしているとはいえカタギである。

 どうしてやろうかと考えている間に、突如空から飛来した光線が『王子』を穿ち、爆砕した。

 それによって霧崎の思考も自然とそちらへと切り替わる。


 「フーッハッハッハッハッ!!」

 突如として高笑いが地下室へと響き渡り、地上へと続く大穴に影がひとつ。

 それは徐々に大きくなっていき、人のサイズで自由落下を満喫したソレは、『王子』を蹴飛ばして反転着地を決めることで反動を打ち消した。

 「我! 降臨である!!」

 白銀の鎧を身に纏い、深紅のマントをたなびかせ、黄金の剣を振るう姿はまさしく伝説の聖騎士。

 あまりにも神々しいソレを前にした霧崎達の感想は。

 「……誰だこいつ」


 ──そう、誰一人として初対面。正体不明の謎の男が今、窮地に降り立ったのである!!

 聖騎士を幼女にしようか迷いましたが幼女枠があまりにも個性的過ぎて幼女という単語自体が強者の証になりそうだったので自重しました。

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