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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
181/385

秩父での休日と、遭遇

 あれからしばらく、と言っても数日間だが、ツカサ達は傍若無人に振舞った。

 他の戦力と時には衝突し、時には和解し、時には徒党を組んで他の戦力やワイバーンを打ち倒したりしていた。

 同時に情報収集や調査も行っていたが、その中で面白かったのは、全ての戦力がそれぞれ別の物を目的にしている事である。


 まず『隠逸』だが、これは先の男の言葉の通り全盛期頭領の財宝が目当てだ。

 彼らは同じ『隠逸』という組織でありながらも財宝を目指すライバル同士であるため、基本的には「互いに干渉せず」という不文律の中活動している。もっとも、最近はツカサ達の登場で戦力バランスが崩れ始めたため、バラバラであった彼らもまとまって動く事が多くなったらしい。

 上忍ひとりでゲニニン20体を扱えると考えると、ふたりか3人集まるだけで中隊規模だ。それを瞬時に展開・運用・収納できるとなれば脅威である。

 だがこちらは財宝さえ見つかってしまえば退散するため、瀧宮的には放置しても問題ないそうだ。忍者であるため姑息だが、上手くすれば利用できるとも言っていた。


 次に、この秩父の中で最大戦力である悪の組織『アクワラジ』と、それを狩るべくやってきたヒーロー『仮面ダンサーストローグ』。

 詳細は割愛するが、アクワラジの本拠地があるこの森にストローグが潜入したと、そういう感じだ。

 アクワラジは自衛のために仕方なく、ストローグは悪即斬が信念かのようにそれぞれ戦闘を繰り広げている。

 たまに森のどこからか爆音のBGMが流れてきたら、それはストローグが戦闘している証拠なので迂回するようにとの説明をされた。

 彼は戦う時になると状況に関係なく勝手にBGMを流し出し、それを嫌って他の戦力やワイバーンは近寄らなくなったのだそうな。

 今思えば、彼はデブリヘイム事変の際にも『マザー』攻略作戦に参加していた。

 本人の意志とは関係なく、戦闘になると勝手にBGMが流れ出す仕様らしいので、あの時にデブリヘイムに発見されるようなヘマをしたのはもしかしたら彼なのかもしれない。


 次にそれなりの規模がある組織として、『関東山姥(やまんば)連合ゲートボール倶楽部』が挙げられる。

 彼女らは文字通りというか、足腰が異常に強いおばあちゃん達で構成されたゲートボール倶楽部だ。

 その活動はゲートボール以外にも多岐に渡り、霊峰の整備にも手を貸しているらしい。

 こちらは瀧宮と意気投合し、敵対する理由もないため現状は協力関係にある。

 この間、小型のワイバーンを死闘の末に討伐し孫に豚汁と偽って振舞ったという話をしていたので、相当の実力者集団のようだ。

 ワイバーンだって下手すると戦闘ヘリよりも厄介な相手のはずなのに。


 後はそう、この地が天外魔境となってからか、修行の為に山篭りをする猛者が増えたらしい。

 彼らは強さを探求するため、人を見かけ次第ストリート(?)ファイトを仕掛けてくる。

 こんな場所にいる時点で強者だとし、喧嘩を吹っ掛けてくるというわけだ。

 はた迷惑な話だが、スズが遠目にチラッと霧崎の姿を見たとも言っていたので、ツカサはもう何を言うつもりもなくなった。

 バトルジャンキー共は考える事も似通ってくるらしい。


 ……ここまでに紹介した勢力以外は、木っ端というか目立たない勢力のみだ。

 ワイバーン狩りのハンターだったりドゥエドゥエ言いながら走り回るバンパイアハンターだったりやたら祈る時間の多い老人なんかもいたが、彼らは基本的に衝突する理由がないので挨拶だけ交わして不干渉。

 彼らはやたらと戦闘力が高いが、関わる理由が一切ない。サインだけ頂戴して、御礼に邪魔にならない程度の食糧や日用品を渡した。


 と、ここまでの話を報告書に纏める内に、ふとした拍子に時計を見てみれば、既に日付は変わり時刻は土曜日の深夜零時過ぎを指していた。

 休日である。



 ◇



 「じゃあ、ワシらは一度お山の上の神社に顔を出してついでに一泊してくる。温泉施設へ行きたければ公道へ出て道なりじゃ。そこでの戦闘は御法度じゃから気をつけるように。スマホの電源は常に入れておくようにな。ではの!」

 瀧宮は矢継ぎ早にそういうと、コッペルナを引き連れてセーフハウスを出ていった。

 「じゃあ私はその温泉施設とやらに行くっス」

 「あたいとカゲトラさんは町で買い物しようって話になってんだ。ああ大丈夫。着いてこなくてもなんとかなるよだから安心して休んでな」

 スズは温泉に、枢 環とカゲトラは買い物デート。どちらもプライベートだし、邪魔するものでもないだろう。

 という事でツカサは、

 「いってらっしゃ~い。……ふぁぁあ……ねよ」

 欠伸をひとつ、二度寝と決め込んだ。

 ……が、ここで思いとどまる。そしておもむろに着替えや保存食をリュックに詰め込み、スマホの充電を確認すると黒雷へと変身しそれらを装備。

 「……いざ、ハンモックへ」

 向かう先は『隠逸』の男から押収したキャンプ場。正確に言えば、そこに設置したハンモック。

 せっかくだからソロキャンプ気分を味わおうという魂胆であった。


 キャンプ場はセーフハウスからけもの道を歩くこと数十分の位置にある。遠くもなければ近くもない位置だが、黒雷の姿ならば道中でワイバーンに出会ったとしても問題ない。

 「ふんふんふーん……♪」

 今日は休日、のんびりしようと鼻歌まじりに道を歩く。さほど遠くない位置で爆音BGMと打ち上がる火炎弾と水竜のような渦巻を見かけたが、到着までに遭遇しなさそうなので無視だ。

 さぁて着いたら何をしようか、まずは持ってきた食材で鍋でも作ろうか、なんて考えている内に。


 それと、出会った。


 「おーう、はじめましてだな黒いの。散歩か?」

 その男は草木を掻き分け、気安いノリで黒雷へと話し掛けてくるが、黒雷はあまりにも突然過ぎて返す言葉が出てこない。

 焔を思わせる紅い髪に宝石のような深緑色の瞳、彫りの深いダンディフェイス。筋骨隆々の身体を覆う薄汚れたノースリーブのシャツとポケットの多いズボン。

 一見するとただのファンタジーな冒険者にも見えるが、前情報があるとそうも言っていられない。


 “最強”。


 それがその男の通り名である。

 誰それと戦って勝利したとか、何それのチャンピオンだとか、そういう話はほとんど聞かない。何故なら、その男と戦う馬鹿はそうは居ないからだ。居たとしても無名の戦士か世間知らずな者くらいで、それくらいなら当たり前の如く男が勝つため話題にもならない。

 ただ過去に、ちょっと機嫌が悪かっただけで戦争の結果が逆転したとか、月からの侵略者を悉く血祭りにあげたとか。

 そういう実績が残っているだけだ。

 それが今、黒雷の目の前に。なんの前触れもなく現れたのだ。

 「……え、ええ。そうなんです。散歩。軽く運動したらよく眠れるもので」

 「そっかー。いい天気だもんな。物騒な場所だけど、空気は美味いもんな!」

 「ええ。物騒なことを除けばいい場所ですよねー!」


 和やかな会話が続くが、黒雷としては冷や汗が止まらない。

 完全にビビり散らしている。

 風の噂ではあるが、過去に成虫型デブリヘイムのクロックアップ状態を片手で掴んで引きちぎったと聞いたので、そんな相手と敵対したらきっと3秒で脊髄を引っこ抜かれて殺されるに違いない。

 「さて、と。自己紹介は……いらねぇか。その反応だと俺が最強って理解してるもんな」

 最強さんはぱぱっと服についた木の葉を払い、黒雷へと向き直る。

 そして、

 「お前さん、俺に恩を売る気はないか?」

 そう、宣った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最強さん、、、いったいどこのだれなんだ、、、
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