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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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狐とキツネと秩父山中 その4

 おっと、話の途中で悪いがまたワイバーンだ!

 そんな声が脳内に響き、黒雷は仕方なくトンファーを構える。そこで拘束した男の存在を思い出し、戦闘になるならば逃がしてやろうかと振り向いたが、もうそこには男の姿はなかった。

 さすが腐っても忍者。周囲の関心がワイバーンに逸れた瞬間に縄抜けをして逃走したらしい。

 「気ィ抜くんじゃないよツカサ坊。アレはワシでも仕留めるのに苦労するからのう」

 いつの間にか用意していた大刀を肩に担ぎ、瀧宮 帝は獰猛な笑みを浮かべて空に居座るワイバーンを()める。そのワイバーンは滞空しながらもコチラをじっくりと見下しており、まるでどの餌から喰らおうか見定めている様にも思えた。


 「……まぁ、あの巨躯からすれば人間なんてちょうどいい食い物みたいなもんか」

 ファンタジー作品なんかではよくよく敵対しているというか、人間を見かけたら襲いかかってくる存在と言えばワイバーンも例に挙げられる。その理由は様々だろうが、野生の個体ならば捕食が一番わかりやすい理由だろう。

 「なめやがって。ステーキにして喰ってやる」

 「おっほ、やる気じゃのうツカサ坊や。ワシも小型のならば焼いて喰ったが、調理次第では絶品間違いなしじゃった。期待してよいぞ」

 「あんなファンタジーな肉焼いて喰ったんですか!?」

 冗談半分で口にした事だが、すでに実食済みとは思わなかった。成分分析等もまだだろうに、豪胆なことである。


 「そ、そろそろ来ます。お願いですから、こっちの魔法陣にだけは近付かせないでくださいね……」

 コッペルナは戦闘には加わらず、魔法陣作製に専念するらしい。それが何のためなのかは分からないが、重要な事柄ではあるのだろう。

 「ウム。ではひと狩りしようかの」

 瀧宮もまたそれを了承し、一層楽しげに大刀を構える。カゲトラと枢 環は黒雷と共に並び立ち、スズはどうやら先程逃げた男の持ち物をできるだけ回収する事にしたようだ。情報が燃えたりすればそれもまた損失。無難な判断だろう。


 遂に地上へと降りたワイバーンは、逃げずに立ち向かうつもりの黒雷達を見てフンスと鼻を鳴らすと、空へと向けて大きく咆哮した。

 「行くぞ!」

 それを合図に、まずは瀧宮が切先を引き摺りながら先行する。地を這う蛇の如く、低姿勢のまま大刀の間合いまで近付くと一息にそれを振るった。

 狙うは後脚。丸太のように太く頑丈な部位だが、同時に支柱でもある。両断とはいかずとも、腱でも切れれば有利となるだろう。

 が、その一太刀は甲高い金属音と共に弾かれる。どうやら予想以上に皮膚が硬く、刃が通らないらしい。


 「このっ……」

 その無防備な隙を突かせないように、カゲトラと枢が散開して小銃と手榴弾で注意を逸らす。まぁ案の定というか、銃弾は全て皮膚に弾かれ手榴弾の爆発もまた表面を焦がす程度。どうやら個人が携行できる装備では傷一つ付ける事すらままならないらしい。

 だが瀧宮が離脱するだけの時間は稼げた。

 「トンファー・ビィィィッム!!」

 ここで大本命。ファンタジーにはファンタジーをぶつけんだよと言わんばかりに、未だ謎の多いなんとかストーンから成るエネルギーの奔流をワイバーンの土手っ腹へとぶつける。

 「■■■■■■■■■■!?」

 酷く耳障りな咆哮を上げ、初めてワイバーンが怯んだ。周囲に肉の焦げる匂いが立ち込め、その場の者は先程の瀧宮の発言を思い出して思わず喉を鳴らす。


 しかし、それは致命傷には至らなかった。ワイバーンは後脚で地を蹴ると、木々の裏へとその身を隠す。

 流石の黒雷もビームを曲げて追撃することはできないため、放出をやめて次に姿を現す時の為にチャージを行う。

 「──来るぞ、コッペルナを守れ!」

 瀧宮が叫んだその瞬間、木々の隙間から巨大な火炎弾が黒雷達を狙う。

 「火炎袋が標準装備とかお前らの生態マジで何なの!!?」

 黒雷はぼやきつつも、薄いシールドを何枚も発生させて防御を行う。しかしその火炎弾はシールド程度では減衰すらせず、燃え盛る勢いそのままに直進するのみ。


 「ラージ・バーストォ!」

 「水術・サンクニジュウシチ!」

 カゲトラと枢のふたりの援護によってどうにか火炎弾は相殺され、炸裂音と共に散る。しかし既に二発目が、今度は打ち下ろす形で迫っており、射線上を見上げればそこには空へと上がったワイバーンの姿があった。

 どうやら黒雷達を驚異と見なし、遠距離からの攻撃で無効化するつもりらしい。

 「くそっ、アイギス!」

 対処が間に合わないと判断した黒雷は、切り札のひとつたる白亜の大盾を呼び寄せる。それはかつて魔砲少女椎名の消滅光線すらも受け止めた実績があり、今回の遠征で無理やり許可させた装備のひとつだ。

 巨大な大盾は黒雷達全員をその陰へと置き、自重によって地中深くへと突き刺さる。それによってワイバーンの射線は完全に防がれ、火炎弾もまたその白亜に黒焦げひとつ付けることはできずに霧散する。


 しかしそれも時間稼ぎに過ぎない。何せ空を飛ぶ巨大蜥蜴だ。大盾が破壊できないと分かれば、すぐに回り込んで来るだろう。そのくらいの知能はあるはずだ。

 「なんか手はないのか……?」

 空から攻撃してくる相手に対し、黒雷達が打てる手は少ない。この面子なら遠距離攻撃は多彩ではあるのだが、ワイバーンに対して有効打となるとかなり絞られる。相手は割と自由に飛び回れる為、直線的な攻撃は回避も容易。

 スティンガーでもあればよかったが、今すぐに申請を出しても受理されるまで時間がかかるだろう。

 後は黒雷のトンファー・ビームを当たるまで撃ち続けるくらいしかない。

 割と万事休すだ。


 「おいツカサ坊。お前さんがなんでルミナストーンなんか持ってるんじゃ」

 「ルミナ……?」

 「さっきのビームのアレじゃよ。もう国宝級の装飾品にしか残っとらん筈じゃが……。まぁいい、事情は後で聞く。今はとにかくそのチカラをワシに貸せ」

 「おわっ」

 どうやらなんとかストーンはルミナストーンというらしい。ようやく名前が判明したのはいいが、今はとにかく黒雷を押し倒してベルトに頬擦りしている瀧宮の絵面がヤバい。

 幸い瀧宮は袴なのであれだが、背丈の低い少女が成人男性の顔の方に尻を向け腰の辺りに顔があるというその絵面が大変マズイ。

 「な、ななななななにやってんスか!? 見損ないましたよツカサさん!! ハレンチ通り越して犯罪っス!!」

 「不可抗力だーっ!!」

 事情は瀧宮にしか分からず、黒雷は組み伏せられている側だ。どうしようもないのに絵面は最悪。ラッキースケベもクソもない。


 「ようし、漲ってきたのじゃー!」

 そして当の御本人は何を気にした様子もなく、30秒ほど頬擦りを堪能した後はツヤツヤした表情で黒雷より飛び降りた。そして懐より玉串を数本取り出すと、ちょうど大盾の陰より顔を出したワイバーンへとそれを投げる。

 「急急如律令!」

 瀧宮がそう唱えると、玉串は全て大槍へと変化しワイバーンを穿いた。

 両の翼に穴が空き、胴と脚にもそれぞれ大槍が突き刺さる。

 「■■■■■■■!?」

 突然の奇襲に対処できず、ワイバーンは為す術なく地面へと叩き付けられ、またそれによって突き刺さっていた大槍が更に深々とめり込む。


 「お前さんの敗因はたったひとつ。たったひとつのシンプルな理由じゃ」

 いつの間にかワイバーンの背へと移動していた瀧宮は、何らかのチカラにより金色に瞬いた大刀を振り上げ、ワイバーンへと言った。

 「お前の肉は美味すぎた」

 一閃。

 ワイバーンの首が落ち、鮮血が迸った。

 勝利(食料確保)である。

 いい加減なんとかストーンという呼称もキツイのでルミナストーンと相成りました。


 また、実際の秩父にはワイバーンは生息していたいので御安心ください。居てたまるか。

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