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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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狐とキツネと秩父山中 その3

 瀧宮達のセーフハウスへと招かれたツカサ達は、自分達が彼女の協力者として寄越されたのだと説明された。細かい話は置いておくとして、まず最初はどう動くべきか。

 「戦力もあるんじゃし、まずは居所の発覚しとる弱小勢力から潰していこうかのう?」

 瀧宮は潜伏してからの数日、まずはこの争いに参加している勢力の居所を掴む事に注力し、すでに大小合わせて5つの勢力の居所を掴んでいるという。

 「どうしてその場で潰さなかったんです?」

 「そりゃたったふたりで勢力図を塗り替えだしたら他の者から警戒されるからじゃよ。あとは後ろ盾もわからんのに潰したら後々どうなるかわからんのもあるしな」

 そう言われれば確かにごもっともで、戦力を小出しにしたがる悪の組織なんかが後ろ盾だと、先鋒を潰した後に本丸が直接攻めてくる場合もある。霊峰を守護したい瀧宮からすれば確かに悪手であろう。

 「その点はお主らもそうじゃろ。先鋒として支部の一部戦力のみを駆り出し、それが敗れれば総力戦を仕掛けるつもりでおる。幹部候補として噂の黒雷を潰したとなれば、悪の組織として大義名分は成り立つからのぅ」

 「あー……なるほど。そういう考え方もあるんだなぁ」

 ツカサ自身に自覚はないが、黒雷は精霊のチカラを宿し、ヒーローとも互角の戦力を誇る若手の見本ともなるべき存在である。それがもし敗れたとなれば、その相手はダークエルダーに対して敵意を持ち、かつ無視できない程に戦力を持つ相手となる。組織対組織の総力戦に持ち込む大義名分にはもってこいと言うわけだ。


 「という雑談をしておる間に着いたわい。ここが近場の弱小勢力じゃな」

 「ニニンガシ!?」

 瀧宮に案内された先には、小さなキャンプ地を守るように配備されたゲニニン達がいた。枢が使っているモノと比べると若干カラーバリエーションが違う程度で、ほとんど同一規格らしい。

 「な、なななんだ君たちは!? 悪いがここには何もめぼしい物はないぞ!?」

 外の騒ぎに気付いたのか、テントの中から一人の男が現れる。様相としては狸が近いが、どうせモブキャラなので詳細は省こう。

 「では、お話タイムじゃな」

 瀧宮は元より穏便に済ますつもりはなく、呵呵と笑って団扇を振るう。

 「なんなんだよもー!」

 男もこちらが臨戦態勢なのを見て取ったのか、追加のゲニニンを召喚して準備は万端の様子。

 「……憐れな」

 枢がポツリと呟いたその声と共に、火蓋が切って落とされた。



 ◇



 そこから起こった戦闘は、特に苦戦する要素も無くわずか30秒程でケリが着いた。

 男側のゲニニンは全て焼き払われ、上忍と思しき男は文字通り御縄となっている。

 「『陰逸』の上忍って、誇れることじゃなかったんだねぇ……」

 その様子を見て枢は遠い目をしており、カゲトラはそれをどう励ましたものかと右往左往している。瀧宮は勝者の特権とばかりに男のテントを漁っているし、コッペルナはチョークを使って地面に魔法陣の様なものを描くのに必死だ。

 尋問官、黒雷ひとり。まとまりが無さすぎる。

 「……えー、と。まずはアンタはこの場所に何を目的で来たのか、それを教えてもらえるかな?」

 あまり男を放置しても不憫だし、さっさと情報を聞き出してやろうと、黒雷は尋問を開始する。


 「はっ! 誰が教えるもんかアバババババババ!?」

 素直じゃない子には罰ゲームとばかりに、指先から軽く放電する。まぁスタンガンより少しくらい強い程度なので、シノビ装束を着ている者ならば問題ないだろう。

 「言葉には注意することだな。私が今起こせる電撃は300V(ボルト)100A(アンペア)までいけるんだぞ?」

 ヴォルトが居たらもっと上を目指せるのだが、今の黒雷スーツではこれが限界だ。もっともその最高出力を生身の人間に当てたら死んでしまう為、まず使うことはないのだろうが、脅しとしては十分だ。

 ひくりと男の眉が動く。それは今し方浴びた電撃よりも上があるという恐怖からか、そんなものを本気で用意できるのかという(あざけ)りか。まぁ黒雷としてはどちらでも構わないのだ。


 「悪いが、こっちは悪の組織の戦闘員でな。尋問拷問拉致監禁は日常茶飯事なのさ。大人しく答えるのならば、この場はこれで見逃してやってもいい。しかし、答えないと言うのならば……」

 どうなるか、という答えの代わりに、五指の間で発生させた電撃を男の眼前へと持っていく。その可視化された青白い雷を間近で見た男は、

 「わっ、分かった! 俺が答えられることなら何でも答える! だから……!」

 仮面によって半分だけ露出した顔を恐怖に染め、陥落した。



 ◇



 そこから男が語った話は以下の通り。

 まず、この秩父の霊峰には当時最盛期であった『隠逸』の頭領が隠した財宝が眠っており、その中には頭領の証として語り継がれた武具が含まれているという。

 その武具を一式身にまとった者は正しく一騎当千。一晩で千里を駆け、一足で山を跨ぎ、一息で鳴門海峡を渡るとさえ言われていたらしい。

 何故そんなものを隠したかと言えば、当時すでに老齢だった頭領が懇意にしていた占い師に『隠逸』滅亡の未来を告げられ、ならば更に先の子孫に復興を託そうとしてそうなったそうな。

 気の長い話ではあるが、敵の手に渡るよりはと考えたのかもしれない。その辺りは当時の情勢を知らぬ者がとやかく言っても仕方のない事なのだろう。

 そして今この時代にその隠された財宝の封印が解かれ、先祖の言い伝え通りに『隠逸』を再興するべくこの地に集ったのだと男は語った。

 「……ただ、いざ来てみたら他にも強そうな奴らはいるし、こそこそ隠れながら探しても見つからないし、それに──」


 そこで男は言葉を切って、空を見上げた。

 黒雷もつられて見上げれば、そこには太陽を背にゆっくりと羽ばたく鳥の姿……。

 「いや、鳥じゃねぇ!?」

 鳥と呼ぶにはあまりにもスケール違い。

 まだ距離があるにも関わらず、()()は完全に黒雷の視界から太陽を隠し、羽音はあまりにも力強く、風圧すらも発生させている。

 シルエットも鳥とは似ても似つかず。長い首にしっぽ、それと迫るにつれていよいよ顕になる強靭な二足の後ろ足と翼の鉤爪。そう、それはまるで……。

 「話の途中じゃが飛竜(ワイバーン)じゃ! ……というやつじゃな」

 何やら途端にウキウキしだした瀧宮が、どこからか取り出した大刀を手にニヤリと笑う。

 「ここ、現代日本なんですけどー!?」

 天外魔境にて遭遇した原生生物(?)を前に、黒雷の悲鳴は虚しく木霊した。

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