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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
173/385

その名は、心鏡水天流剣術道場 その6

 ようやく40万文字突破しました。

 それなりのボリュームにはなってきたかと思います。

 突如として“気功”を発現した星矢は、己が師匠と呼ぶツカサの声を背に前へと躍り出る。

 「疾ッ!」

 振るう拳はジャブ一択。ひたすら前へ前へと進み、拳を軽く出して素早く引く。これを“気功”を用いて連続で行う事で、常人には一度に2・3発の拳が同時に繰り出されているようにも見えるはずだ。

 それを1秒間に計15発。高速を以て打ち出される拳は一瞬でも音を置き去りにした。

 当然そんなもの、竹刀一本で捌けるものではないはずだが。

 「……ふふ」

 美月が笑ったその瞬間、その拳は()()()()()()()()()

 『なっ!?』

 門下生達の驚きが重なり、その声にツカサのものも重なる。

 「護身用……というのもおかしいですが。最近は『鉄扇』を持ち歩くようになりまして」

 そう言って美月は二振りの鉄扇を拡げ、ニヤけた口元を隠す。それを使って拳を払ったのだろうが、あまりの早業過ぎてほとんどの者は目で追えてすらなかったろう。

 星矢も超人ならば、美月も超人らしい。


 「……驚いた、色々と。でもやっと、楽しくなりそうだ」

 攻め方を止め立ち止まった星矢はそう淡々と言い放ち、美月との距離を置いてからゆっくりと右腕を横へと伸ばす。

 そこに落ちてきたのは一本の竹刀。先程美月が鉄扇へと持ち替えた際に放り投げられた物だ。

 星矢はそれを掴み、軽く振るって調子を確かめてから再度構えをとる。

 「さぁ、どんどんいこうぜ!」

 星矢は楽しそうに叫ぶと、再び美月へと向かって突進した。



 ◇



 (うーん、アイツやべぇなぁ……)

 ツカサはただ漠然と、目の前で起こる乱舞を目にして呆気に取られていた。

 星矢が“気功”を発現し、竹刀を振るってから既に打ち合いの回数は百合を超える。

 それだけの打ち込みを連続で行う方も行う方だが、受ける方も受ける方だ。お互いに時折苦しそうに眉をひそめることはあっても、休もうとか止めようという気配は一切ない。

 まるでヒーロー同士の戦いを見ているようだ。

 【よう。ビビったか】

 ふたりが一度距離を離し、数度目の攻守逆転を行ったタイミングで、隣に鎮座するキーホルダー……『白鶴八相』から声がかかった。

 「ああ、ビビったね。俺より強いんじゃないかあのふたり」

 【馬鹿言え。俺様から見たら、()()アンちゃんが頭ひとつくらいは上だろうよ。生身ならの話だけどな】

 謙遜ではなく、心からそう思ってツカサは発言したが、白鶴八相からは軽く否定される。聖剣がおべっかを使うとも思えないので、それは本当にそう思っての言葉なのだろう。

 今は、と付いているあたり、うかうかしてたら追い抜かれるぞと言外に言ってくれてはいるが。


 「しっかし、“気功”なんていつ体得したんだ?」

 【今だが?】

 「今!?」

 【俺様だって驚いてんだよ。これまでのアイツはそんなマネできなかったからな。……やっぱり、アンちゃんを頼って正解だったかもなぁ】

 「……よせやい。俺は何もしてないっての」

 ツカサだって気功を扱えるようになったのはつい最近の出来事だ。人に教えられるほど修練を積んだわけでもなければ、そもそも星矢とはほとんど接点がなかったりもする。それだけに驚異的なのが、星矢の成長速度だ。

 今の星矢は薄らぼんやりとした気功しか纏えていないわけだが、それを自在にコントロールして攻撃や防御に割り振れている。

 例えば、ツカサが扱える気功のチカラを100として、それを常に攻撃50防御50と割り振っているとしよう。

 星矢はそれに対し30~40程度のチカラしか発現できていないのだが、それをうまくコントロールして攻撃に比重を置いたり、防御のみに傾けたりとそういう芸当を既にマスターしているのだ。

ツカサにだって出来ないことを平然とやってのけている。

 【それも当然っちゃ当然かもな。アイツの『走馬灯』の話が本当なら、アイツの戦闘経験は多分アンちゃんよりも上だ。元々センスもあるし、不思議じゃねぇぜ】

 「……末恐ろしいやつだな」


 和気あいあいとふたり? が喋っている間も、両者の剣戟は続く。星矢は気功の扱いに慣れてきたのか段々と剣筋が洗練されていき、美月は両手の鉄扇と足技、更に不意を突いて結った長髪で視界を遮ったりと五打点にも似た戦闘スタイルを確立していく。

 ツカサはその構図をどこかで見た気はするのだが、どうにもうまく思い出せない。最近色々あったせいだろうか。

 「いや~、彼、なかなかやりますねぇ」

 そんな思考を中断させるかのように、真人は満足気に頷きつつツカサの隣へと座り込む。どうやら勉強がてらに、審判役を門下生のひとりへ譲ったらしい。

 「ウチの美月も最近はやたらと強くなっておりまして、私が相手でないと本気の勝負はできないんじゃないかと案じておりましたが。……ふふ、素晴らしい弟子をもったようですね?」

 「ああ、いやぁまったくで……はは」

 真人は目覚めたてとはいえ“気功”が扱えるほどの猛者が入門する事に対して随分と上機嫌で、その機会をくれたツカサに感謝すらしているようだが。ツカサにとっては何から何まで予想外の連続なので、乾いた笑いしか浮かんでこない。


 【アンちゃんの賽子の目は読めないって、あの爺さんは笑ってたけど……。なるほど確かに、面白ぇ男だわ、アンちゃん】

 白鶴八相も何かひとりで納得しているようだが、ツカサには何がなにやら、だ。まぁ神様(?)と聖剣の会話なんて理解しようとすると正気度がいくらあっても足りなさそうなので、聞き流すのが吉だろう。

 そして。

 「参りました!」

 一際甲高い音と共に竹刀が天井へと打ち上げられ、美月の鉄扇が星矢の頭をかち割る寸前で静止する。

 「そ、そこまでっ!」

 審判役の子が声を張り、ようやく場の空気が弛緩する。

 終わってみれば十分にも満たない時間ではあったが、その内容はとても濃密だった。

 きっと両者共に得るものもあったかもしれない。

 「では、最後はようやく我々ですね」

 そう言って真人は立ち上がり、竹刀を握って外へと通じる扉へと歩みを進める。そしてガラリと扉を開けて、ツカサへと手招きをした。

 「我々は外でやりましょう。……中では少々、狭いですからね」

 誘われるがまま門下生達と共に着いていけば、そこは野外の修練場。ダークエルダーでも使用しているシールド発生装置が並べられ、見学者との区分けがしっかりできる作りのようだ。

 それの意味するところとは。


 「本気でこい、って事ですかね」

 「本気を出す、って事ですよ」

 ツカサが問うて真人が応える。それではどちらが挑戦者なのか曖昧だが、もはやどうでもいい事かもしれない。

 ふたりは距離をとって向かい合い、一礼をして構える。その瞬間にシールドは起動し、ツカサと真人を中央へと隔離した。これで門下生達を巻き込む心配は、ない。

 「心鏡水天流師範、水鏡 真人」

 「……我流、大杉 司」

 慣れぬ名乗りを上げて、竹刀を構える。

 あれだけの試合を観せられて、不格好なところを見せる訳にはいかないツカサは、必然的に本気で挑まねばならないだろう。その気迫を感じてか、真人の口端が吊り上がる。

 きっと今のツカサも同じように、口端が吊り上がっているかもしれないが、それを自覚する余裕はない。


 「「いざ尋常に、勝負!!」」


 ほぼ同時に声を発し、両者は激突した。

 ちなみにツカサが門下生達と試合をした際の報酬は『泉 星矢の受講料の免除』です。


 ※ただし師範代との戦闘に関してこの報酬とは一切関係ありません。

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