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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
172/385

その名は、心鏡水天流剣術道場 その5

 「──そこまで!」

 相手の首筋にヒタリと当てていた竹刀をゆっくり離すと、相手は悔しそうながらも満足気な顔で礼をし見学者の輪の中に戻る。これを何度も繰り返す内に、いつの間にか門下生達のほぼ全員と戦っていたようで、残すは水鏡親子のみとなっていた。

 「いやぁ、ホント素晴らしい動きですね」

 満面の笑みのまま水鏡 真人がタオルとスポーツドリンクを差し出してくれたので、ツカサは一言軽くお礼を告げてからそれを受け取る。

 何だかんだ言いながらも門下生達は手強く、気が付けばツカサも汗だくになっていた。“気功”を用いて身体能力がヒーロー並になっているとは言っても、それを食い殺さんとする獰猛な剣士達を相手にするのは骨が折れる。

 だけどいい気晴らしと運動にはなったので、誘いに乗ってよかったと、ツカサは思う。

 ちなみにブレイヴ・ウンディーネの使う剣術という話は本当のようで、最後の方に相手にした数人はウンディーネと同等レベルの剣術を収めていた。何度も戦って引き分けてきたツカサの感覚での話だが、間違ってはいないだろう。

 ウンディーネの候補となりそうな女性の門下生も数人いたが、昨今はTS変身という可能性も捨てきれないので男でも候補から外せない。一度戦った程度で絞り込むのは難しいだろう。


 「師匠、師匠! あの剣さばき凄いっすね! あと“気功”って言うんでしたっけ? あれも今度教えてくださいよー!」

 「ええい揺らすんじゃないよ縦揺れ横揺れ混ぜるんじゃない暑苦しい近寄るな回すな回すなぶん殴るぞ星矢ァ!」

 休憩中、聖剣『白鶴八相』の持ち主である泉 星矢にガンガン揺さぶられているが、どうして星矢がここまでテンション高いのかツカサには謎である。彼に師匠と呼ばれてはいるが、ツカサ自身は何をしてやれたということも無い。どうしてこんなに慕ってくれるのか、ツカサには全く理解できずにいた。

 「司さん、休憩が終わったら次は私とお願いしますね」

 星矢に文字通り振り回されている中、ようやく出番が来たと内心嬉しそうな美月がツカサの前へと歩みでる。師範代の娘としてずっと修行を重ねてきたという話だし、この順番での試合となるのだから実際かなりの腕前なのだろう。道場へ来るようにと誘ってくれたのも美月だし、戦闘狂みたいな血筋のようなので、よほど試合がしたかったに違いあるまい。

 もしかしたら彼女がウンディーネの可能性もあるなと、ツカサが竹刀を取ろうとした刹那、横から延びた腕が先に竹刀を取り、立ち上がった。

 「師匠! いい加減俺にもやらせてください!」

 星矢であった。


 「あの、泉先輩……?」

 静かな、しかし押し殺したような怒りを滲ませつつ美月は泉に対して笑顔を向けている。『まだ冗談なら許しますよ?』とでも言いたげな感じだが、星矢はそれを意に介さんとばかりに大手を振って道場の真ん中へと向かう。

 【ありゃ自分のカッコイイところを見せたいって顔だな】

 「ウチのセイくんがご迷惑をお掛けします……」

 白鶴八相も瑠璃も諦めた様子で、ただただ成り行きを見守っている。門下生達は動揺しながらも、ツカサの一番弟子を名乗る星矢の実力が見たいのか静観を決め込むようだ。

 「さぁ水鏡、俺とやろうか!」

 当人は既にやる気満々。乗り気にならぬは美月のみであるが。

 「せっかくだし、美月。相手になってあげなさい」

 「父さん!?」

 師範代である真人の声で、周囲の空気は完全に傾いてしまった。

 「いいじゃないか。彼はしばらくココに通うようだし、実力を見てあげても」

 真人はそう言いつつ、その笑みの裏には「これで司さんと全力でやり合える」という思惑が浮かんでいる。

 「………父さん、怨みますから」

 父親とはいえ師範代に言われては逆らえるものではなく、美月は渋々と竹刀を取って星矢へと向き直る。


 「今の私は虫の居所が悪いので、手加減しませんよ」

 「応とも。全力でやり合おうぜ!」

 温度差のあるふたりは同時に礼をし、構える。

 「……へぇ」

 その様子は正しく対称的だ。

 静かに迎え撃つ“受け”の構えをとる美月に対して、星矢は今すぐ飛びかかれるような“攻め”の構え。開始時の展開が予想し易いだけに、ツカサは軽い笑みを浮かべてそれを眺める。

 「──始め!」

 真人の合図によって、星矢対美月の試合が始まった。



 ◇



 「──始め!」

 師範代の合図を聞いて、星矢は先手必勝とばかりに飛び出した。

 自身が今の扱える最速の突き。それを以て星矢は相手に本気を示そうとするが。

 「っ……!」

 突き込む刹那、美月の目を見たその瞬間に、星矢は得物である竹刀を手放し転ぶようにして美月の脇を通り抜けた。

 「おや、感づきましたか?」

 星矢が体制を立て直して美月を見やれば、己の竹刀は何故か天井際まで打ち飛ばされており、先程まで星矢の顔が……正確には顎があったであろう位置に、美月の掌底が来ている。

 恐ろしく速いカウンター技だ。あのまま竹刀を手放さなければ恐らく、星矢の意識は闇の中へと堕ちていただろう。

 「……師匠にいいとこ魅せる試合だってのに、一発で伸されてたまるかよ」

 「あら、私のことは眼中に無いので? それはそれは、寂しいですね」

 「うっせ、俺をさっさと倒してすぐに司さんとやり合いたいだけだろうに。どっちが眼中にないんだか」

 「うふふふふ」


 星矢と美月の仲は悪い方ではないはずだ。学校生活中に多少接点があるくらいで、プライベートでマトモに関わるのはこれが初めてなのだから。

 だのに、今この瞬間に星矢に対して向けられている殺意は割とガチ目である。よほど()()()()を妨害されたのが腹に据えかねたらしい。

 (そうだ……)

 美月が望むのは強者との戦闘。今この時この場に居る強者とは、つまりツカサを指すのだろう。

 そう、この道場内においては()()()()()()()()()。少なくともそう認知されてはいないのだ。

 (ああ、そうだよ……)

 星矢に実績はない。誰かの下で学んだことも無いし、歴史に名を残すような事件の渦中に居たわけでもない。

 全く無名の、聖剣を授かっただけの一般人。これが今の泉 星矢だ。

 (だから、だからこそ)

 今の星矢の評価は、強者が引き連れてきたというだけの入門希望の木っ端剣士。誰も彼も『喋る聖剣』と『治癒の巫女』という二枚看板にばかり目がいって、星矢には見向きもしていない。

 だから。


 「だからこそ、見返してやらなきゃ気がすまねぇんだわ!」

 それは怒りか嫉妬か疎外感か。この中でただ一人、()()()()とされたからこそ星矢はこの場に立った。

 「……一体何を?」

 星矢の苦悩は、美月には分からないだろう。多分、この場にいる誰もが理解してくれないのではないか。

 それでも。

 「……やっちまえ」

 星矢の背後から声がする。それは星矢が憧れた人のもの。

 「やっちまいなよ星矢! 何とでもなるはずだ!」

 そう背中に声を受けた瞬間、星矢の中からなんとも言えない感情が溢れ出た。

 「──はいっ!」

 溢れ出る想いは色を取り、金色という形で星矢の身にまとわりつく。それは(つたな)く薄くぼんやりとしていて、まだまだ憧れの人には遠く及ばないけれど。


 「……これは、驚いた……」

 その声は誰から漏れたのか。

 このチカラはどこから溢れるのか。

 どうして、何故、なんで……。

 そんな疑問を全てぶん投げて、星矢は拳を構える。

 「さぁ、いくぜ!」

 その身に纏った“気功”を次の得物とし、星矢はただ前へと躍り出た。

 星矢くんマジ主人公。

 百と十数回は死に戻りしているので、覚悟と実戦経験は実は人一倍あり、聖剣を授かる前から何かの焦燥感に駆られつつ無茶な筋トレ等を繰り返しておりました。

 あとはツカサとの出会いと神様? の気まぐれによる何かでああなったという事で。

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