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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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その名は、心鏡水天流剣術道場 その1

 夏祭りが終わり、翌朝。

 ジャスティス白井(ホワイ)なんていう珍武装集団との出会いと戦闘をくぐり抜け、無事に生きて帰ったツカサであったが、今更ながらにその心は沈んでいる。

 (化け物、ねぇ)

 ツカサと相対したジャスティス白井のひとり。その男がツカサに向けて言い放った言葉。

 その言葉がずっと、ツカサの耳にこびり付いている。

 ツカサは布団から起き上がりつつ、銃弾を受けた箇所を擦る。

 昨日は確かに、至近距離で銃弾を受けた。モデルガンなんて玩具ではなく、本物の拳銃による、本物の弾丸を用いた銃撃。ダークエルダー製の特殊な甚平を着込んでいたとしても、貫通しないだけで衝撃はほぼ素通しに近いはずである。ならば当然、怪我の痕も酷い事になるはずなのだが。

 今のツカサに刻まれている傷は、三ヶ所の青アザのみ。それも一晩寝た今では、ちょっと机の角に脛をぶつけた時とさほど変わらない痛み程度の軽傷である。

 気功によって守られていたとはいえ、殺傷武器を用いてこれでは、化け物呼ばわりも当然ではなかろうか。


 (超人と化け物は表裏一体、ってか?)

 まだ気功が使えるだけの一般人であるつもりだった。撃たれたら死ぬものだと、そう思っていた。

 現に撃たれた事実と痛みにより、気絶はした。だが、もとより覚悟ができていればきっと耐えられたのだろう。

 耐えて、しまえたのだろう。

 現実と認識の乖離。随分と前に、コクライベルトをカシワギ博士から受け取った時にも似たような話をしたのを思い出す。

 あの時の話は確か、超常と日常のギャップについてだったか。

あの時はまさか、日常(なまみ)で銃弾を受けられるようになるとは思ってもみなかった。

 「……まぁ、おかげでこうして生きているんだし。感謝こそすれ、恨むべきではないな」

 この気功の力に助けられたのは、もはや一度や二度ではない。そのどれもが、無ければ瀕死、或いは重症を負っていた可能性があった場面ばかりである。

 「つまり、俺が生きているのは師匠のおかげ。感謝感謝」

 上の階に居るであろう霧崎(師匠)に向けて手を合わせ、ようやくツカサは暗い思考を振り切って布団から抜け出したのであった。



 ◇



 「ねぇ兄さん。美月先輩から、兄さんが明日暇かどうか聞いてくれってチャットがあったんですけど、暇なんですか?」

 「明日って日曜日じゃん。昼からなら暇だけども……待て、なんで水鏡さんが俺の予定を聞いてくるんだ?」

 兄妹揃っての朝食の後。

 昨日の顛末を軽くカシワギ博士へと報告し、詳しい報告書はまた後日ということで、休みは休みらしくぐーたら過ごすつもりだったツカサであったが。早速お気に入りのソファをカレンに占拠され、ツカサは泣く泣く使い古したクッションに腰掛けてアプリゲームのレベリング作業に勤しんでいた所にこの会話である。

 「それが……美月先輩のお家は剣術道場らしいので、見学だけでもどうか、という話らしいですよ?」

 「それにしたって唐突じゃないか。何を理由にそんなお誘いになるんだ……?」

 「えーっと……『司さんの剣術は、傍から見てどうやら我流の様子。これからも剣士として戦いを続けるならば、一度“流派の剣術”というものを学んでみてはいかがでしょう』って言ってますね」

 「チャットがリアルタイム過ぎて怖い」

 流石現役の学生同士。文字入力が爆速である。というか一度連絡先を交換したつもりなのだが、直接送ってこないのは何故だろうか。

 「『後輩の兄に連絡をする、という行為自体のハードルがちょっと高くって……』ですって」

 「人の思考を読み取って文章化するんじゃあないよ」


 まぁ確かに、対して仲良くもない異性に直接連絡を取るよりは、仲のいい後輩(いもうと)を経由した方が心理的には楽だろう。ツカサも子供の頃は、友達を遊びに誘う時は家電に掛けるしかなかった時代を生きていたので、その気持ちはよく分かる。

 「とはいえ道場なぁ……」

 正直に言うと、剣術道場という場所はお堅いイメージというか、全体的に厳しいものという印象が強い。礼節を重んじ、徹底的にルールとマナーを叩き込まれるという場所ならば、ぐーたら楽に生きたいツカサには相性の悪い場所だ。見学だけでも渋りたくなる。

 「………あー、兄さん。兄さんが渋ってるって伝えたら、とっておきの情報を出してきましたよ」

 「逐一俺の思考か何かを報告しないといけないルールでもあるの? ……まぁ、いいや。で、とっておきって?」

 「どうやらブレイヴ・ウンディーネが扱う剣術と同じ流派らしい、って噂があるそうです」

 「行かざるを得ないじゃないのもーそれぇ~」

 ファンとして、ライバルとして。ブレイヴ・ウンディーネの強さに迫れるのであれば、それは例え信憑性の薄い噂でも飛び込む他ない。本人との対決に対して有利に働くか、もしくは変身者の特定に繋がる可能性すらある。この期を逃す理由はない。


 「おっと、そうだ」

 ツカサは思い立ったが吉日とばかりにアプリを切り上げ、今まで一度も自分からは連絡をした事がない相手へと電話をかける。

 「カレン、水鏡さんには『おまけ付きになっても構わないのであればお邪魔させてもらう』って伝えてくれるか?」

 「『お知り合いの方で道場にご興味がある人がいらっしゃれば是非お誘い合わせの上でお越しください』って、既に文末みたいな文句が送られてきてますよ」

 「オッケイ了解した」

 それから数コールの後、相手が電話に出る。休日朝一番の電話なんて普通は迷惑だろうが、互いの利益にもなって説明も多く必要な事柄ならば早い方がいい。

 「お、もしもし。朝早くに悪いな。実は……」

 そこからツカサはあの手この手で相手を誘い、5分間の説得の末に了承を勝ち取った。

 それを横目で見ていたカレンは、どうして昨日の今日でそんなに元気なのかと、ちょっとだけ兄の事を不気味に思ってしまったとかどうとか。


 ともあれ、ツカサは翌日に剣術道場へと向かう事になった。

 その道場の名は、『心鏡水天流剣術道場』。

 かつて、数々の妖怪モノノ怪共を斬って捨てたと言われる大剣豪がおり、その大剣豪が己の剣技を残すために建てた道場だと、そう現代まで伝わる古めかしい建物。

 そんな場所で、ツカサを待ち受ける者とは──?

 ヒロインを一気に出すと妹が前面に出るだけになる事が判明しました(一敗)。

 なので個々のエピソードを増やしていく所存です。

 乞うご期待。

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