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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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正義の執行人VS悪の組織の怪人

 ドンガラみつおは気絶した。

 残っているのは多角シールドの周りでハンマーを構えた連中と、後はドンガラみつおの取り巻きのような男達のみ。

 ざっと見渡した感じ、男達が手に持っている銃器はおそらく懐に忍ばせる事ができる拳銃タイプのものがメイン。法治国家でありダークエルダーの目もある日本で銃器を揃えられるだけでも大した組織力だが、ただの夏祭りに小銃クラスの物は持ち込もうとは思わなかったのだろう。ハンマーは何故持ち歩いているのかは知らん。

 まぁとにかく、その程度の戦力であれば今のツカサの敵ではない。

 「まずはテメェら。よくも俺の妹とそのお友達を脅してくれたなぁ?」

 一番存在がイラつくドンガラみつおは既に気絶させており、ツカサの怒りの矛先はハンマーを構えた連中へと向けられる。

 「よ、よくもドンガラみつおさんを! うおおおおぉ!」

 男達も黙って成り行きを見ているばかりではなく、とにかくドンガラみつおを取り返そうとツカサへ向けて殺到する。


 武器を所持した男達がひとりに対して囲むように突っ込んでいく様は、普通に見れば集団リンチにしかならないだろう。だが、その真ん中にいるのはツカサ。スタンロッドを構え、気功によるオーラを身にまとったその状態ならば、ただ武器を持っただけの一般人なぞ烏合の衆に等しい。

 「手間が省けるわ」

 ツカサはそう呟くと、とりあえず傍に落ちていたドンガラみつおを軽く蹴っ飛ばしてから駆ける。蹴っ飛ばす行為に意味は無い。憂さ晴らしだ。

 そこから巻き起こるのは一方的な蹂躙。

 そもそも気功の有無で戦力が段違いで、機動力では10m程度の距離を一歩で詰め、防御力では銃弾すら痛いで済ますし、ハンマーはそもそも振りかぶっている間にスタンロッドが三度も振るえる。攻撃力はむしろ殺さないようにスタンロッドを使って手加減している状況なのだ。

 「ば、化け物……!」

 誰かが叫ぶ。その声は震えており、顔はすでに恐怖に歪んでいる。その手に持った拳銃は既に弾切れを起こしており、リロードするという発想も浮かばないままツカサに向けて空砲を鳴らしている状態だ。

 「俺が化け物? ……くくく、違うな」

 ツカサは丁寧にひとりずつ気絶させて行きながら、合間を縫ってその男の前へと立つ。

 「俺は()()だ。そう言ったのは、お前らだぞ?」

 ツカサは不敵に笑い、手に持つスタンロッドで男を殴り飛ばした。



 ◇



 そういうわけでジャスティス白井の面々に勝てる道理はなく、逃げ出そうにも警備隊がスタンバっている為、即座に捕縛されて地面へと転がされる始末。ものの三分程でその場は鎮圧され、男達はあえなく御用となったのであった。

 この後は警察組織による事情聴取のあと、秘密裏にダークエルダーの施設へと運ばれ尋問となるだろう。ツカサの知った事ではないが。

 「兄さん、兄さん兄さん兄さん!」

 「おっと。おーカレン、怖かったなぁよしよしもう大丈夫だぞ~」

 状況が一段落したのを確認してか、シールドを解除したカレンが真っ先にツカサへと駆け寄り抱き着く。

 カレンは普段から落ち着いていて大人びてはいるが、これでもまだ学生である。兄が目の前で撃たれたとあっては、平静でいられなくなるのも当然だろう。怒りと不安と安心が一気にきて、情緒不安定になるのも仕方がない。


 「ぐすっ……。兄さん、どこを撃たれたんですか? 血は……出てませんね。病院に行かなくて平気なんですか?」

 「ん、ああ大丈夫大丈夫。青アザくらいで済んでるんじゃないかなぁ」

 カレンが矢継ぎ早に怪我について質問を重ねてくるが、本当にツカサには目立った怪我がひとつもない。

 もちろんそれはダークエルダー製の防刃・防弾仕様の甚平と肌着の効果もあるだろうが、一番大きい要因は初弾に対し気功の発動が間に合った事であろう。

 ツカサは撃たれる直前に、首筋にピリッとした痛みというか、静電気のようなものを感じて、咄嗟に気功で防御力を底上げしていたのだ。

 ……まぁ、不意打ちには違いないので軽く気絶はしたが。それでも生きているのだから儲けである。

 (君が、助けてくれたのか?)

 ツカサは未だに眠ったままの相棒を想う。彼女の能力によるものならば色々と腑に落ちるというものだが、未だに姿を見せてくれないのはどういう事か。


 まだツカサが()()()()と呼んでいると思って、拗ねて出てこないだけならば。

 (大丈夫、君の名前はもう考えてあるよ)

 そう口には出さず、ただツカサは想う。それでは届かないと知りつつも、やっぱりこういうものは直接会った時に言いたいものだ。

 新たなる精霊の誕生。それに対してツカサのような一般人が名付けを行うという、分不相応に等しい状況ではあるけれども。本人が望んでくれた以上、期待に応えないワケにはいくまい。

 もうツカサは、ショックから完全に立ち直った。後は信じて待つのみだ。

 (……案外、君とならば夏祭りなんてイベントにも、気後れせずに遊びに来れたりしていたのかも、な)

 そんな薄ぼんやりとした思考のせいか、単純に動き回ったからなのか。少しだけ、ほんの少しだけ。ヴォルト・ギアを付けた手首が熱くなったような、そんな気がした。



 ◇



 大輪の花が、夏の夜空を飾る。

 「たーまや~!」

 風物詩たる文言を耳にしながら、ツカサは花火を見上げつつ焼きそばをかっ食らう。

 あの後ツカサは、何故か日向と水鏡には無茶をするなと叱られ、土浦には守ってあげられなくてごめんなさいとガチ落ち込み状態で謝られ、カレンからはその間ずっとボディブロー(弱攻撃)を連打され、警備隊……というか面識がないように装った同僚達には後日状況報告をするようにと、両手に花どころじゃないツカサに対して殺意の篭った視線を向けられ。

 その全てにしどろもどろになりながら対処して、ようやく花火が見られたのは中休みを挟んだ後であった。

 「かーぎや~!」

 大気の震える音と、人々のざわめき。これらを聞きながら、ツカサは『来て良かった』なと、心底思う。

 想定外の馬鹿共(ジャスティス白井)の妨害はあったにしろ、こういったイベントをプライベートで楽しめたのは子供の頃以来だ。

 子供の小遣いでは手を出しにくかった屋台飯も、今なら人に奢れるまで財布に余裕がある。安っぽいソースの味でさえお祭り味だと納得できるようになるとは、今までは考えた事もなかった。

 大人になると金に余裕はできても心に余裕が無くなるとは、誰の言葉だったか。


 ……まぁ今はいいかと、ツカサは思考を打ち切る。

 楽しい事を、やりたい事を、やりたいように。

 悪の組織ダークエルダーに入社し、ツカサは変わった。きっとこれからも変わり続けるだろうし、それでも変わらない部分はいつまでも変わらないかもしれない。

 「楽しいな」

 「……ええ、兄さん。来て、良かったでしょう?」

 ツカサの呟きを聞いたカレンが、満面の笑みでツカサへと問い掛ける。その問に対しツカサは、

 「────」

 その音は花火と重なり、周囲の誰にも届かない。

 でもカレンはまた、ニコリと笑い。

 ──ほんの少しだけ、ツカサの袖を握る指に力を込めていた。

 冬・春頃に夏の物語を書いていたと思ったら夏になりましたね。

 今年も週一更新を続けてこれましたし、これからも続けていこうかと思います。


 物語ももうすぐ中盤を超える頃。長い話になるかと思いますが、どうか御付き合いくださいませ。

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