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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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正義の執行人、その名は……

 「兄さんっ!」

 カレンは兄の倒れる様を見つめながら、それでも自分の役割を忘れてはいない。

 一般人の保護……つまり今の状況では、謎の男達に囲まれた自分達4人がもっとも危険と判断し、即座に緊急シールド発生装置を起動させる。

 薄い半透明の多角シールドがカレン達4人を覆い、男達から隔離する。これは政府公認で販売されている護身アイテムのひとつ(もちろんダークエルダー製)で、瓦礫の落下や銃弾の雨程度ならば半刻は安全圏として機能するスグレモノだ。その分お値段も大変な事になっているのだが、カレンは組織としても割と重要な立ち位置にいる為に無料で配給されている。

 「な、なんだこれ……っ! 司さん!?」

 発砲音を警戒し立ち止まった他の3人も、シールドが張られた状況になってようやくツカサが倒れる様を目撃する。

 「兄が心配なのは分かりますが、今はこのシールド壊したりしないでくださいね。特に楓は大人しくしていてください」

 カレンは努めて冷静に、淡々とした声で3人に言葉をかける。カレンひとりならばこの場で変身し、全てをなぎ倒して兄を救出するところだが、囲っている男達が何を所持しているか分からない以上、迂闊に3人の傍を離れるワケにはいかない。

 実に歯痒いが、今は外にいる他のダークエルダー構成員に任せる他ない。



 「ははっ。おいおい、お前らなんで()()の心配なんかしてンだよ?」

 そんな時、不愉快な声が男達の輪を越え、カレン達の前へと姿を表した。

 見た目はただの優男。高身長でイケメンの部類に入るのだろうが、その顔に浮かべる薄ら笑いがどうにも気に入らない。

 何よりもコイツは今、現状ただの一般人である兄に対して『怪人』と言い切った。

 「怪人? バカを言わないでください。そこにいるのは私の兄です。病院に連れていきたいので早く失せてもらえますか?」

 言葉の端々にどうしても抑えきれない怒りを滲ませながら、カレンはその優男を睨む。

 「ああ? これは怪人だよ怪人。銃弾受けてまだ生きてんだもンな。ははっ」

 しかし男は気にした様子もなく、シールドを数度ノックするように叩くと、軽く右手を挙げて指を鳴らした。それを合図にか、周囲の男達が両手持ちのハンマーを掲げ、一斉にシールドを叩き出す。

 「ッ! テメェ、どういうつもりだ!?」

 「ああ、自己紹介がまだだったな?」

 日向の声すら無視して男は数歩歩くと、丁度いい椅子があったとばかりに、倒れたツカサの上にどっかりと腰を落とす。

 その瞬間にカレンの中では敵意から殺意へと変わったが、この状況では流石に手は出せない。シールドによる安全圏は、逆に言えば壊れるか解除されない限りその場から動けない牢屋ともなるのだ。


 「俺達は正義の執行人。組織の名前は『ジャスティス白井(ホワイ)』ってンだ。そして俺のコードネームはドンガラみつお、よろしく☆」

 そう言って男は何が面白いのか、ツカサの頭をバンバンと叩き、腹を抱えて大笑いし始めた。

 それを見て他の3人が動き出そうとするのを、カレンは咄嗟に抑える。

 「皆さん抑えてっ。今は堪えてください……!」

 「でも、歌恋……!」

 「ここで皆さんを危険に晒すワケにはいかないんです! だから、堪えてください!」

 今一番心中が複雑であろうカレンが止めれば、3人もまた渋々飛び出すのをやめる。

 現状理解が追い付いていない状況下において、怒りによる行動は一番危険なものだ。シールドはまだしばらく保つので、コチラが下手に暴れるよりも周囲の警備隊が動いてくれた方が事態は解決に向かうはずなのだ。

 その一連の流れを見てドンガラみつおと名乗った男は笑うのをやめ、遠くにいた男を手招きで呼び寄せる。


 「……あ、あいつさっきナンパしてきた奴じゃねぇか」

 そう言われればカレンにも見覚えがあった。その男は楓が傍を離れた時にやってきて、速攻で兄の威圧で退散させられた人だ。

 ドンガラみつおはその男を自分の傍で屈ませると、カレン達にも聞こえるように言葉を発する。

 「おい、お前言ったよな? この男がダークエルダーの怪人で、必死にあの4人を守っているから何か秘密があるハズだってよォ?」

 「は、はい……。そう、言いました」

 「それにしちゃあ篭って出てこないじゃねぇの。お前、組織抜けろ」

 直後、また3発の射撃音が響き、近寄った男がその場に倒れる。だが撃たれたのは右肩と両脚の太腿部分だったようで、生きてはいるようだ。

 「ぐっ……ぎゃあああああああああ!?」

 「俺達は正義の執行人! その時間を無駄に使わせたとあっちゃ、お前だって執行対象だ。殺されないだけマシと思って、さっさと失せろ」

 ドンガラみつおに言われ、必死に這いずって逃げ出す男。味方にまで容赦ないとは、ジャスティス白井というのは一体どのような組織なのか。そもそもこのドンガラみつおなんていうふざけたコードネームのこの男が異常なのか。カレン達には知る由もない。


 「おいおいおいおい早く出てこいよ。お前らにはこれから“怪人とつるんでた罪”で調教の日々が待ってンだからよォ! 正義は俺達、お前らは悪! この構図がある以上、お前らは一生俺達の奴隷になるンだ! ギャハハハハハ!!」

 ドンガラみつおはまた楽しそうに、椅子替わりのツカサの頭を叩く。

 そんなふざけた理屈で、結局は組織的に女を捕まえたいだけかと、一度は悪漢(クラバットル)に捕まり拷問のような日々を過ごしたカレンには腸が煮えくり返る話だ。

 もうこの場で変身してしまってもいいんじゃないかと、カレンが自身の左手首に意識を集中したその時であった。

 「全員動くな!」

 カレン達を囲む男達を、更に囲むようにして警備隊が立ち並ぶ。警備隊と言っても中身はダークエルダーの戦闘員なので、こんな武器を持っただけの一般人に遅れをとるはずがない。


 「お前らこそ動くな! この男の脳みそがハジける様を見たくなけりゃ、大人しくしてるンだな!」

 だがドンガラみつおの方も、拳銃をツカサの後頭部に向けて構える。

 人質がいる分だけ有利ととったのか。ジャスティスの名が聞いて呆れるほどに清々しいクズだなと、カレンは冷めた頭で聞いている。

 もう周囲に警備隊が集まった以上、ここでカレンが暴れても犯人グループを取り逃がすことは無いだろう。一番変身を見られたくない相手に見られてしまう事になるが、ツカサの命には替えられない。やるならば、ドンガラみつおの意識が外に向いている今だと、カレンが覚悟を決めたその時である。

 「お前はいい加減、俺の上からどけよ」

 「えっ?」

 倒れていたツカサが跳ね起き、ツカサを椅子としていたドンガラみつおは転がるようにして体勢を崩す。

 ツカサがその隙を見逃すはずはなく、即座にドンガラみつおの右腕を捻りあげると、

 「お前拳銃持ってるし正当防衛な」

 と言い切ってその腕をへし折った。


 「あぎゃあああああああああ!!?」

 痛みで絶叫するドンガラみつお。だがツカサは容赦もなく、ただうるさいからという理由でスタンロッドを振るい、ドンガラみつおを気絶させる。持っていた拳銃は転送装置で回収し、残ったのは腕が変な方向に曲がった、半べそかいて気絶している男のみ。

 「兄さん、兄さん、兄さん!」

 カレンは嬉しさのあまり、何度も兄を呼ぶ。それに応えるように、ツカサはただ。

 「あいよ」

 とだけ言って、周囲の男達と向き合った。

 形勢逆転である。

 ジャスティスホワイにドンガラみつお……

 ネーミングセンスはからっきしですが、元々は悪の組織の蛮行許すまじとした正義の組織だったはずです。それがまぁ、武器と免罪符代わりの正義に酔いしれて暴走した形ですね。統率がとれていない分どの組織よりも厄介なものでしょう。

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