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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第五章 『悪の組織と夏のデキゴト』 後編
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君が浴衣で甚平が俺で、夏祭り その3

 思いつきでトウマに模擬戦を提案したら、支部内のほとんどの関係者が見学に来る大騒ぎになった件。

 以上、あらすじである。

 「いやはや、大盛況ですねー」

 なんて、対戦相手であるアベルは笑いながら、既に変身を経て柔軟体操を行っている。やる気は十分なようだ。

 「……大盛況はいいけど、いくらなんでも……」

 そう呟くツカサの目線の先には、大型のビデオカメラが数台。どうやら模擬戦の様子をリアルタイムで他の支部にも流すらしく、カシワギ博士と数名がせっせと設置している。

 「博士、博士。いくらなんでも大袈裟過ぎません?」

 「なーにを言っとるか。現役ヒーローとの模擬戦なんてそうそう撮れる絵じゃあるまいし、内容次第じゃ君の昇進まで影響するんじゃぞ?」

 「昇進? なんで?」

 「そんなもん他の幹部も映像を見るからに決まっておろうが」


 おおう、なんて、ツカサはたじろぐしかない。

 所詮は暇つぶし、なんて軽い気持ちで提案したものが、いつの間にか黒雷の評価に直結する大惨事と相成ったワケだ。

 映像データも残すのだろうし、それが査定に影響しないワケがないのである。ツカサにとっては誤算であり、博士にとっては自身の発明品の有用性を示すチャンスだ。ちょうど仕事のない今ならと、そういう事なのだろう。

 「ふふふ、ツカサさん。悪いけど手加減しませんからね」

 アベルは仮面の下で笑いながら、幼なじみであるミツワに柔軟を手伝ってもらっている。

 というかイチャイチャしている。

 本人達に見せつける気がなくとも、ツカサにはそう見える。ならば、

 「心配するな。……今この瞬間から全てがどうでも良くなった」

 「ひっ! な、なんだこの寒気ッ……殺意……?」


 リア充死すべし慈悲は無い。

 幸い、今この時よりこの場は、リア充を殴ってもよいという模擬戦の場に変わろうとしているのだ。何を遠慮する事があろうか。

 「ツカサくん、模擬戦じゃ、模擬戦。気功全開で貫手にパワーを集めるんじゃない。分かったか? ……いやだから喉元一点狙いで指先を強化はダメじゃ! おい誰かカメラの用意が終わるまでにツカサくんを宥めてくれ! 殺意の波動に目覚めたままでは模擬戦が模擬戦で無くなる!」

 その瞬間に走り出す筋肉やスズ。

 模擬戦開始前の一悶着であった。



 ◇



 まぁそんな事もありながら、結局はツカサも宥められてその場は収まった。今は心静かに、強力なシールドの中でアベルと向かい合っている。

 「変身!」

 数条の雷がツカサを打ち据え、白煙の中からツカサの変身した姿──黒雷が姿を現す。

 最近はハクでばかり戦闘を行っていた為、黒雷で戦うのは久しぶりと言ってもいい。これまではヴォルトロスが堪えたこともあり、なんとなく実働部隊からは外れていたのだ。

 だが今日この場で変身すると、昔みたいな高揚感が身体を包む。それは本物のヒーローと向かい合っているという事もあるが。なんというか、ヴォルトが近くに居てくれているという、そんな感覚があるのだ。

 実際は未だにヴォルトはギアの中で眠りについているし、目覚める予兆もない。だけど、この姿でいる時は常に彼女と共にあった。この感覚は多分、その時の名残だろう。

 「それが強化された黒雷ですか……。手合わせ、お願いします」

 そう言ってアベルは、己の得物である片手剣と拳銃を取り出す。


 アベルの戦い方は、基本的に中~短距離で格闘を交えながら敵を蹴散らす戦士タイプ。たまに片手剣を二本取り出して両手に持ったり、大量の拳銃を空中に固定して一斉掃射、なんて芸当もやるが。それはアベルの武装がデブリヘイム特攻であったから、という理由もある。

 他のヒーロー達の装備よりもデブリヘイムへの効きが良いため、取り回しの効く装備にしたとは本人の談だ。

 しかし、今回は対人戦。アベルとて全くの未経験ではなかろうが、デブリヘイム相手ほど易々といけるとは思っていないだろう。

 つまりどう戦うか予想はつかない、という事であるが。

 「やってみれば分かるか」

 なんて黒雷は独りごちて、愛用のトンファーを構える。

 「……両者、準備は良いな? では、模擬戦開始!」

 審判役であるカシワギ博士の号令と同時、周囲のシールドが更により濃く強化される。大技が飛び交う事も想定しているのだろう。


 「先手必勝! 流星弾丸(メテオバレッド)!」

 開幕から大技を放つアベル。どうやら本当に手加減をするつもりはない様子。

 ならばと、黒雷も応えるようにトンファーを前へと突き出す。

 「トンファー・ビーム!」

 放つのは、なんとかストーンの影響で撃てるようになった正体不明の光線技。一度人体に安全な物だと長い説明を受けたはずだが、あんまりよく覚えてはいない。

 とにかくそれで初撃は相殺。爆煙が舞い上がる中、次にアベルがとる行動は恐らく……。

 「流星墜脚(メテオキック)!」

 「なんのトンファー・キック!」

 両者の技がぶつかり、衝撃によって爆煙が吹き飛ぶ。一瞬の拮抗の後に、アベルは後方宙返りを決めて着地すると、低姿勢のまますくい上げるように剣を振るって来たので黒雷も交差させたトンファーで受ける。

 甲高い金属音の後、拮抗。


 「おいおい、容赦ないなぁ……!」

 「ツカサさんこそ、よく受けたじゃないですか! このコンボ、必殺の自信があったんですよ?」

 お互い、力比べの如く武器を押し込む合間に言葉を交わす。

 そこから離れ、数合交わし、距離を取って銃弾とビームの応酬、また数合……と、ふたりは場所を散々入れ替えながら、シールドの中を縦横無尽に駆け回り攻撃を交わす。

 「楽しいな……!」

 「楽しいですね……!」

 銃撃戦は不利と悟ったアベルは、今は二刀を持っての近距離戦主体。黒雷もまたそれに付き合うように、ビームを封印しトンファーを主体とした格闘技をメインと据えた。

 そこから加速する斬打の嵐。地を駆りシールドを蹴り宙を舞い、ふたりは疲れ知らずかのように舞い踊る。


 だがしかし、どんな舞踏として終わりがあるのは必然。

 黒雷が、アベルより受ける斬撃が浅い事に気付いた瞬間、その舞は終焉を迎えたのだ。

 「……コォォォォォ………!」

 突如脚を止め、構えをとる黒雷。呼吸を調え、右の腕は腰だめに、左腕はブランとたれ下げる。

 ベルトより伸びた金色のラインには、今は淡く光る赤が浮かんでいる。それが霧崎との戦闘で見せた気功による物だと、気付ける者はこの場には多い。

 だが、アベルはそれを知らないのだ。

 「流星鋏撃(メテオグリッパー)……!」

 アベルは黒雷を挟むように、真正面から大技の威力を乗せた双剣を左右から叩き込む。

 当たれば必殺のアベルの奥義。だが、それは当たればの話。

 「………」

 黒雷は、たれ下げていた左のトンファーでアベルの右腕を打ち上げ、左の剣は薄いシールドを発生させて防御。一瞬しか間は稼げないが、一瞬あれは十分。


 アベルの剣が黒雷の装甲にめり込む間に、黒雷の右腕は既に、アベルのがら空きな胴を捉えている。

 「──気功雷砲」

 練り上げられた気が、解放される。

 それは黒雷の右腕を伝い、アベルの腹部へと流れ、衝撃と成って爆散。

 トラックに跳ねられたかのようにアベルは吹き飛び、床を数度バウンドした後にシールドへと叩きつけられて静止。

 「………がはっ……っ……ごほ……っ!」

 アベルは生きてはいるが、しばらくは立ち上がれないだろう。


 「──勝者、黒雷!」

 カシワギ博士の宣言により、この模擬戦は黒雷の勝利をもって終了となった。

 悪の組織の怪人が、ヒーローに勝利した瞬間である。

 ここまで夏祭り関係なくてごめんなさい。

 きっと次からは夏祭りします。……多分!

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