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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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決戦! 邪神軍団最後の時! その4

 「やったか……!?」

 ヒーローの内の誰かがそう言って、周囲から袋叩きにあう。

 こういう場面でフラグを立てては、それが現実になるのも致し方ないというもの。タイミングよく水柱と、邪神のソレによく似た触手が舞い踊る様子を見た者は、皆仮面の下で「やっぱりか……」みたいな顔をしていただろう。

 「彼奴め、往生際の悪い……。どうやら僅かに飛び散っていた邪神の欠片を取り込んだようじゃのう」

 ハクの隣に立ち並び、いつの間にか双眼鏡を手にしていた瀧宮 帝がそう解説する。

 「邪神の欠片を取り込むと、どうなるんです?」

 恐る恐る聞くハクに、瀧宮は分からんのか、と一言間を置いて。

 「邪神モドキになる」

 と呟いた。

 「邪神……モドキ?」

 「モドキじゃよ。本体が乗り移ったわけでもない、ただのチカラの籠った欠片ではな。……じゃが、このままでは不死に近い耐久力と、尽きることない破壊衝動に呑まれた化け物になる。……怪獣退治の専門家案件になるのも時間の問題じゃな」

 「おおう……」

 一難去ってまた一難。邪神を鎮めたと思いきや、今度はそれの劣化コピーみたいなモノが相手になるという事だ。


 「変貌途中の今なら、再生も追いつかん火力で細胞の一片まで残さず焼き尽くせば事足りるが……誰か、可能な者はおるか?」

 瀧宮の問に、その場の誰もが首を横に振る。今いるヒーロー達は、そのほとんどが邪神の眷属との戦闘で疲弊し、手札も使い切った者達が大半だ。或いは切り札を残している者もいるかもしれないが、それでもあの邪神の不死性を目の当たりにしては、通用しないものだと考えたのかもしれない。

 邪神退散の立役者たる椎名も、連続で同質量の魔砲は無理という顔をしている。実際、ハクが今まで見てきた中で最大級の魔砲だったのだ。連射は不可能と見るのが当然であろう。

 また戦隊ロボ側も先の戦闘でほとんど身動きが取れないくらいまで追い詰められている為、期待できるほどの攻撃はほぼ不可能だろう。

 万事休すか、と皆が歯痒い思いをしている時、ひとりだけスマホを片手にボソボソと話し込む者がいた。

 その者……コッペルナは二、三度相槌を打つと通話を切り、ハクの元へと小走りで走りよって耳打ちを……しようとして届かない事に気付き、ジェスチャーで屈むようにと指示をしてきた。

 ハクも別に逆らう理由はないので、その場で屈んで耳打ちを受ける。

 コッペルナはボソリと短めに、ただ一言だけを告げた。

 「博士から使用許可が降りました」

 と。



 ◇



 「皆さん、聞いてください」

 クラバットル亜神化(仮称)阻止の為、部隊はふたつに分けられた。

 ひとつは、霧崎を筆頭にライブの護衛をしていて比較的元気な者や、スネイクの持ち込んだRPGやグレネードランチャーなどの銃火器を扱う事のできる者を中心とした足止め部隊。彼らはもうひとつの部隊の作戦が遂行されるまでクラバットルを攻撃し、進化よりも再生に比率を置かせる事で時間を稼ぐ事を目的とする。ノームを含めたブレイヴ・エレメンツの三人もこちらへと配属された。

 そしてもうひとつが、ハクを中心とした必殺部隊。

 読んで字のごとく、『必殺』を目的とした部隊である。

 「部隊を分けた際にも言いましたが、私には秘策があります」

 ハクは白狐剣を握ったまま変身を解除し、鎧を鞘へと戻す。

 ハク……ツカサは一応身バレ防止用にサングラスを掛け、ヒーロー達の前で鞘に包まれた剣を翳した。

 「この剣には、最終手段としての……文字通り()()()が搭載されています。ただし発動には条件が多く、そのひとつに『大量のエネルギーが必要』というものがあります」

 これは白狐剣にコアとして嵌められたなんとかストーンに対し、大量のエネルギーをチャージする行為を示す。未だ未知の鉱物なのは間違いないが、判明している性能の中には『桁違いのエネルギー容量を擁する』というものがある。

 細かく説明し出すと長いので省略するが、今必要な部分を掻い摘んで言えば、“いくらでもエネルギーを溜め込めて、必要とあれば一気に放射できる”ということだ。

 「……つまり、某宇宙戦艦の如く、「波〇砲、エネルギー充填率120%! いつでも撃てます!」ってやりたい訳だな?」

 「……まぁ、言ってしまえばそういう事ですね」

 否定したかったが、ほぼほぼその通りなので閉口するしかない。切り札なんてのは昔からロマン砲と相場が決まっているのである。


 「……それで、そのエネルギー徴収の範囲は、『使用者、または使用者に直接・間接的に触れている者』となります。肩や手などで接触してさえいれば、人数に制限はありません。多ければ多いほど威力が上がります」

 むしろ人数が少ないとエネルギー不足で発動すらしない。個人で振るうような武力ではなく、多くの賛同と同意の下でしか使えないからこそ価値がある、とはカシワギ博士の談だ。

 「まぁこの後に及んで協力できない、なんて言うつもりはない。どうすればいいか指示をくれ、白の剣士」

 ヒーローの内の誰かが頷けば、他の面々も同意を示す。ツカサの説明が拙く、本当に倒せるのか半信半疑の者も多いだろうが、他に選択肢がないのも事実。

 「ありがとうございます。ではですね……」

 そうして組み上がった陣形は、V。

 ツカサを先頭にして両側からそれぞれ肩を掴み、後は手を繋いで延びていく形である。

 正面と後方は余波も含めて危険なので、これがベストではある。あるのだが……もう日も沈もうかという熱海の浜辺で、ヒーロー達が揃ってこの陣形を組んでいる姿は異様である、としか言いようがなかろう。

 本人達は至って真面目である。何せ人類存亡の危機なのは間違いないので。

 「では……いきます!!」

 そうして組み上がった陣形を背に、ツカサは剣を高々と掲げる事で合図とした。



 ◇



 「──白狐剣、裏コード入力を開始」

 【裏コード音声入力を確認。声紋パターン照合……良】

 ツカサの言葉に応じ、剣に備えられた人工知能が起動する。

 これもカシワギ博士の趣味で取り付けられたようなものだが、独りで黙々と音声入力をするよりはずっといい。

 【使用者確認。ツカサ様、コード入力をどうぞ】

 「コード、“勝利を求める者に光の導きを。我が手に握るは栄光の(つるぎ)”」

 【照合……照合……照合……確認致しました。以降、コードは変更され二度と使用する事はできません。ご注意ください】

 悪用を防ぐ為とはいえ、プロテクトが厳重過ぎやしないかと思わないでもないが。ちなみにこのコードは博士が「やっぱり厨二チックなの、いいよね」なんて言ったせいでこうなっただけである。決してツカサの趣味ではない。

 でも嫌いじゃないわ。

 【──神話級模倣武装“エクスカリバー”展開】

 その機械音声の後、普段ならばハクの鎧として分解される鞘が展開し、青白いエネルギー体で接続された巨大な剣を構築する。それと同時、

 「ぐぅ……っ」

 と、ツカサの背後から籠るような呻き声が聞こえる。

 どういう理屈か分からないが、白狐剣が繋がったヒーロー達からエネルギーを吸い取っているのだろう。ツカサも同様に吸い取られているが、覚悟をしていたので我慢はできた。

 その呻きの連鎖はいくつか続き、その度に剣は肥大化し、圧が増す。その姿は遠方からでも視認でき、その激しい発光から幾人かは目を焼かれたように「目が、目が~ッ!」と転げ回る者もいたそうだが、それはそれとして。


 【“エクスカリバー”展開完了。コントロールを使用者に譲渡。周囲の安全を確保し、よく狙いを定めてご使用ください】

 「ご丁寧に、どうも……!」

 今のツカサは生身だ。鞘が展開する都合上、変身しながら使う訳にもいかず、無防備となる為に足止め部隊に頑張ってもらっていたという面もある。

 そして生身で、この高エネルギー体の化身とも言える“エクスカリバー”を掲げ続けるのは至難の業だ。気功による補助があったとしても、ストーブに肌を焼かれるような痛みが断続的に続いており、耐え続けるのもそろそろキツい。

 「できたぞ、退いてくれーッ!!」

 ツカサの叫びが届いたのか、足止め部隊が慌てて射線より退避し、亜神は再び進化を始める。

 だが、それもこれで終わりだ。


 「さらば、クラバットル!」


 亜神はツカサを睨む。その怨みの籠った瞳に、ツカサはゾクリと背筋に冷たい何かが走る。しかし、ここまで来たら止まれない、止まらない。


 「エクス……」


 敵は真正面。振り下ろすだけでいい。

 

 「──カリバァァァァァァァァァ!!」


 閃光が海を割り、雲を裂き、空を穿って太陽へと消えた。


 ……後には静寂と、力尽き、倒れ伏したヒーロー達の荒い息遣いのみが残る。

 ツカサの装備するヴォルト・ギアにはデフォルトで認識阻害装置が付いておりますが、素顔のまま相手に強いインパクトを残したり何度も会ったり等々していれば効果が保証されません。

 故にサングラス(ツカサには似合わないためみんなサングラスに意識が取られ、顔を覚えられにくい)という事です。もちろん必殺技使用時の遮光の意味ももちろんあります。

 ……思っていた以上に長い話となりました。次で結びに入って、その次では夏前半のキャラクター紹介になりますかね。


 余談ですが、エクスカリバーのイメージはまんまアレです。斬るのではなくビームで消し炭にするというセイバーにあるまじき手段。

 ……いや、結構みんなホイホイビーム撃つな……?

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