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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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決戦! 邪神軍団最後の時! その3

 とある男は、現在ロボットに乗り邪神との攻防を繰り広げていた。

 男にも味方は多く、4人の仲間と共に一体のロボットを操作し、同様の戦隊ロボが他に9体、そこに立ち並んでいる。

 合計10体の、その気になれば国すら簡単に攻め落とせるような連隊。それが今、邪神に向けられている戦力だ。

 なのに、

 「この化け物は……! どうしてビクともしないかなぁ!?」

 男達は散々触手や本体に向けて攻撃を繰り返していたが、そのどれもが効いた様子はない。

 逆に邪神が振るう触手はその巨大さもあってか、戦隊ロボでも一撃で薙ぎ払うだけの威力を秘めており、まともに当たったモノは大きく吹き飛ばされる事となる。

 この瞬間、男が乗るロボにもその触手が振るわれ、咄嗟に盾を構えるも堪えきれるはずもなく、その巨体は十数メートル単位で空を舞った。

 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

 たった一撃。それだけで、ロボットの全身に満遍なくダメージが行き届き、あらゆる計器が火花を散らしながら警告音を発している。

 幸いと言うべきか、彼らが吹き飛ばされた方向は浜辺ではなく海の中。これだけの巨体が、未だに他のヒーロー達が戦闘を繰り広げている浜辺へと叩きつけられたらその被害は尋常ではなくなる為、それだけはよかったと、男は胸を撫で下ろす。

 「みんな、大丈夫か!?」

 戦隊のリーダーが真っ先に声を掛け、仲間にまだ闘志はあるかと問う。

 「大丈夫……まだいけるよ!」

 男は正直、勝てないんじゃないかと内心思いながらも、しかしここで止めねば、どの道人類は滅亡すると言われたら奮い立つしかない。

 戦隊ヒーローも楽ではないなと、苦笑いしながら。


 その時だ。丁度浜辺から邪神へと、視界が開けた瞬間。

 極太の白線が、邪神へと突き刺さった。

 「なっ……!?」

 見れば、先程まで浜辺の上で謎のライブを行っていた少女から、その光線は伸びている。

 ロボの中でもそのライブの音声は拾っていて、今絶賛人気急上昇のVドル、裏見 恋歌の曲を非常に綺麗な歌声で歌うモノだと、仲間達と感心しながら、BGM代わりに流していたのだが。

 それがよもや、邪神に対する攻撃へと繋がるとは。

 「……あの少女は、女神か何かか?」

 男は薄ら笑う。何故なら、邪神は今の攻撃で初めて、苦しそうに悶えているから。

 仲間が答える。

 「邪神と女神か。……同じ神様でも、崇めるなら俺は断然女神様だね」

 気の合う仲間よ、後で飲もうと男は思う。

 その時、全てのロボにライフルレッドからの通信が届く。

 内容は至ってシンプル。

 「我らの女神に続け!」

 こりゃ打ち上げは相当派手になるなと、男は未だに止まぬ火花を浴びながらも、心を奮い立たせ、再び邪神へと対峙した。



 ◇



 「我が神ィ!!?」

 クラバットルが叫ぶ。

 突如ライブ会場より打ち出された白線。それは邪神の肌を焼き、身を焦がした。

 「■■■■■■■■■■■■■■───」

 あれだけ多くの戦隊ロボを相手に、全くの無傷と余裕を保っていた邪神が初めて苦悶の声を漏らす。それは一般人が聞けば間違いなく正気度が削れていくようなこの世ならざる声であったが、対策の成されたヒーロー達には逆転の兆しに他ならない。

 直後に戦隊ロボからの必殺技が次々と焦げた箇所に炸裂し、堪らず邪神は身悶える。例えるならば、皮膚が爛れる程に火傷した肌に塩を塗りたくるが如く。

 そんな歓待を、目覚めた直後に受けた邪神は何を思うだろうか。それも一度は人の身より重傷を負わされ、逃げ込んだ先に封じられた邪神が、だ。

 「■■■■■■■……」

 邪神はその身を翻し、海底へと潜った。

 この身を滅ぼされるくらいならば、また眠った方がマシだと。悠久の時を微睡みの内に過ごす神ならば、人による封印など昼寝をする為の寝台と同じだ。

 この世界の光の巨人枠が現れなかっただけ、邪神としては幸運なくらいである。

 そうして荒ぶる神は深海の底へと潜り、神殿へとその身を横たえた。またいずれ目が覚めた時を望んで。

 「そ、そんな……」

 その状況にひとり、納得いっていないのがクラバットルである。彼は己の全てを賭けて、今回の邪神復活を目論んだ。それが潰えたとなると、クラバットルの命運は既に決まったも同然。

 「余所見すんなゴラァ!!」

 クラバットルが振り向いた刹那。ハクとノームの拳がその身へと炸裂した。



 ◇



 「「う、お、お、お、お、おおおおおおおおおおお!」」

 ラッシュラッシュ、またラッシュ。

 双の拳が二人分。無抵抗のクラバットルの身体に暴力として降り掛かる。

 邪神は再び眠り、眷属も使徒もほぼ討伐された。残るは元凶たるクラバットルのみ。(しんゆう)の仇となれば、ハクとノームに容赦という二文字はない。

 「「おおおおおおおおッ」」

 その拳は残像が残るほど高速に。ハクなんかは最初から気功を用いて殺意高めである。

 「「おおおおおおりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 そしてふたりはほぼ同時。ノームは右腕のガントレットをパイルバンカーモードへと変形し、ハクもまた盾を同様のカタチへと変化させる。

 双の拳をぶち込み、一拍。

 直後に、空気の壁を突破しながらクラバットルは吹き飛んだ。

 邪神の眠る、母なる海へと。



 ◇



 ──ああ、もう終わりか。これが私の全てなのか。


 虫の息にて、走馬灯のようにクラバットルは思う。

 己はこのまま、他の怪人や使徒達と同じように爆散して死ぬだろう。信じる神の御姿を拝見できただけでも価値はあったかと、そう思いたいが。

 己の身は海面に叩きつけられた。痛い。苦しい。


 ──死にたくないな。


 己には野望があった。それを叶える手段もあった。

 なのに、邪魔をされた程度で挫けるのか。


 ──そうだ、奴らが悪いんだ。


 新世界を望むこの身を、ここまで追い込んだ男女。奴らに復讐せねば、この怒りは収まらない。


 ──憎い、憎い憎い憎いィ……!


 憎しみ、怒り、悲しみ、苦痛。

 その感情に引き寄せられたのか、はたまた己の悪運が招き寄せたのか。

 爆発四散を待つだけだったその身に、コツンと何かが当たる。

 震える手でつまみ上げて見れば、それは先程の戦いで傷付き、飛び散ったであろう邪神様の細胞の一部。


 ──ああ、神よ。私を見捨てはしなかったのですね。


 己の身は崩壊寸前。だが、我が神の一部を取り込めれば、或いは……。


 ──ああ……神よ……。


 祈り、飲み込んだ。

 意識が、  暗     転       す  


 …………

 ………

 ……

 もうちっとだけ続くんじゃ。

 映画のラスボスはしつこくてナンボ。

 多分、クラバットルが海に落ちた辺りで誰かが「やったか…!?」って言ったせいではないかな。

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