決戦! 邪神軍団最後の時! その2
コッペルナから盾を受け取り、それを装着するハク。
その盾は一見なんてことは無い、シンプルなデザインのものだが、あの天災がそんな単純な物を作って満足する訳が無い。
「くっくっくっ……そんな盾ひとつで、このゴーレムを倒せるおつもりで?」
敵であるクラバットルすら、その様子に笑いを隠せな……いや、常にコイツは笑っていたか。
「笑っていられるのも今のうちだっての。ノーム、ちょっと耳を貸してくれ」
「え、……はい」
「──を、……ってできるか?」
「うーん……一応できるかと。でも本当に大丈夫ですか?」
ノームもまた性能を疑っている。
「大丈夫大丈夫……じゃ、頼むよ!」
そう言ってハクは走り出す。目指すはゴーレム。歌もまだ続いているし、これで決めねばバツが悪い。
「うおおおおっ!」
直前まで両手で剣を握ってはいるが、今はこれの出番ではない。この盾が届いた時点で、ハクの作戦は既に決まっている。
「くっくっくっ……無駄で──何っ」
クラバットルが妨害の為に冷凍銃を撃つ直前、突如として砂が壁の如くせり上がり、その視界を塞ぐ。ノームがハクに頼まれたのは、砂壁による視覚妨害であったのだ。
「冷凍銃さえこなければっ」
壁ができた瞬間にハクは剣を仕舞う。代わりに振りかぶるのは盾。いや、
「ドリルアーム!」
ハクの声と連動するように、その盾が姿を変える。それは男の浪漫であり、硬い岩盤すら打ち貫く螺旋のカタチ。
多種変形機能付き守護盾。それがこの盾の仮称である。神様より賜ったなんとかストーンを混ぜ込み、粘土のように姿を変えられるそれはカシワギ博士渾身の傑作。いかなデブリヘイム合金と言えども、このドリルの前ではただの岩と同等。
「削り落としてくれるわぁーっ!」
ゴーレムのカウンター右ストレートを避け、その肩口へとドリルを突き込む。甲高い掘削音の後、ものの数秒でその右腕は本体より切り離された。
「そして再生する前に、こう!」
ハクは即座に再生をしようとする右腕を掴むと、ヴォルト・ギアの転送機能を使い、それをハクの所属するダークエルダーの支部へと転送する。熱海から首都圏までの距離を瞬時に離されては、流石のゴーレムでも再生は追いつかないだろう。
「これもいただき!」
右腕を失った事でバランスを崩したゴーレムの隙をついて、更に両脚を掘削し転送する。
これで残るは胴体と左腕のみ。もはや自力での移動すら困難になったゴーレムでは足止めにもならないだろう。
そこでハクは何を思ったかノームの隣まで戻り、ドリルをまた盾へと戻した。丁度その頃には砂の壁も崩れ、クラバットルの姿が見えるようになる。
「き、貴様……! 私のゴーレムに何をした……!?」
ようやく視界の晴れたクラバットルが見たものは、自慢のゴーレムの無惨な姿。砂の流動による騒音で掘削音が掻き消されたのか、本当に何が起きたか分からないようだ。
「分からないなら好都合! 行くぞノーム!」
「うん!」
進路を塞ぐ物はいなくなった。これでクラバットルへと復讐が行える。
ハクとノームは得物を手に、最後の距離を詰めるべく砂を蹴った。
◇
歌いやすい、と椎名は思う。
視界が目隠しで遮られ、周囲では未だに爆音やらが響いているのだが、その緊張感が逆に歌う事へ埋没させてくれる。
【私はただ泣き喚いて 貴方に縋り付くだけ】
瀧宮 帝と名乗った少女。彼女は今、椎名の目の前の位置で舞っているはず。目隠しをしていても、何故かそれは分かる。
【嫌な予感はしていたの だって貴方ってば笑っていたもの】
瀧宮の存在感は凄まじい。扇子に付いた鈴が揺れる度に鳴るから、というだけでなく。
彼女が舞を重ねる事に、周囲の空気が澄んでいくのを感じる。世の中には一芸を極めた者は聖域にも似た空間を織り成せるという話もあるが、彼女がその一人なのだろうか?
【ハイビームとパトランプ 白と赤が闇夜を照らす】
彼女に釣られ、椎名の歌もまたその領域に足を踏み入れようとしている。元々は魔砲を放つ為の精神集中にと歌っていたものだが、歌えば歌うほど精度も威力も上がるので、歌うのがもはやデフォとなった。
【何がいけなかったのか 誰が悪いのか問い詰めたくて】
そう言えばあの夜は、あの場の誰のものでもない声が聴こえた気がしたのだが、どうだっただろうか。
まさかこの身にも精霊が……とも考え始めて、そこで椎名は思考を中断し、歌へと埋没するべく神経を研ぎ澄ます。
【憎くて憎くて仕方がなくて 私は血濡れの傘を拾うの】
今は邪神とヒーローの、人類の存亡を賭けた一大決戦の場。魔砲が決め手となるとツカサさんは言っていたし、ならばやらねば、と椎名は思う。
それはいつかの恩返しの意味もあるが、もしかしたらそれだけではないのかもしれない。
【向ける相手はどっち? 私、それともアイツ?】
淡い……本当に淡いこの気持ちは、どこに向けての物なのか。それは椎名本人にも分からない。
だけど、分からないからといって、それは決して不快なものではない。むしろ言葉にできないからこそ、妙に考えなくてもいいやとも思える。
【怨みを込めた悲しみの咆哮】
「今じゃ、正面に向けてそれをぶち込めーッ!」
「──ッ」
その瞬間、かつてと比にならない程に極太な白線が、邪神へと直撃した。
戦隊ロボ複数体で挑んでも勝てるかどうか、と言っている所に単体(プラス舞姫)でグ〇ッターティ〇並の火力を出す魔砲少女が居た!