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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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邪神VSヒーロー その5

 デブリヘイムの殻を用いたゴーレムを前に、サラマンダーとウンディーネがそれぞれ一体ずつを相手取り、ハクとノームはふたりで一体を相手する事になったのだが。

 「チェリオォォォォ!」

 ハクが渾身のチカラで剣を振り下ろすも、甲高い金属音が鳴り響き弾かれるばかり。鍛え直した白狐剣は幸いにも刃こぼれひとつしていないが、ゴーレム側も傷ひとつ付いていないのだからどうしようもない。

 このゴーレムは関節すら同じ素材で作られている為、デブリヘイムと同じように関節を狙っても切断まで至る事ができない。

 「ハァァァアッ!」

 ノームが殴りつけるも、結果は同じ。一応打撃は通るようで、装甲にひび割れは起こすものの、徐々にその傷は直り10秒もすれば完全に塞がってしまう。

 再生能力はファンタジー系統のゴーレムにはありがちな能力だが、敵に回すとこんなに厄介だとは。

 「くっくっくっ……無駄ですよ、無駄無駄。このゴーレムは試作とはいえ、壁役としてならば十分に機能しますからねぇ」

 クラバットルは未だに余裕の表情でハク達を見ている。カニバサミをカチカチと鳴らし、早く神の威光を世に示さんとウキウキの様子。腹立たしいことこの上ない。


 「……なるほど、この硬さ。『マザー』の鎌と似た感触がしますね」

 「いってぇ~……。突くたびに手が痺れるのは慣れないなぁ」

 サラマンダーとウンディーネも同じように苦戦しているようで、それぞれの得物で様々な部位を狙いながら、感触を確かめている。

 「……だけど」

 「今の私達に斬れない硬さではないですね」

 そうふたりは言うと、得物にエレメントのチカラを込める。

 ハクは『マザー』戦の様子を生で見ることはできず、後に記録データでしか見ていなかったので知りもしない事柄ではあるのだが、このふたりは『マザー』の装甲を独力だけで突破出来なかった事を後悔していた。いつかその雪辱を果たそうと、密かに願っていたのである。

 そして、今がその時。

 「焔よ燃え上がれ」

 「水よ湧きあがれ」

 ふたりはそれぞれに、ゴーレムから一定の距離を取って得物を構える。

 「「我らに、討滅のチカラを──」」

 槍と刀が、それぞれ色を宿す。

 赤の槍と、青の刀。それぞれのチカラの篭った、精霊の輝き。

 「焔の……」

 「水の……」


 「「一閃!!」」


 ふたりがゴーレムに向けて得物を振るった直後、片方のゴーレムは胴体に大穴を空け、片方のゴーレムは上下に二分され、浜辺へと転がる。

 ふたりの放った技は初歩に近いもので、『マザー』に放った協力技と比べたら数段威力が劣る。それでも、デブリヘイム合金と呼ぶべき代物を相手に打ち勝ったのだから、それはふたりの成長した証。

 見事に雪辱を果たしたのである。

 だが、

 「くっくっくっ………少々焦りましたが、まだゴーレムは無事ですよ!」

 クラバットルが叫ぶ通り、ふたりが攻撃したゴーレムはゆっくりとながら再生を始めた。放っておくと、またすぐに動き出すだろう。

 「ほーん、頑丈だなぁ。……じゃ、ちょっとだけ本気を出すか、ウンディーネ!」

 「分かったわサラマンダー。……アレを使うのね?」

 ゴーレムが再生仕切る前に畳み掛けるわけでもなく、ふたりは示し合わせるように右手を掲げる。

 何かしら作戦があるのかもしれないが、できれば未だにゴーレムに有効打すら与えられず右往左往するしかないハクとノームにも気を配って欲しい。


 「お、おい……? 2人とも何して……」

 もうゴーレム達も再生しきろうとしているので、痺れを切らしてハクが戦闘の合間に声を掛けるが、そういい切る前に状況は変わる。

 「起きろアスカ!」

 「目覚めてルナ!」

 ふたりの叫びは世界に響き、()()()はそれに応えるように現れる。

 燃える太陽の化身、上位精霊アスカ。

 闇夜を照らす月の化身、上位精霊ルナ。

 彼女達はサラマンダーとウンディーネの背後にそれぞれ現れ、微笑むように笑ってから、その身を掲げられた右手へと溶けるように一体化する。

 正確には、右腕に巻かれたブレスレットへと、だ。


 「「デュアルエレメント・エスカレーション!!」」


 叫んだ直後、ふたりの姿は光の柱の中へと消え、再度現れたその時には、その服装は更に華美な物へと変化していた。

 いわゆる強化形態というやつである。

 「サラマンダー・アスカフォーム!」

 「ウンディーネ・ルナフォーム!」

 それは、ふたつの精霊を内に内包した、ブレイヴ・エレメンツの進化した姿。四大精霊であるサラマンダーとウンディーネのチカラに加え、更に上位である二柱の精霊の一端を受け継いだ、天下無双の境地である。

 (……マジかよ……)

 人類の危機たるこの場面では頼もしいモノだが、敵対組織であるダークエルダーの身からしたらたまったものではないと、ハクは内心嘆息する。

 ただでさえ手も足も出なかったブレイヴ・エレメンツが更に強化されてしまったら、もう勝ち目はないではないか。

 (でも、やっぱカッコイイなぁ……)

 強化されてしまったものはしょうがないと、特撮馬鹿は考えることを辞めた。

 「……いやいや、強化されたとしても、私のゴーレムに敵うはずがない……!」

 口癖である「くっくっくっ……」すら忘れて、クラバットルは叫ぶ。自身の作品に自信があるのだろうか、それとも何かを認めたくないのか。邪神という絶対的な後ろ盾を前に、退くという選択肢を見失っただけかもしれない。


 「ま、でも俺達は前座だしな」

 「この2体だけは片付けますので、後はよろしくお願いしますね、ハクさん、ノーム」

 自分達は今回の主役じゃないと、ふたりは軽い調子で言う。そして、

 「サンシャイン・レーザー!」

 「月下魅刃!」

 言葉の通り、それぞれが一体ずつゴーレムを瞬殺してハクとノームに道を譲り、自分達は残った眷属達の片付けへと向かって行った。

 残されたふたりの前には、ゴーレムが一体とクラバットルのみ。


いよいよクライマックスである。

 呂布イカ戦での挫折を経て、映画1本分か本編2~3話分の物語を紡ぎ辿り着いた、ブレイヴ・エレメンツの強化フォーム。

 その裏にある苦労と喜劇は、残念ながら本編で語られる事はないでしょう。

 だって主人公、悪の組織の戦闘員なので……。

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