夕焼けと、赤・青・黒
反省会から少し。もうすぐ日も沈もうかという頃。ツカサは一人、自身が侵略すべき街を歩いていた。
昼間の喧騒なぞ嘘のように、街は平穏な空気に包まれている。それはこの街の人々特有なのか、ヒーロー達の裏にいるであろう黒幕の催眠による効果なのか。今のツカサには判断のつかない事なのだけれど。
それでもやはり、侵略を行う事に躊躇いはない。誰もが定時退社を許されなかったり、酷暑の中を根性論で運動させるようなこの国の在り方は、それだけ酷く歪なのだから。
「それでも、ヒーローは彼らの中では正義の体現者なのだろうけど」
或いは、絶対強者に孤軍奮闘する彼ら彼女らに何かを重ねて見ているのか。
変化を嫌う日本人の、もはや性質とも呼べるソレは、我々ダークエルダーの目的にはそぐわない。しかし、変化のない日常を平和と呼んでしまうのならば、ヒーローという存在は正しく改革を遠ざける救世主であろう。たとえそれが、問題を先送りにしているだけの行為だとしても。
「っと、考え事をしてたらこんな場所に」
そこは、ちょっとした丘の上にある寂れた公園。
朱に染まりつつあるその場所には、遊具なぞブランコが置かれているだけ。あとは手入れのされていないようなベンチが幾つかと、小さな展望台のみ。
人の気配のないその公園へと、何となくツカサは足を踏み入れる。元々目的のない散歩のようなもの。ちょうど夕暮れ時だし、たまにはのんびりと陽の落ちる様子を見てみようと。そんな軽いノリの行動だった。
「珍しいな。オレ達より先客がいるなんて」
ちょうど展望台の手摺りに体重を預けたその時、背後から声を掛けられた。
ツカサが振り返る前に、声の主はツカサより少し離れた場所に位置取り、同じく手摺りに身体を預ける。
──それは、地元の学校の制服に身を包んだ二人の少女。
一人は少々茶色かかった短めの髪を潮風に晒し、年相応より大きめの胸を抱えるようにして手摺に。
一人は長い漆黒の髪を風に揺らし、茶髪の少女のやや後ろで佇んでいる。
「ここから見る夕陽が好きでさ。地元民は知ってても誰も来ないから、実質オレ達の特等席みたいなもんだったんだけど」
そろそろだぜ、と言われツカサが正面を望めば。
そこには沈みゆく夕陽と、それを優しく受け止める海。そして、朱に染まる町並み。
都心では決して見ることのない、その光景に。ツカサは自然と溜息を零して、夕陽が沈みきるまでその光景を眺め続けていた。
「……いや、これはなかなか。凄いな……」
たった数分の出来事にすっかり見入っていたツカサは、同じ夕陽を眺めていた二人に声をかけていた。
もっとも、その感動を伝えられるほどの語彙力を持たなかったために凄いしか言えなかったが。
「だろ?オレ達もたまに見に来るんだ」
ぐーっと身体を伸ばし、茶色の少女はカラカラと笑った。
そのままくるりと振り返ると、二人の少女はゆっくりと公園の出口へと向かう。
「また見に来てもいいかな?」
「好きにしなよ。ここは別にオレ達だけの場所じゃないからな」
それ以上、お互いに名乗りも会話もない。
でも何故かツカサには、去りゆく二人の背中にブレイヴ・エレメンツの姿を幻視した。
茶髪と黒髪の二人の少女。
一体何イヴ・何メンツなんだ……。