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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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邪神VSヒーロー その2

 「ムッ? これはマズイ」

 ツカサの背後でそのような声がしたかと思うと、ツカサは襟首を捕まれ一瞬で5mほど後退していた。

 「ぐえー」

 瞬間的に負荷が掛かったせいか思いっきり首に圧力が掛かったが、それを問い詰める前に声の主は動く。

 「祓い給い浄め給う」

 パンパンと柏手ふたつ。それと同時に、ツカサを含めたこの場の全員を囲むように幾つもの玉串が砂浜へと突き刺さる。

 一瞬だけ肌を焼くような気配の後、清涼な空気が立ち込め辺りを覆う。そしてそれと同時に、蘇った邪神の咆哮が大地を焼いた。

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■──!」

 間近で聴いたら間違いなく正気を失うような、そんな圧倒的なまでの負の圧。しかし、不思議とツカサ達にはそこまでの負担は訪れず、それが今しがたの玉串と祝詞のお陰だとなんとなく理解できた。


 「ふぅ……危なかったのぅ」

 改めて声の主を見れば、それは巫女として攫われていた少女のひとり。独特のアレンジが加えられた巫女服(衣服の上から鞭で打たれた為か所々裂けてはいるが)を着た黒髪の人物。喋り方からどこぞの幼女を連想されるその人物は、懐から更に玉串を数本取り出すと、町へ向けて投擲し同様の手順で柏手を打った。

 「これで直視しても発狂するのは避けられるはずじゃよ。復活に対しても用意をしておいてよかったわい」

 呵呵と少女は笑うと、この場に集う一同に向けて軽く会釈をする。

 「私は瀧宮 帝(たきみや みかど)。とある神社で巫女をしている者じゃ。邪神相手ならば、微力ながら手伝いができる。……本当は復活を阻止するつもりだったのじゃが……あちらが上手だったのぅ」

 のんびりとした口調で少女は言うが、その目は険しく海を睨んでいる。そちらを見れば、大きな渦潮から黒くヌメっとした肌の触手が、ずるりと這い出てくるところであった。


 「くっくっくっ……我が神は今ここに復活召された! これで世界は我のモノだ!!」

 クラバットルはハサミを打ち鳴らし、祝福する。邪神……つまり神そのものが降臨した現状において、自らに敵はいないと思っているから。ヒトとは次元の違うその存在に逆らうような愚か者なぞ、いないと決め込んでいるからだ。

 「気が早いな、クラバットルさんよ」

 クラバットルはヒトを甘く見ている。何故ならば、愚か者ならココに幾らでもいるのだから。

 「ようはまだ寝起きなんだろ? なら、もう一回オフトンでねんねして貰えば済む話じゃないか」

 続々と浜辺に集合するのは、先程まで町中で再生怪人を相手にしていたヒーロー達。彼らは神を前に、マスクの下で不敵に笑う。

 「……なんだ、お前達は。よもやよもや、神に逆らおう等と考えているのではあるまいな?」

 クラバットルは心底困惑したように、集まってきた若者達を睥睨する。もはや自身の天下は確実と思っていた矢先に、こんなにも愚か者がいるとはクラバットルは予想もしていなかった。現世に現れた神を前に、ヒトは頭を垂れて赦しを乞うべきなのだと、それが当然だと思っていたのだから無理もない。

 「真の阿呆は貴様であるよな、クラバットルとやら。其の邪神は大昔に大地で暴れ、ヒトの手によって封印された一柱。なればまた、ヒトの手によって封印、ないしは討滅できると、何故想像がつかん?」

 帝はコッペルナから装備を受け取ると、一対の扇子を拡げ、今にも海面へと顔を出さんとしている邪神を睨む。その表情に陰りはなく、前言は間違いなく可能なのだと、そういう自信があるのだと雄弁に物語る。


 「……………理解できん。神を、どうすると? 馬鹿なのか貴様らは。大人しく(かしず)けば、神による慈悲が与えられるやも知れぬのに。わざわざ刃向かって死に急ごうとでもいうのか?」

 クラバットルは初めて怯んだかのように、一歩二歩と後ずさる。神をも恐れぬ愚か者に、恐怖したかのように。

 「誰も死のうだなんて思っちゃいないよ」

 ヒーローの内の誰かが言う。彼もまた、単身で悪の組織と戦い続けてきたひとり。平和の為に命を投げ捨てる覚悟はあるが、それは決して今死ぬ事ではないと、そう心に決めている者。

 「俺達は、人類の未来の為に戦い続ける。それが例え、神様相手だったとしても。人類を滅ぼそうと、支配しようとしている輩に、大人しく従う通りはない」

 スネイクはそんなセリフを喋りながら、葉巻を取り出し火をつけようとして、ここには未成年が多いと気付いて仕方なく懐に戻した。

 「そういう事だクラバットル。例え邪神が復活しようと、俺がやる事は変わらない」

 ツカサもまた逃げない。正直に言えば、悪の組織の戦闘員が邪神の相手なぞ荷が勝ち過ぎている気もするが、それでもやらねばならない時はあるのだ。

 「ボクも戦うよ。正直怖いけど……でも、アンタだけは赦しておけない」

 土浦 楓もまた、ツカサの横に並びクラバットルを睨む。そう、このふたりの目的は、邪神の討滅などではない。妹を、親友を傷付けたクソ野郎(クラバットル)を倒すこと、これに尽きる。


 「……神よ、御前に信徒ならざる者がこんなにもおります。どうか、どうか神罰をお与えになられますよう」

 クラバットルがそう呟くと、ようやく海面から頭が見えるようになった邪神から、大量の何かが浜辺へと降り注ぐ。それは全てが邪神の眷属。這い出でる前にゴミ掃除をしようと出した、邪神の尖兵。それがヒーロー達の倍ほどの数で、波打ち際を踏み荒らす。

 「おいライフルレッド、お前のトコにもロボットあったよな? 邪神、任せていいか?」

 「元々そのつもりですよ。ここは任せても?」

 「ヤル気充分の若者がいるんだ。俺はせいぜい援護でもしているさ」

 「わかりました。……行くぞ、みんな!」

 ライフルレッドとスネイクが会話し、巨大ロボを所持している者達が同時に離脱した。戦隊ヒーロー達は巨大戦も日常茶飯事なので、今から自分達の所有するマシンを呼び邪神と相対するつもりなのだろう。

 ツカサにとっては垂涎レベルの大決戦なのであるが、頭に血が昇った今では今はそんな事を気にしていられない。なのでツカサは、隣に立つ土浦に一言だけ言い放つ。

 「やれるな?」

 「当然。その為に来たんだもの」

 土浦もまた、ヒーローだったのだろう。ならば過保護に扱う理由もない。ツカサはただ白狐剣を片手に、成すべきことを成すだけである。


 そして遂に、邪神はその全容を海面へと晒した。

 その姿は幾本もの触手をうねらす、タコのような……もっと邪悪なる何か。帝のチカラで発狂する程の狂気にあてられていないが、そのまま直視していたら危険だったであろう、推定でも全長が100mを越す、超巨大な化け物。

 その化け物を前に、人類の守護者たる者達が立ち並ぶ。一柱の邪神に対し、十体の戦隊ロボ。サイズ比としては大人と小学生程の差はあるが、今頼りになるのは彼らだけだ。

 邪神の眷属とクラバットルの前に残ったヒーロー達も多い。コッペルナは負傷者をハイエースへと乗せて避難したが、それでも眷属を相手にするには十分な戦力が揃っている。

 「馬鹿なものだ。死んで後悔するがいい」

 クラバットルにすれば勝ち戦どころか消化試合。ヒトが神に抗えるはずがないと、決めつけているからこその余裕。

 「後悔すんのはテメーだ。人の底力ってヤツを、見せてやるぜ」

 ツカサはその余裕が気に入らない。絶対に吠え面をかかせてやると、力み勇んで敵を睨む。

 「歌恋ちゃんの仇、絶対とるよ」

 土浦も同様に、ただ憎しみのみを全面に。ヒーローに有るまじき状態ではあるが、恐怖に呑まれるよりはよっぽどいい。


 そして、ふたり同時に叫ぶ。

 「白狐剣装!」

 「ブレイヴ・エスカレーション!」

 閃光。後に、一陣の風。

 そこには、白い鎧の剣士、ハクともうひとり。

 黄色を基調としたセーラー服にハンマーを連想させる一対の大ぶりな篭手。短めの金髪を潮風に流す、4人目の精霊戦士。

 ブレイヴ・ノームがそこに居た。

 という事で正体バレになります。イメージとしてはシンフォ〇アの立〇響。ガントレットはもちろんパイルバンカーとして機能します。

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