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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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邪神VSヒーロー その1

 (あっれぇ~? この鎖、全く外れないッスよ?)

 椎名の代わりに捕縛されたスズは、項垂れた演技のまま延々と己を縛る鎖と格闘し続けていたが、いつまで経ってもその拘束からは逃れる事が叶わなかった。

 己や他の巫女達を攫った男……怪人クラバットルに気付かれぬように行っている、というのも確かに外れない理由のひとつではあるのだが、それでも10分以上掛かっているとなると、スズとしては忍者としての自信を見失いそうになってしまう。

 (縄抜けは得意だったはずなんスけど、腕が鈍ったんスかね……。嗚呼、嫌だなぁ。昨日はカッコよく啖呵切ったのに、これじゃミイラ取りがミイラっスよ……)

 昨日ホテルで椎名と同室になった際、入れ替わりの説明や変装も含めて、椎名と色々と話をした。彼女は相変わらず対話となると声が出せないようで、読み上げアプリを使った擬似会話であったが、それでも自分を傷付ける要因のひとつであった己と会話をしてくれたし、あまつさえ心配までしてくれたのだ。

 そんな健気な子をこれ以上傷付けさせやしないと、意気揚々と捕縛された結果がこれである。悲しいかな、実力不足感は否めない。

 (だんだんチカラも抜けてくるし、万事休すッス)

 贄としてその場に捕らえられているのだから、巫女でないとはいえ何かしらのチカラは吸い取られている。むしろ巫女ではない一般人サイドだからこそ、早々に体力が尽きそうになっているとはスズは考えてもいなかった。


 (そこな忍者よ……聞こえておるか? ……今、お主の脳内に……直接話しておる……)

 その時だ。スズの脳内に、自分とは別の声色の思考が割り込み、上記のような文言を言い放ったのは。

 (……遂に幻聴まで聴こえてきたッスか……。こりゃいよいよ危ないッスかねぇ……。どうせなら、ファ〇チキくださいって言って欲しかったッス……)

 (よーし、まだ元気じゃな。信じぬのは勝手じゃが、とりあえず目線だけでふたつ隣の十字架を見よ)

 半ば諦めかけていたスズがそちらに目線をやると、それに合わせるように見返してくる少女がいた。散々鞭で打たれクスリまで使われているというのに、その目は気丈であり、力強さまで感じるものであった。

 (え……うそ、ホントに脳内に話しかけていたッスか? 私の声も筒抜け?)

 (波長を合わせるまではそういうのは読み取れんから安心せい。……それでじゃな、この鎖は特殊な呪具になっとるから、手練手管だけで抜け出そうとしても無理じゃ。旧友に援護を頼んでおるから、それまで体力は温存しておれ)

 それっきり、脳内に響く声は止む。つまり、無駄な事をするなと釘を刺されたという事か。

 それきり少女の方を見やっても、少女はただ空を見ているだけで思考に割り込んでこようとはしない。

 (……なんか、凄い人が混じってたんスね)

 多分この少女も、捕まった振りをして救助に来たクチだろうか。人質がいる状態では下手に動けないとか、そんな理由で居残っている感じがする。


 そこからしばらくして。突然空からハイエースが降ってきたり、わらわらといた再生怪人や使徒が丸ごと消し飛ばされたりしている内に、コッペルナと名乗る魔女にスズ達は助けられ、無事にツカサ達と合流できた。

 邪神の復活も、スズの存在によるチカラ不足のせいか失敗に終わったようで、代わりになった甲斐はあったとスズは少しばかり安堵した。

 後は怪人クラバットルとの決戦を残すのみ、であるが……。



 ◇



 「おのれ……おのれヒーロー共! よくもやってくれたな!」

 怪人クラバットルは激昂する。

 使徒は軒並み倒され、頼みの邪神も復活を阻止された。町に放たれた再生怪人共も、他のヒーローがもうすぐ駆逐するだろう。もうクラバットルに勝ち目はないはずなのだが。

 今のツカサにはそんな事どうでもいい。他の巫女達も心配ではあるが、今は第一に心配すべき存在がある。

 「カレン、カレン大丈夫か!? 」

 「……にぃ、さん……?」

 その声はか細く、今にも消え入りそうに弱ってはいるが、命に別状はなさそうだ。ただ捕まっていたこの辛い日々が癒えるまで、しばらくの休養は必要であろうが。

 「……へへ……ごめ……兄さん……。……ねこ、ふんじゃった………」

 「そこはドジを踏んどけよ妹。……ま、ボケていられるなら兄も一安心だよ」

 ツカサは変身を解いてカレンを抱き抱えていたが、彼女が眠る姿勢に入った事に安堵し、他の巫女と同様にハイエースへと乗せる。

 「歌恋ちゃん! 歌恋ちゃんは大丈夫!?」

 「土浦さん、静かに。今眠ったところだから、そっとしといてあげて」

 「ぁ……ごめんなさい司さん。……ごめんね、歌恋ちゃん、ボクを庇ったばかりに……」

 カレンを助ける為に、単身で熱海まで乗り込んできた土浦 楓。彼女もまた、カレンの寝顔を一目見ると安堵し、今度は顔付きを変えてクラバットルを睨む。ツカサもまた同様だ。いたいけな少女達を攫った挙句、拷問やクスリを使うなぞ、許す理由はどこにもない。


 「テメェはもう終わりだ。大人しく消し炭になりやがれ」

 少女達の惨状を直に目の当たりにしてか、サラマンダー達にも並々ならぬ殺意が湧いている。いの一番に飛び掛りそうな勢いではあるが、今一番怒り狂っているのはツカサだと分かっているのか、大人しくツカサに前を譲って待機していてくれた。

 「貴様らが……! 貴様らが我らの神を……!」

 クラバットルは未だに喚いているが、逃げようとする素振りはない。しかしそれを不審に思えるほど冷静な人物は、残念ながら巫女達の介抱に掛かりきりなのだ。

 ツカサが白狐剣を手に、ゆっくりとクラバットルへと歩みを進める。それはコイツを切り捨てれば終わりだと思っているからであるが、それで済むならばこれからの苦労はなかっただろう。

 「嗚呼神よ神よ神よ……!! ………くっくっくっ」

 突然、半狂乱状態で喚いていたクラバットルが笑い出す。それに合わせるように、大地が揺れた。

 「な、なんだ!?」

 揺れはさほど大きくはないが、感覚としては横揺れというよりは縦揺れ。それも明らかに自然現象ではない揺れ方をしている。

 「はっはっはっは! 馬鹿め、二の手三の手が無くて神降臨が務まるものか!! 貴様らが狩り尽くした使徒や再生怪人、あれらの怨念もまた、我らの神の贄となったのだ!」

 クラバットルは知将なり。妨害に妨害を重ねられても、それすらを上回る策略で、遂に成し遂げたのだ。

 「刮目せよ! 我らが神の再臨であるぞ!」

 クラバットルが絶叫し、再度水底が割れる。そして、暗い暗い海の底から、黄金色の眼光が空を見上げた。

 モン〇ンで忙しい日々ですが、頑張って毎週更新は続けていくつもりです。

 文章が普段より雑になってなければよいのですが……。

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