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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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町は今、燃えている その4

 再生怪人達を文字通りなぎ倒したハク達の前に、クラバットルが呼び出した信徒達が立ち塞がる。

 その数は四体。内訳としては、サラマンダーの前に空飛ぶ大蛇。ウンディーネの前に蛇人間。ハクの前に槍を持った巨人。霧崎の前に頭部のない巨躯。

 ほとんどの再生怪人が退治された後なので、実質タイマンが四箇所である。

 コッペルナと改造ハイエースはいつの間にか無くなっている……が、しかし誰も気にしていない。いや、気にさせないような存在感の無さがヤミの魔女コッペルナの真骨頂なのだ。

 「くっくっくっ……信徒達はこれまでの再生怪人共とは格が違うぞ!少数で乗り込んできた事を後悔するがいい!」

 などと怪人クラバットルが吠えているが、ハク達の中に目の前の敵に恐怖や脅威というモノを感じている者は誰一人いない。

 「へぇ……格が違うんだってさ」

 「『マザー』や呂布イカ将軍を相手にした時よりも気が楽で助かるわね」

 「師匠の方が数段怖ぇわな」

 「クロック〇ップやアク〇ルフォームやカ〇ンライドしないなら敵じゃない」

 ……と、反応は様々である。

 「舐めてやがるナァ……! 信徒達よ! 散々痛めつけて殺してやれ!」

 その号令と共に、信徒達は目の前の敵へと襲い掛かる。

 異形の怪物対ヒーローの戦闘が開始された。



 ◇



 大槍を緩く構え、相手の動きを伺うサラマンダーに対し、空飛ぶ大蛇はその鎌首を高く持ち上げ、頭上から毒霧ブレスを浴びせる事で先手とした。

 「だからなんだってんだ、よ!」

 対するサラマンダーは、穂先から焔の渦を放つことでそれを迎撃する。その渦は霧を巻き込みながら駆け上がり、自らの毒霧で視界を遮った大蛇の顔面を焼きつつ毒霧を払った。

 「■■■■■■■■■■■■──!」

 ザラザラと、おおよそ人の聴いてはいけないような鳴き声を上げて苦しむ大蛇は、しかし戦意を失わず。その10mを超す巨体を武器に、全身の捻りを最大限まで利用した最高速度の尻尾による打ち払いでサラマンダーを討とうと狙う。

 達人の操る鞭の先端速度は音速を超えるともいうが、それが丸太程の太さのモノで振るわれたらどうなるか。

 「ガッ──」

 サラマンダーは得物にて直撃は防ぐも、その身体は衝撃に耐えきれる筈もなく軽々と宙を舞う。

 弾丸のような速度で舞い上がること20m。姿勢を整える暇もないまま、なんとか得物の大槍だけは離さず済んだサラマンダーへと、大蛇の顎が迫る。

 噛み付く、というよりは丸呑みだろうか。

 「オレなんて食っても……美味くはねェぞ!」

 迎撃は無理と悟ったサラマンダーが取った手段は、空。

 全力で炎を放ち、それを推進剤として更に空へと舞い上がる。

 「■■■■■■!」

 食い損なったと嘆くような声の後、放たれた炎を避けてサラマンダーを追う大蛇。だが既に体勢を整えたサラマンダーに対し、まっすぐに向かったのは愚策であった。

 「喰らえ、オレの必殺技……!」

 上昇から一転、今度は天へと向けて炎を放ち、落下速度を上げるサラマンダー。大槍の穂先には真紅を焔を宿し、それは流星を思わせる灼熱の光となる。

 今度こそ、と大口を開けて迫る大蛇に対し、サラマンダーは加速をやめない。むしろ好都合とばかりにその口目掛けて飛び込んでいく。

 「一条流炎斬!」

 灼火と大蛇が天地に交差し、灼火が地へと落ちて大蛇は天空にて二等分に分かたれた。

 着地したサラマンダーは、残り火を払うように槍を振るうと、綺麗に真ん中から裂けた大蛇を仰ぎ見て、

 「た~まや~♪」

 その台詞の後、大蛇は爆発四散し汚い花火として熱海の空を飾った。



 ◇


 「……これ、私だけハズレを引かされたのでは?」

 ウンディーネは訝しむ。何せ再生怪人共とは格が違うという前置きで登場した信徒の蛇人間だったが、あからさまに弱いのだ。

 「シャアアアアァァァァァ!」

 蛇人間は一応懸命にカットラスを振るっているものの、ウンディーネはそれを一歩も動かず小手先だけの剣で打ち払えてしまう。そこから隠し球が登場する事もなく、ただ漫然とした剣戟が数合行われては距離を取るという動作の繰り返し。

 ……一応言っておくが、この蛇人間も並の人間相手にならば無双できる程度には強者なのだ。マーシャルアーツキックはおろか、銃弾すらも弾く鱗を持つ彼は、近年カットラスによる接近戦を覚えてより強くなったはずだった。

 ただ、普段から黒雷や他の組織の怪人達としのぎを削っていたウンディーネとは立つステージが違うと、ただそれだけの事である。

 「シャアッ!」

 「フッ!」

 思わずカットラスを大きく振りかぶってしまった蛇人間の、そのがら空きの腹部を狙ってウンディーネが一閃を走らせる。

 「ジャ……ラ?」

 蛇人間からしたら、腹部にそよ風を当てられただけのような感触。自身の鱗に絶対の信頼を置く彼は、まさかそれが一刀で切り捨てられるとは微塵も思っていなかった。

 「眠りなさい。……どうか、安らかに」

 再び一閃。四分割された蛇人間の意識は、そこで途絶えた。



 ◇



 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 霧崎の拳は目にも止まらぬ速さで、目の前の巨躯をぶん殴り続ける。

 手のひらの口がどうとか、弛んだ脂肪の防壁だとか、そんな物はこの漢には関係ない。

 ただただ、初変身の効果を確かめる為のサンドバッグとして目の前の相手を見ている。

 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 頑丈ならばなお良しと、漢は獰猛に笑う。こんな機会は滅多に無いのだから、存分に殴らせてくれと。

 「オラオラオラオラオラ……ってイカン、もう終わってしまったか」

 相対してから30秒ほど。たったそれだけだが、それだけの時間を息継ぎ無しで殴られ続けたサンドバッグは今、風船のように割れて、散った。



 ◇



 「ストレートフラッシュ・ビーム!」

 「ギャアアアアアアア!」

 ハクの戦闘は一瞬であった。見所なんてどこにもない。妹らしき人物と可愛い部下を救うのに必死なので初手必殺技ブッパで終わりにしたのである。

 主人公の扱いがこれでいいのか。いっか。



 ◇



 「さぁ、後は貴様だけだぞクラバットル!」

 「くっくっくっ……」

 決着が着くまで差があれど、四人は大した怪我もなくクラバットルの前に立つ。

 しかしクラバットルは不敵に笑うのみ。己の切り札たる信徒を犠牲にしても数分しか稼げていないというのに、何故か余裕そうである。

 「何がおかしい……?」

 恐る恐る尋ねるハク。クラバットルは待ってましたとばかりにカニバサミを打ち鳴らし、その問に答えた。

 「馬鹿め!見よ! 貴様らが到着して直ぐに儀式は発動していたのだ!」

 奴は悪役らしからぬ周到さで、儀式の発動をギリギリまで待っていたりはしなかった。つまり、六人の巫女を攫ってここに拘束し、町を再生怪人に襲わせた時点で後は儀式の完成度を上げるだけの状態だったのだ。

 クラバットルがそのカニバサミを天へと向けると、天に渦巻く暗雲から一条の光が海へと落ちる。それは、巫女と人々の恐怖が産んだエネルギーの塊。クラバットルが長い月日を賭けた結晶。

 その光は海を割り、海底深くに沈んだ神殿へと突き刺さると、微弱な振動を残し、やがて……止んだ。

 シンと静まる浜辺。

 「……な、何故だ! 何故目覚めんのだ神よ!」

 クラバットルはここに来てようやく焦りだしたようだがもう遅い。タネを知っているハクと霧崎は仮面の下でしてやったり顔である。

 「まーだ分からないッスかねぇ」

 そして裏でひっそりと救助に動いていたコッペルナに連れられた椎名スズと、丁度到着したスズ(椎名)が揃い、クラバットルの見ている前でその変装を解いた。


 ドロン、という音と煙と共に姿が入れ替わる二人をみて、クラバットルは瞬時に偽物を掴まされたのだと理解した。

 儀式の邪魔は、最初から仕組まれていたという事も。

 「おのれ……ッ!」

 勝利を確信していたクラバットルだが、儀式は失敗し、巫女達もいつの間にか全員が解放されてハク達の後ろにいる。

 形勢は完全に逆転していた。

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