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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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町は今、燃えている その2

 燃える熱海の町で、ハクはヒーロー達に囲まれた。

 誰もが遠巻きでハク達を見る中、その輪からふたりの少女がハク達に向けて歩み寄る。

 「ブレイヴ・エレメンツ……!」

 それは、ハク達と拠点とする町を同じとするヒーロー。ハク本来の……黒雷としての姿であれば天敵であるが、ハクとしてであれば心強い味方である。

 「おーおー……これは壮観だ」

 霧崎は仮面の下で冷や汗を流しながらも、この場面ならばと薄ら笑う。最も、半分は根のバトルジャンキーもあって、手合わせを願いたいという気持ちもあるのだが。

 「で、オレ達の敵はどこだい?」

 「海だ。そこに攫われた“巫女”と呼ばれる少女達も居るはず」

 ハクは剣を掲げ、敵と定めた者のいる先を指す。そちらは暗雲渦巻く中心部。今にも何かが目覚めんとするその場所に、全てがある。

 「ただまだ再生怪人は多い。人手があるとはいえ、殲滅してからでは間に合わんだろう。人員を分けるべきだろうなぁ」

 スネイクは余裕の声色で葉巻を咥え、その紫煙を空へと零す。きちんと風向きを考えて吸っている辺りは流石紳士と言ったところか。

 「ならば俺達ガンレンジャーは再生怪人の掃討に向かおう。そうだな……ブレイヴ・エレメンツ。アンタ達がハク達に着いてくれ。他は怪人の殲滅に回ろう」

 ライフルレッドの声に、オウと戦士達が応え、早速散開し各地で戦火を上げる。

 この場に残されたのは、ハクと霧崎とスズ(椎名)、スネイクと土浦にブレイヴ・エレメンツの7人。戦力として強化はされたが、相変わらず移動手段に乏しい形で残ってしまった。


 「おいツカサ。あんだけヒーローが居たならこのふたりを預けたりもできたんじゃねぇか?」

 「あ……」

 まぁ後の祭りである。どの道ふたりとも逃げる気がないので、結果は変わらないのだが。

 「あ、あの~……」

 とりあえず走り出そうかとした瞬間、ハクの真後ろからか細い声がした。

 「うおっ!?」

 「ひぃっ!」

 ビックリして思わず剣を突き立てようとしてしまったハクの切っ先を、その人物はしゃがんで頭を抱えるようにして避ける。というかそのまま怯えるようにガクガクと震え出した。

 「ごめんなさいもうしません人に話しかけたりしません許してくださいこの場で塵となって消え失せますごめんなさいごめんなさい……」

 その人物は、とにかく怪しい格好をした少女だった。黒一色のベレー帽を被り、目元には星印の付いた紫色の目隠しをし、服装は魔女を思わせる全身を覆い隠す純黒のローブ。腰まで伸びたピンクの髪はあまり手入れをしていないのかボサボサで、僅かに見える肌には様々な紋様が刻まれている。

 声を発するまで誰にも存在を察知されなかったその少女は今、ハクの刃の前に小動物のように縮こまっていた。

 この場の誰もが警戒するように動かないが、傍から見ればハクがいたいけな少女を脅している様にしか見えない。ので、仕方なくハクは構えを解いて、恐る恐る少女へと話しかけるしかなかった。

 「あ、あのお嬢ちゃん。驚かせて悪かったよ。気配が無かったもんでつい……」

 「……いいえ、ごめんなさい。私の影が薄いのが悪いのです。すいませんでした……」

 少女は目元を拭う動作をすると(目隠しのせいで泣いていたのかどうかも分からないが)、改めてハク達と向き合い、ぺこりと頭を下げる。


 「私はヤミの魔女コッペルナと申します。とある人物の要請で、貴方達のお手伝いを命じられました」

 その際に、胸元に仕舞っていたペンダントをハクへと見せた。そのペンダントにはとあるマークが刻まれており、ハクだけに意味が通じる行為となる。

 それは、ダークエルダー所属のダークヒーロー達が所属を表す為に所持しているエンブレム。個人でその様相は異なるが、一部のデザインだけは共通するように出来ていて、それで同業者かどうかを判別できるようになっているのだ。

 つまり彼女が、ダークエルダーが寄越した助っ人という事だろう。

 「車の用意をしておりますので、コチラをお使いください」

 そう言って彼女が案内する先には、ダークエルダーの者がよく使用するハイエース。もちろん改造を施されている為、馬力やら装甲等は市販品とは大きく異なるのだが。

 「ほーう、気が利くじゃないの」

 霧崎はようやく楽ができるな、なんて笑いながら真っ先に乗車し、スズ(椎名)にも乗るように促す。しかし、コッペルナが手でそれを制した。

 「霧崎様。大変申し訳ありませんが、この車は敵地まで()()()()()()()()仕様となっております。生身の方が乗車するのはオススメできません。今のまま、スネイク様にお任せするのが最良かと」

 「んだと……?」

 「あー……霧崎、ここは言うこと聞いといた方がいいかもな」

 「ツ……ハクまでそう言うのか。……分かったよ」

 ハクは何だか嫌な予感がする為やんわりと霧崎を止めたが、ハク自身は逃れる術はない。仕方なく助手席へと乗り込み、次いでブレイヴ・エレメンツ達が後部座席へと乗り込むと、コッペルナが運転席へと乗り込んだ。


 「安心しろよ金ピカの。俺だってヒーローの端くれ、嬢ちゃん達を無事に連れていくくらいやってやるよ」

 「よろしく頼むぜじいさん」

 本当なら一時でも離れるのは危険だろうが、スネイク程の戦士に預けられるのならばまだ安心である。

 「それでは皆様、シートベルトはしっかりお締めください」

 コッペルナがそう言って、真っ先に自動車用とは思えないほどガッチリとしたシートベルトを着用する。それはもうスペースシャトルとか、そういう物に備え付けられているようなタイプのものだ。

 ハクはそれを見た瞬間、製作者は間違いなくあの幼女の系譜だと察して思わず目を閉じ神に祈った。

 「お、おいウンディーネ。このシートベルトはどうやって付けるんだ?」

 「ああ、これはここに頭を通して……」

 後部座席で宿敵とも言えるヒーローがシートベルト如きに悪戦苦闘しているという状況も、何だかシュールだ。微笑ましい……のだが、サラマンダーのご立派様がシートベルトで更に強調されるせいで色々と目のやり場に困る。

 「シートベルト付けましたかぁ? 付けましたよねぇ? じゃあ()()しますねぇ?」

 コッペルナの口調が何故かイライラしたものに変わって、乱暴に運転席にある赤いボタンを押し込む。

 「な、なぁコッペルナ。今発車の発音違ったよな……?」

 なんてハクが言うのもつかの間、彼らの乗ったハイエースは唐突に先頭を空へと向けるように起き上がり、背後からはジェット機のようなエンジン音が轟く。

 「こ、これはまさか……!?」

 「舌、噛まないようにしてくださいね。()()()便()ですので」


 そして、一台の自動車がミサイルのように発射された。行先は敵地のど真ん中。あらゆる街並みをすっ飛ばして、彼らは行く。

 「……いやぁ、流石にそれは追いつけないなぁ」

 残されたスネイクはポツリと呟き、とにかく駆けつけるべくエンジンを吹かした。

 余談ですが、ハクはハイエースミサイル発射時に「ステラァァァァァァ!」と叫んだそうです。

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