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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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町は今、燃えている その1

 神社から海岸へ、町を突っ切る事にしたツカサ……ハク達は、その途中で湧いたように現れた再生怪人達と対峙していた。

 それは達……というよりは群れというか、最早床一面や空一面と呼称すべき数だ。ハク達の進行を遮るように、陸と空を覆い尽くさんと溢れ出てくる。

 「……どんだけ用意したんだよ……」

 各悪の組織の戦闘員枠と言ったらわかりやすいだろうか。元々量産に向いていた戦闘員を、あらゆる悪の組織から拝借し量産に量産を掛けた節操なしのごった煮である。それが道路を埋め、空を覆い、その全てが敵意を持ってハク達と対峙する。

 神社の時とは違い、ネームド級の怪人がほとんど混ざっていない事だけが幸いか。

 「どうするんだ坊主、この数が相手じゃ強行突破も難しいぞ?」

 サイドカーに少女を二人乗せ、今日も絶好調の相棒を駆る仮面ダイバースネイクが言う。

 彼の言う通り、この数を相手にただ突き進むだけでは、いずれ囲まれて身動きが取れなくなってしまう。そうなってしまっては、さしものヒーローと言えどもジリ貧となりいずれは敗北するだろう。

 方法のひとつとして、椎名にスズの変装を解いてもらい、彼女の魔砲による破砕で道を付けるという事も選択肢としてはありなのだが、それはできる限り最後の手段だ。

 今はとにかく、椎名とスズの入れ替わりだけがアドバンテージなのである。


 (こんな時、ヴォルトが居てくれたらなぁ……)

 一番親密だった相方の喪失が、今のハクには重くのしかかる。彼女の雷撃を操る能力ならば、一掃は無理にしても道を空ける事くらいはできただろう。そして軽い調子でハクに、「この程度の雑魚掃除すら私に頼るの?」とやや呆れた感じで微笑んでくれる筈なのだ。

 (俺は早く君に会いたいよヴォルト。……いや、名前を考えろって言われてたんだよなぁ。どうすっかなぁ……)

 思わず思考が別の方向に行きそうになるが、今はそんな場合ではない。

 まずは目の前の戦闘員達である。

 「おいツカサ、どうすんだ? あんまり悠長にしている時間はなさそうだぞ?」

 「だから変身中はハクと呼べとだな……」

 霧崎の声で海岸の方を見やれば、海上に渦巻く曇天と荒ぶる波模様が見て取れる。もう男の言っていた、邪神復活も目前なのかもしれない。

 ここは無理矢理にでも一点突破しかないかと、そう口に出そうとしたその瞬間だった。

 『レッツ・アクション!!』

 その掛け声と共に、再生怪人達の一部が吹き飛んだ。

 「こ、この掛け声はまさか……!」

 困惑する霧崎達を後目に、ハクは急速にテンションを上げて声のしたビルの屋上を見る。そこには、日光を背にした5人のシルエットがあった。

 『引金戦隊! ガンレンジャー!!』

 割と修羅場な状況だからか、名乗りは短縮バージョンで行うガンレンジャーの皆さん。それでもポージングだけはシッカリとキメて、彼らはひとっ飛びでハク達の目の前へと着地した。


 「どうやら助けが必要らしいな。どこまで走るつもりなんだい、スネイクさん?」

 「はっは、懐かしい顔ぶれじゃないの。……いや何、これから美少女ふたりと野郎を連れて海岸までドライブデートをね」

 元々顔見知り同士なのか、気軽い口調で話すライフルレッドとスネイク。その間に他の面子は、()()()()()()という状況が楽しいのか、はたまたどの道必要だからなのか、持てるだけの銃火器を手に再生怪人達を攻撃している。

 しれっと混ざってマシンガングリーンと意気投合している霧崎はとりあえず放っておくとして。

 「どうして皆さんはここに?」

 「数日前に、匿名でタレコミがあってね。この町でテロ行為が行われようとしているなら、止めるのがヒーローってものだろ?」

 つまり彼らは、真偽の分からない誰かの情報を信じて、遠路はるばる熱海へとやって来たということか。

 「それが罠だったらどうするつもりだったんですか……」

 「無論、食い破るさ。俺達には悪くないバックも着いているしね」

 そのバックとは、十中八九ダークエルダーの事だろう。彼らガンレンジャーには、ダークエルダーに対して敵対しないように頼み込んでいるが、その見返りに情報を流していたりもするのだ。

 「……まぁでも、皆さんがいてくれるなら心強いです! これでこの包囲網を突破して……!」

 「リーダー悪ぃ、弾切れだわ。ちょっと補充に戻らせてくれ」

 「「いや早いな!?」」

 レッドとハクが同時にツッコミを入れる。見れば、霧崎のトリガーハッピー振りに触発されて皆して弾を撃ち尽くしてしまったらしい。その分敵は減ってはいるが、満遍なく削った為にか、道ができたということは無い。

 「もうちょっと考えて戦えよお前ら!」

 「この兄ちゃんがあまりに気持ちよく乱射するからよォ……」

 ガンレンジャーの武器は、特殊な物とはいえ実弾。対して霧崎のマシンガンは気弾の為、撃てる量に雲泥の差があるのも仕方のない。そこを考慮せずに、ただ楽しくなってトリガーハッピーしている霧崎が悪いのだ。そういう事にしておこう。


 「え、じゃあしばらく進めないってことなんじゃ……」

 助っ人が来たが、その助っ人は既にほぼ弾薬が空という事態。これでは振り出しと大差ない。

 どうしようかと再び頭を抱えそうになるハクに、ガンレッドは優しく肩を叩き、安心しろと呟いた。

 「どうやら、匿名の情報を信じたお人好しは……俺達ばかりじゃないみたいだぜ?」

 その直後に、町中の至る所で爆発が起きる。ただしそれに人々の悲鳴は伴わず、代わりに再生怪人達の断末魔だけが鳴り響く。

 そして集うは、色とりどりの戦士達。

 先程まで鳴り響いていた銃声が、彼らをここまで導いたのだ。

 「お……おぉ……! おおおおおお!!」

 ハクの見知った、仮面の顔ぶれ。ただしそれは、ハクが一方的に知っているというだけだったが。

 ありとあらゆる地域のヒーロー達が今、ここに集まっている。その数は、デブリヘイム『マザー』討伐作戦に投入されたヒーローの数とほぼ同数。戦闘開始からそれほど時が経っていない事から、これからも順次戦力は集結する事だろう。

 ダークエルダーからの参戦はハク達のみ(それでも表向きはヒーロー側である)ではあるが、短期決戦の戦力という意味では当時に匹敵する戦力が集まったように思える。

 「よお。アンタらが今回の主役かい?」

 あれほどいた再生怪人達が今や露と消え、代わりに精鋭の猛者達がこの場を支配する。

 その輪の中から現れたのは、大槍と刀を担うふたりの少女。


 ──ブレイヴ・エレメンツが、そこに居た。

 とある胡散臭い占い師「あ、もしもしライフルレッドさんのケータイですか? はは、私は誰かって聞くのは野暮ってものですよ。それよりですね、数日後に熱海で──」

 なんていう行為を何十件と行ったタレコミの犯人さん。彼の目的は不明である。

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