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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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別れと神社と出会いと その5

 「待たせたな」

 霧崎とハクが、大量の再生怪人に囲まれ身動きが取れない中で。不意に神社に渋い男の声が響いた。

 「こ、この渋い声と台詞は……まさか!?」

 ハクが過敏に反応し、声のした拝殿の屋根を仰ぎ見れば、そこには迷彩服を着て葉巻を吸う一人の漢。

 「やっぱり、仮面ダイバースネイク!」

 「知ってるのかツ……ハク!」

 「当然だ!」

 霧崎もハクも共に攻撃の手を緩めることなく、しかし視線はどちらもスネイクと呼ばれた漢に向く。

 「彼の名前は仮面ダイバースネイク。数年前に電脳世界で起こった一部AI達による反逆をたった一人で鎮圧した、凄腕のハッカーだ。ハッカーと言っても、現実世界へと現出したAIに対しても戦闘を行えるように改造された『電脳迷彩』を装備しているから、それによって十分に戦闘を行える。またあの葉巻には特殊なハーブが混ぜてあって鎮静効果も……」

 「あーうるせぇうるせぇ! お前がめんどくさい事は分かった!」

 「なんだよ金ピカ。俺のファンが魅力を語ってくれているのに止めるなんて、無粋じゃねぇか」

 スネイクは霧崎に向けてそう言葉を放つと、軽い調子で屋根から飛び降りる。

 その先は当然のように再生怪人達のど真ん中で、丁度足元に来た一体を踏み潰すと、咥えていた葉巻を近くの怪人の額に擦りつけて消した。


 「さぁ、いっちょやりますか」

 スネイクは不敵に笑い、どこからともなく取り出したロケットランチャーを肩に担ぎ、グレネードランチャーを空いた手に持つ。

 デェェェェェェンというサウンドエフェクトが聞こえそうな装備を前に、さしもの再生怪人達も思わず後ずさる。

 「ショータイムだ」

 その一言と共に放たれる攻撃に、再生怪人達は次々と吹っ飛んでいく。

 スネイクが加わり火力の増したハク達の前に、再生怪人達はみるみる数を減らしていき、5分後にはその全てが倒されていた。

 ちなみに、不思議な事に建物は無事であったという。



 ◇



 「いやー、助かりましたスネイクさん。ありがとうございます。サインください」

 「ハハッ、君は面白い男だな。よし、色紙を寄越せ。特別に書いてやろう」

 「ありがとうございます! 家宝にします!」

 再生怪人を殲滅後、ツカサはヒーローのサインコレクションを増やしてホクホク顔の中、霧崎と土浦は地図を広げ、男と椎名が何処へ向かったのかを話し合っていた。

 「やっぱり他の神社では?」

 「あんなのが信仰する神がまともに祀られてるか? 多分山奥の廃れた場所じゃねぇかな……?」

 話を聞けば、土浦も数日前にあの男に友人を攫われたのだという。その際に男が熱海という言葉を洩らした為、親には趣味の撮影と偽って追いかけてきたのだそうだ。

 また、彼女のいう『歌恋(カレン)』とは、やはり大杉歌恋……ツカサの妹であった。何故攫われたのか理由はさっぱり分からないが、もしかしたら彼女にも秘めたるチカラとか、そういうモノがあったのかもしれない。その辺は救出した後で聞こうと、ツカサは薄ぼんやりと考えていた。

 「オイツカサ! お前もこっち来て考えろよ! 妹のピンチじゃねぇのか!?」

 ワクワクしながらスネイクがサインを書く様を眺めていたツカサへと、霧崎からの怒号が飛ぶ。これは焦りというよりも、一人だけ遊んでいるのが許せないという方だろう。


 「今やって貰ってるから待ってろって」

 ツカサはそれに恐れることなく、緩い動作で自身のスマホを確認する。

 実は神社で悲鳴を聞いた時点で、ツカサの持つヴォルト・ギアは日常モードから仕事モードへと切り替えてあり、音声や周囲のデータ等を逐一支部のデータベースへ転送していたのだ。なのでそれを確認しているであろう支部の者に問い合わせれば、ダークエルダーの持つ技術を使って索敵が可能なのである。

 「丁度返信が来たぞ。……どうやら海岸の方らしいな」

 送られてきた座標を確認すれば、それは今ツカサ達のいる神社からは町を挟んだ反対の方向。自動車であれば大した距離ではないのだが、残念ながらツカサ達は公共交通機関を使用してこの神社へとやってきている。怪人が現れた現状では、マトモに機能してはいないだろう。

 「走って町を突っ切るしかなさそうだな」

 「俺やお前はいいとして、コイツらはどうするんだ? 流石に置いていくわけにはいかんだろ?」

 「それなぁ……」

 ツカサや霧崎は、変身して“気功”を使用すれば高いマンションやホテルの上を飛び移っての移動が可能になるが、残されたふたりはそうもいかない。熱海が戦場になる以上、一番安全なのがツカサ達の傍なのだ。

 「ボクも行くよ。元々ボクひとりでだって助けに行くつもりだったんだ」

 実際はヒーローの手助けを期待したんだけどね、と土浦は言う。確かに攫われた友人を単独でここまで追いかけてきたのだ。帰れと言っても素直に帰るタマではないだろう。


 「……なら嬢ちゃん達、俺の愛車に乗りな。ちょっと狭いが、ふたりまでならイケるぜ」

 サインを書き終えたスネイクが、親指を神社の駐車場へと向ける。そこには、

 「サイドカーだ」

 仮面ダイバースネイクが愛用するサイドカーが鎮座していた。



 ◇



 「くっくっくっ……! いやはや、壮観ですねぇ……!」

 男の下卑た笑い声の先。そこには、錆びた鉄製の十字架に磔にされている六人の少女達がいた。

 先ほど捕まったばかりの椎名は誘拐された姿そのままで繋がれているが、先んじて捕まっていたであろう少女達は皆、身体の何処かに幾つもの赤い裂傷が走り、目は虚ろで唇は乾ききっている。

 『強き六人の巫女』と男は言っていた。つまり起き抜けに暴れないよう、散々に痛めつけた跡なのであろう。年頃の少女に何とも惨い事をする。

 (この鎖とかも、特別製なんスかねぇ。私の縄抜けも通用しないし、切れないし、溶かせない……。正しく万事休すッスね)

 そう考えて椎名……いや、椎名に変装しているスズは、どうにかしてこの状況を打破できないかと思考を巡らす。

 ホテルに泊まった明けの朝、スズは()()()()椎名と己の姿を完璧に入れ替えていた。そして目論見通り、敵は椎名とスズを勘違いして『椎名に変装したスズ』を攫ったのだ。

 変装の天才とまで呼ばれた、スズの大手柄である。

 己の身を危険に晒してでも、か弱き少女を守りたい。その思いで今回のプランを実行したのだ。


 (この距離ならば、ツカサさん達が辿り着くまでそう時間は掛からないはずッス。後はそれまでに、どれだけ有利な状況を作り出せるか……)

 スズのそんな思惑なぞ露知らず、男はただただ己が崇拝する神の復活を夢見て笑う。

 (後で吠え面描くといいッスよ、バーカ)

 スズが内心ほくそ笑む中で、男は己の持つ錫杖を振るう。その瞬間に巻き起こるのは、町の随所での爆発と崩壊。悲鳴。町中で大量の再生怪人達が暴れ始めたのだ。

 「くっくっくっ……。さあ人々よ、我らが神に恐怖を捧げよ!」

 男は笑う。愉快だ爽快だ痛快だと。醜い世界なぞ滅びてしまえと。

 「楽しい楽しいパーティの始まりだ……!」

 男は指揮棒の如く、手の錫杖を四拍子で振るう。

 スズの目にはそれが、ただただ狂っているようにしか映らなかった。

 スズの入れ替わりはもっとギリギリまで伏せようかとも思ってましたが、誰の主観で男を見ればいいのか迷った末にここでネタばらしとなりました。


 ちなみに仮面ダイバースネイクの元ネタは……読んだまんまです。

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― 新着の感想 ―
[一言] え 仮面ダイバースネイク? SARU?
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