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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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別れと神社と出会いと その4

 ハクのスーツは変わっていないようでいて、所々の意匠が異なる。そしてその最たるものと言えば、その首元へと追加された紅いマフラーであろう。

 風に揺れるその二条の紅は、基調が純白のハクの鎧によく映える。

 そしてその隣に立つ金色の獅子は、変身用アイテムであるリボルバーをしまって今度は二丁の機関銃を取り出す。ダークエルダーによって作成されたその二丁は、もはや既存の物とは別物レベルで改造されている物だ。カシワギ博士が意気揚々と説明しようとしたが、霧崎は撃てれば十分と言って聞かずに貰ってきたと言っていた。

 その二人のヒーローが少女ふたりを背にかばい並び立つ姿は絵になるのだが、その周囲を囲むのは統一感のない再生怪人共である。

 神社の境内にそれだけの要素が敷き詰められた様は、何とも言いしれないカオスであった。

 「その白いのも久々に見たな」

 「ハクだ。そっちこそ新品のスーツなんて貰いやがって」

 「言うて借り物だ。装填済みの弾丸6発分しか使えないしな」

 「なら変身しっぱなしで町を出歩いたらどうだ?」

 「抜かせ。俺ァステゴロでタイマンの方が好きなんだよっと」

 緊張感のないふたりの会話は、痺れを切らした怪人達の突撃により中断される。最初の一体はハクが剣で攻撃を受け流した所を霧崎が蜂の巣にする事で瞬殺できたが、次から次へと雪崩込んでくる相手にいちいちそんな手間はかけられない。

 「話は後だ。さっさと片すぞ」

 「春映画なら、それぞれの主題歌アレンジが流れる場面だな!」

 「お前は時々何言ってるか分からねぇな!」

 最後に悪態をついてから、霧崎は少女ふたりの傍に立ち、ハクは雪崩の中へと身を投じた。



 ◇



 「はっは! “気功”を弾に換えてるのか! コイツはトリガーハッピーもやむ無しってモンだな!」

 霧崎の持つ機関銃は、二丁とも実弾が装填されていない。“気功”のチカラに目を付けたカシワギ博士が、それを弾として変換し射撃できるように研究した産物である。

 一発撃つ毎に気が削られている筈だが、歴戦の漢たる霧崎ならばその程度の疲労は近所をランニングするのと大差はない。

 つまりは、リロード不要でトリガー引きっぱなしの乱射が可能なド変態性能なのだ。射撃時の摩擦熱すら考慮しなくて良いため、霧崎がその気になれば丸一日程度なら弾丸の雨をお見舞いし続ける事も可能であろう。

 「ギギャアー!」

 「おっと、硬い鎧だな」

 かつて、最硬の怪人と恐れられたアァルム・アジロウという名の怪人がいた。彼の体表はあらゆる攻撃を通さず、敵対していたヒーローを長きに渡り苦しめてきた。彼は最終的には体内から爆破されその怪人生に幕を閉じたのだが、それが今再生怪人として霧崎を襲う。

 気弾をいくら浴びせても全てを弾くその装甲に、霧崎は何を思ったか、一度トリガーから指を離し、二丁の機関銃を縦に繋げる。

 「多分これをこうすりゃ、なんかあんだろ」

 一丁目の後ろに二丁目を差し込む形で、小さな変形音と共に接続完了する。

 霧崎としては接続できそうな感じがしたから繋げた程度だったが、それが正解となった。

 銃身の伸びたそれを手に、霧崎はアァルム・アジロウへと銃口を向け、射撃する。


 銃声というよりは、砲声。気がゴッソリと削られる感覚の後、その銃口からはまるでビームと見紛う閃光が走り、怪人を焼いた。

 「ギ……ギギャ……ァ」

 かつては最硬と謳われた怪人でも、再生怪人と成り果ては今はその硬度すらも落ちている。

 再生怪人はオリジナルよりも弱くなる鉄則は、どの世界でも共通なのだ。

 腹に風穴を空けたアァルム・アジロウは爆散し、先の閃光に巻き込まれた数体も同時に四散する。

 しかしそれでも、数体減っただけ。まだまだ霧崎達を囲む包囲網には穴はあかない。

 「チッ。()()()()とはいえ、人を守りながらなんてのは柄じゃねぇな……」

 いっそ単独であれば、素手で殴った方が早いまである漢、霧崎。

 再度両手に機関銃を構えた漢は、目に付く怪人を片っ端から蜂の巣へと変えていく。

 「あいつも無事だといいが、な!」

 漢は仮面の下に獰猛な笑みを浮かべながら、漢は次々に怪人を屠る。

 いつ好転するかも分からない盤面、その中で、漢と怪人は踊り狂う。



 ◇



 「しゃおらーっ!」

 ハクは愛刀白狐剣を手に、並み居る再生怪人達を次々に切り捨てていた。

 一度折れ、なんとかストーンの粉末を混ぜて打ち直したその剣は、これだけ連続で使用していても刃こぼれひとつしていない。それどころか、徐々に熱を帯びているかのように白刃が紅く紅く染まっていく。そしてそれと同時に切れ味も上がっているような気もするので、もはやツカサはなんとかストーンにおんぶにだっこ状態だ。まさに破格の報酬だったと言えよう。

 未だになんとか呼びなのはさておくとして。

 「舞えよ新装備! (カンナギ)マフラー!」

 ハクの声に応えるように、二条の紅が伸張し、鎌首をもたげる。それは一瞬で鋭利な刃物の型となると、ハクの意志のままに怪人達を襲った。

 「グゲギャーッ」

 「うるせぇ! 再生怪人になった途端喋れなくなりやがって! 元の怪人格がないお前らなんて所詮は雑魚なんだーッ!」

 マフラーを含めたみっつの刃が怪人を襲い、或いはマフラーが怪人を捕まえて盾とし、また或いは爆弾怪人を捕まえては放り投げて爆破する。

 新たな愛刀と新装備を自在に操るハクの前では、もはや数だけは多い再生怪人なぞ敵ではない。

 ただし時間はどうしてもかかってしまう。この局面で一番有効だったのは椎名の魔砲だったのだろうが、攫われてしまったらどうしようもない。


 「どけやコラァ!」

 ハクは荒ぶる鬼神となって、霧崎にも負けない速度で怪人を蹴散らす。

 しかし再生怪人は一向に減らず。ただただ体力ばかりが削られていく。

 「くそ……」

 リーフカードを使用し、纏めて20体ほどを切り飛ばした。それでも道は拓かない。

 「くそっ……!」

 霧崎はふたりを守るので手一杯。ここでハクが抜けたら、3人の無事は保証できない。

 「くそがっ!」

 ハクと霧崎が歯痒い思いをしている時、土浦が諦めて手を掲げようとした、その瞬間。


 「待たせたな」


 ──偶然(ヒーロー)が、やってきた。

 もう勘づいている人もいるでしょうが、


・ふたりがあまり焦っていない理由

・セリフのないスズ

・土浦の正体

・ツカサの「特撮の春映画」発言


 この辺は意図してやっていますので、どこかで種明かしできればと思っております。

 ……とはいえ、最後のは露骨に分かりやすいですかね。様々な組織から集められた再生怪人に対抗するのは、ヒーロー大集合がお約束ですもんね。


 あと、霧崎の金獅子(仮称)の装備はちゃんと説明を受けてさえいればもっと色々やれるハズでした。霧崎は説明書を読まずに捨てるタイプ。

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