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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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別れと神社と出会いと その3

 お祓いを終えたと思いきや、またすぐに騒動へと遭遇してしまったツカサ。しかし今度はまさかのツカサ本人ではなく、周囲の……それもトラウマ持ちの少女を狙った悪質なものであった。

 「ふふ……ふーっはっはっはっは! 遂に『強き六人の巫女』全てが我が手中へと収まった! 感謝するぞマヌケ共!」

 椎名を羽交い締めにしている男は愉しげに、邪悪な笑みを霧崎達に向ける。その目はドス黒い赤色に染まっており、誰もがその内なる狂気を察せてしまうほどに爛々と輝いている。

 「よもやよもや、だ。あれだけ戦闘員を配備した町へどうやって侵入しようか手をこまねいていたら、わざわざ我らの本拠地へネギ背負(しょ)ってご旅行とは……。おかげで我らの神もお喜びあそばされる!」

 男はケタケタと笑う。それは玩具を買ってもらった子供と例えるのすら憚られる程の狂った笑み。当然事情の分からないツカサ達は、人質に等しい椎名の手前で歯噛みしながら見守る事しか出来ない。

 「六人の巫女……? 我らの神……? なぁツカサ、アイツら一体何の話をしてやがるんだ?」

 「俺が知るかよ……」

 周囲の怪人の輪に抑え込まれるように、ジリジリと後ずさる形で霧崎達と合流する事になったツカサと土浦。他の一般人は退避を終えていたようで、現在神社に残っているのはここに集う怪人達にツカサ達四人と土浦、そして椎名の後ろに立つ男だけのようだ。

 それはつまり、他の犠牲者を気にしなくても良くなったというのと同時に、助っ人となるような人物は居ないだろうという落胆も混じる。

 神社の境内を埋め尽くさんとする怪人達の中に、椎名を含めてもたったの5人で取り残された形なのである。


 「くっくっくっ……ここで悠長に貴様らの最期を看取ってやってもいいが、俺にはまだ仕事があるのでね。ここいらで失礼するとしよう」

 「待て! 椎名をどうするつもりだ!?」

 「くっくっくっ……冥土の土産に教えてやろう。この小娘達のチカラを使い、我らの神を復活させるのだ! さすれば地上は忽ち阿鼻叫喚の地獄絵図となり、天下は我らの物となるという寸法よ……」

 「うっわ、思ってたよりずっとアバウトだ……」

 ツカサ、思わずツッコむ。いかにもテンプレな『悪の組織』とその行動理由であるが、全てがざっくばらんとし過ぎていて何一つ情報として得られたように思えない。

 「歌恋(カレン)は無事なのか! 歌恋を何処にやったんだ!?」

 ツカサ達が困惑する中でも、土浦はひとり懸命に声を張っている。そこまで必死になるという事は、椎名と同じように知り合いを誘拐されたのだろうか。

 というかツカサにはカレンという名前に心当たりがある……嫌な予感しかしない。

 「くっくっくっ、あの小娘の連れか。安心しろ、まだ無事だ。アレも大事な人柱だからなぁ」

 男はさも楽しそうに、吠える事しかできない土浦達を見やる。

 どうでもいいが、何か喋る度に『くっくっくっ……』という笑い声を枕にする必要はあるのだろうか。

 「くっくっくっ……さぁ問答はおしまいだ。世界の終焉を迎える前に、ここで怪人達に滅ぼされるがいい!」

 男は最後にそう宣うと、椎名ごと己の影の中へと沈むように溶けて、消えた。

 残された怪人達は、その全てがツカサ達へと敵意を向けている。本当にここで殺す気満々なのであろう。


 「おいツカサ、どうするよ? 見渡す限りの怪人、怪人、怪人……四面楚歌ってヤツか?」

 スズを庇うように立つ霧崎が言う。ただしそれは決して、悲壮感から来る言葉ではない。

 「どうするもこうするもないでしょうよ。とりあえず全部ぶっ飛ばして、椎名を追う。ついでに攫われた人も全員救出して、片手間にアレの野望を止める。これに限る」

 答えるツカサもツカサで、その顔には使命感はあれど迷いや焦りは一切ない。

 霧崎は元よりバトルジャンキーであり、ツカサは特撮オタクとしての魂が怪人達を倒せと囁きかけるのである。というのも、

 (アイツはマッジョウェルのプリティ☆スタァ、アイツはクロノノートルムのブラック・ザード、アイツは妖魔志士団のイカジョーチュ……。俺達の怪人スーツとは違う、本物の怪人の複製……言わば再生怪人か。不謹慎だけど、春映画並の大盤振る舞いでワクワクするな!)

 という始末である。

 そう、2人には()()という未来が一切見えていないのだ。

 「あは、は……おふたりとも余裕そう、だね? ボクも手伝うよ?」

 「お、じゃあスズと一緒に居てもらおうかな。後でその歌恋って子の話も聞きたいし」

 土浦が怯えるでもなく協力を申し出ているのに、それに深くツッコむ気のないツカサ。人間、心に余裕を持つというか、慢心していると人の話をきちんと理解しない事があるから、こういう時に情報を零してしまいがちなのである。


 「まぁ、そこで見てなよ。すぐに終わらせるからさ」

 「ははっ。お前さんとの共闘は師匠の時以来か。楽しくなってきやがった……!」

 ツカサはヴォルト・ギアから白狐剣を取り出し、霧崎は懐からリボルバー式の拳銃を取り出す。そしてそれを天へと掲げ、大きく息を吸い……叫んだ。

 「白狐剣装!」

 「獅子招来!」

 それは変身のキーワード。

 ツカサは掲げた白狐剣の鞘がその身を解き、身体に巻き付くような形で白き剣士へと姿を変える。

 対して霧崎は、宙に放った弾丸が簡易なワープゲートを作成し、そのゲートが霧崎の身体を通すように移動する事で金獅子を模した鎧を合着させる。

 実はこの装備、どうせ一悶着あるだろうと踏んでいたカシワギ博士が急遽作成した、霧崎専用のヒーロースーツなのである。

 作りは原型が黒雷なのもあってか基礎からして黒雷に似通っているが、細部というか鎧の部分は霧崎に合わせ金獅子を模した装飾となっている。拳銃が変身用のアイテムなのはどちらの趣味なのか、ツカサは何となく聞かない事にしていた。

 そうして現れたのは白狐の剣士と金獅子の銃士の二人組。

 それは怪人の輪の中でも決して臆さず、むしろその姿を誇示するかのように堂々ととした仁王立ち。

 「やっぱり……ヒーロー……!」

 土浦が何やら嬉しそうな声を上げているようだが、今の二人の耳には届かない。

 今の二人の興味はただひとつ。

 新着のスーツと、リニューアルしたスーツの性能を確かめたいの一言に尽きるのである。


 「「さぁ、かかってこいやぁ!!」」

 再生怪人相手に名乗りなんか必要ないとばかりに、二人は吼える。

 そうして、二対大多数という、本来であれば絶望的な戦闘の火蓋が切って落とされた。

 デザインとか詳しく書けるような語彙力がないのでアレですが、霧崎の金獅子スーツは雛形が黒雷の物なので、黒雷とハクどちらと並んでも映えるデザインにはなっているはずです。はずなんです……!

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