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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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別れと神社と出会いと その1

 ヴォルトが眠ったその週、ツカサは比較的ぼんやりと日々を過ごした、と思う。

 黒雷が強化された時の熱もすっかり冷めてしまい、ただただ日々の仕事をこなす毎日。こんな時ばかりはヒーローとの戦闘にも駆り出されず、黙々とブラック企業潰しに従事するしかなかったのもあるが。

 「ヴォルトならいずれ起きるわい。じゃからそんな虚ろな表情で動き回るでないよ。普通に怖いわ」

 とカシワギ博士に言われる程なのだから、ツカサはよっぽど酷い顔をしていたのだろう。遂には気分転換も含めて有給消化をするようにとすら言われる始末。

 そして前回のスズとの約束もあり、ツカサはスズと、今回も何故か着いてきた霧崎と椎名を連れて熱海温泉へとやってきていた。

 「……えーっと、なんで霧崎達まで着いてきてるんだ?」

 「つれない事言うなよ。椎名の回復も順調だから、学校に通わせる前に色んな所を連れ回すつもりでいたんだ。そこにお前が有給まで取って熱海に行くって言うもんだから、わざわざ着いてきたんだぜ?」

 その筋の人からぬ、いい笑顔で笑う霧崎と、未だに話せはしないものの、旅行特有の高揚感が顔に出ている椎名。このふたりも何だかんだと忙しい筈なのだが、何故か軽いフットワークを発揮してツカサ達に同行しようとするので、気が付いたら同じ旅館を取っていて同じ時間の電車に乗り、向かいの座席を陣取って携帯ゲーム機で遊んでいた、というのが顛末である。

 もはやツカサにとっては慣れたというか、好きにすればいい位の気持ちであるが。


 「お二人共……その……」

 「「………」」

 しかしこちらはそう容易く受け入れられはしない。スズは雇われとはいえ、椎名の惨状を静観し、霧崎を騙した後に刺して殺しかけているのだ。その罪滅ぼしにと現在の立場を選んだ訳だが、それで許されるとは思ってもいないだろう。

 浜辺でもスズはふたりとの接触を避けていたが、今回のように突然向こうから迫ってきたら逃げようが無い。電車の中では沈黙していたが、それは処罰を待つ罪人のような心持ちだったのだろうか。

 「ごめ」

 「ふんッ!」

 頭を下げようと……いや、多分土下座でもしようとしたのか、スズが姿勢を下げようとした瞬間に霧崎の拳がモロに腹部へと突き刺さった。

 気功を使っていないとはいえ、歴戦の勇士の一撃を油断した状態で土手っ腹に受けたスズは、そのまま腹を抱えるようにして悶絶する。

 ここが駅前とか人目の付く場所であれば一発で通報ものだが、残念ながらこれは移動中の、人目に付きにくい場所で起こった一コマ。この四人しかいない場面である。

 「……! ………ッ」

 「痛てぇか? 痛てぇよな? 俺達はもっと痛かったよなぁ?」

 女相手にも容赦のない霧崎を、ツカサは止める手段を持たない。正確には、いつの間にか背後へと回っていた椎名に杖を突きつけられているからなのだが。

 魔砲少女にその砲口を向けられている以上、ツカサは無力なのである。


 「だけどな、いっぺん椎名と話したんだよ。んで、何だかんだの末に()()()()()()()()事になったんだわ」

 霧崎はそう言って、スズの背中を擦る。気功の達人はそのチカラによって他人の治癒力を高める事もできると、以前誰かに聞いた気がするし、多分今もそうやっているのだろう。

 「だから俺も謝らねぇし、お前も謝るな。過去の事はこれでチャラにして……できれば、ウチの椎名と仲良くやってやってくれや」

 恐らくこれが、ふたりの不器用が選んだ選択肢なのだろう。手段が悪い気もしないでもないが。というか椎名が杖でツカサをつついて反応を楽しむ遊びをし始めたので早く終わって欲しい、というのがツカサの心情である。

 この子、話さないだけで実はメンタル面は大分回復しているんじゃないか。

 「………ッ……ケホッ………! そう……いう、事なら……! あ゛り゛がだ……ゲホッ」

 「無理して喋んな。わる……いや、謝らねぇんだったな。とにかく落ち着くまではそのまま腹ァ抱えてろ」

 めちゃくちゃ鬼畜な事を言っているが、これであの一件をチャラにできるなら安いものなのかもしれない。スズは椎名の救出にも一役買ったのだし、その辺も鑑みてギリギリの許容ラインがこれだったのだろう。

 実行犯というか主犯は規格外なので、こういう事をしたら間違いなく戦争になるのだろうが。

 それから程なくしてスズも立ち上がれるほどに回復し、四人はようやく今晩泊まる宿へと向かって歩き出したのであった。

 宿に着くまでの間、ずっと椎名がスズの背中を撫でていたのが妙に印象的であったと、ツカサは後に思う。


 ここからは余談だが、四人の泊まる宿は当然の如くダークエルダーの傘下の為、霧崎達の動向を知った幼女(何者か)により部屋割りを変更されていたりする。

 もちろん、ツカサ霧崎ペアと、椎名スズペアである。

 その後のツカサの心労ときたら……まぁ、お察しの通りである。

 酔うと手が付けられない系の大人って怖いねというお話だったとさ。

少々短いですが、キリのいい所まで。

熱海温泉を選んだのは、特に理由がある訳ではありません。なので詳しい地名とか観光名所とか出てこないので悪しからず。

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