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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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黒雷の強化とヴォルトのシンカ その2

 煙の中から現れた黒雷は、普段の無骨さから一転、華美とは言えないまでも、それなりに装飾が多く装備され、見た目がかなり悪役というかダークヒーローに近くなっていた。

 そんな黒雷は、今度はむせることなく煙を払って姿を露わにする。

 瞳の部分は爛々と光り、バックル部に埋め込まれた石も不思議な色を湛えつつその存在を強調している。

 「これが……黒雷の新しい姿か……!」

 自身の姿を鏡で見て、感動にうち震えるツカサ、もとい黒雷。雑な経緯ではあるがパワーアップを果たしたその姿に、周囲の観客も納得顔で頷いている。

 「よし、シールド展開じゃ!」

 そんな中、ストイックに準備を進めていたカシワギ博士は、強力なシールドの発生装置を周囲に配置し、黒雷と海人銛守を囲うようにドーム型の防壁を築き上げた。直径10m程の広さではあるが、模擬戦ならば上等であろう。

 「ツカ……黒雷、準備はいいな!?」

 「応、いつでもこい」

 軽いウォーミングアップはお互いに済ませてある。ならば後はゴングを待つばかり。

 「よし……始め!」

 そして博士の掛け声をもって、模擬戦は開始された。


 「うおぉぉぉぉ!」

 「はぁぁぁぁあ!」

 まずは両者接近しての衝突……のはずが。

 「うわっとぉ!?」

 黒雷が勢い余って吹っ飛びシールドへとぶち当たった。

 ガシャンと派手な音が鳴り、転がった黒雷が緩く身を起こす。どうやら踏み込みにチカラを入れすぎたようで、一歩目の加速で既に身は吹き飛んでいたのだ。

 「ふぅむ……出力が高すぎて制御しきれんのか。どれ、少し弄るから待ってなさい」

 博士がシールドの中へと入ってきて、ベルトへと端末を接続し調整を開始する。その間は黒雷もカゲトラも手持ち無沙汰になってしまい、気まずい沈黙が流れたがそれも一分弱ほど。

 「よし、キミの身体データならばこれくらいが適正じゃろう。仕切り直しじゃ」

 何事か調整を済ませた博士はさっさとシールドから出て、また定位置へと戻る。

 その合間に黒雷も少しだけ身体を動かしてみたが、今度は強すぎたりするような感覚はなく、前のスーツと似たような感覚で動かせる。これなら問題ないだろう。

 「んじゃ今度こそ」

 「ああ、いくぞ相棒!」

 二度目の衝突は声もなく、銛と旋棍がぶつかる音のみが響いた。

 一合、二合……連撃。銛守が打込み、黒雷が弾く。両者共にこの半年ほど、常に格上との戦闘を強いられていた為に、戦闘技術に関しての上達は異様に早い。

 そのふたりがほぼ手加減なく連打を繰り返す光景は、さながら暴風雨を思わせる程の突風の嵐となる。


 「はは、楽しいな相棒!」

 「いやカゲトラ、こんなに強かったのかよ! そりゃ怪人スーツの着装者に選ばれ続けるワケだ!」

 ふたりは軽口を言い合いながらも、その手と足は止まる事を知らない。

 打って、弾き。薙いで、回避。突いて、突かれて。

 攻守が目まぐるしく交代する中で、ふたりの手数は減るどころか徐々に増えていく。そして、

 「ならばコイツはどうだ!?」

 銛守は一瞬の均衡状態の折に後方へと距離を取り、自らの銛を腰だめに構える。その瞬間に銛は変形し、銛は砲となってその口を黒雷へと向けた。

 「今度は撃ち合いってか。……いいぜ、受けて立つ!」

 対する黒雷もまた、トンファーを十字に重ねて前へと突き出す。

 こちらは変形こそしないが、トンファーが淡い青光を纏い、いかにも光線を撃たんとする前準備に見える。この技は『なんとかストーン』の粉末を素材として深紅のトンファーを打ち直したからこそ可能になったようで、黒雷もこれは初めて使う技だ。ヴォルトがいないとトンファーを投げるくらいしかマトモな遠距離攻撃がなかった時に比べるとかなり充実しているように思える。

 「くらえ、銛守バスター!」

 「トンファァァァビィィィィッム!!」

 互いの攻撃が衝突し、拮抗し、炸裂する。

 爆風が吹き荒れるシールドの中、観客がまだ視認出来ない中でも剣戟の音は響く。

 「はははは!」

 「はははははは!」

 その後も長く笑い声が響き、カゲトラとツカサは思う存分模擬戦を堪能したのだった。



 ◇



 「……ねぇ、ツカサ先輩」

 「……何かな、スズさん」

 所詮は模擬戦故、決着も着けずに必要なデータ取りだけ行った後。

 強化された黒雷のスーツに振り回されるような形で終始気張っていたツカサは、疲労困憊でトレーニングルームの端っこで寝転がっていた。

 そんなツカサの隣にひょっこりと現れ、座り込んだのがツカサの部下(?)ことスズである。

 彼女は何かの報告書みたいな紙を幾つか眺めて、途中でツカサにも見えるようにスっとタイトルを見せてくる。そこには『ダークヒーロープロジェクト第一弾、ハクの戦闘記録について』という言葉が置かれていた。

 そして一言。

 「なんで先輩って、仕事の時以外の戦闘も多いんスか?」

 「俺だって聞きたいよ!?」

 ツカサ、魂の叫びである。

 本来の運用ならば、ハクのチカラは偶然通りがかった事件に対して、ダークエルダーという身分を伏せたい時に振るうべきものだ。

 それなのにツカサの場合は、大体が事件の方からツカサへと寄ってきて猛威を奮ってくるので、仕方なく変身している節が多い。

 生粋の巻き込まれ体質、とでも呼べばいいのか。

 「私の加入後も、私のいない所でばかり戦って……。これが勤務時間中なら、私だって手伝うんでスよ? なのにこれじゃあ……」

 「うるさいやい」

 ツカサだって好き好んで残業時間に戦闘しているワケではない。いや、この悪の組織は時間外労働に対する保証も厚いし、戦闘データも買取形式のため給金は跳ね上がるので有難いのはそうなのだが、それで気軽に生死を賭けたくないのは確かである。


 「……私、お祓いで有名な神社を知ってるんスけど、今度の休み一緒に行くっスか?」

 「いく……行かせてくださいぃ……」

 お祓いでどうにかなる不運ならば、どうにかしたいのが心情である。だが、

 「あ、ツカサくん休日出掛けるのかね? ならばホラ、白狐剣も直してあるからの。こちらのデータも期待しておるからな?」

 なんて人の心も知らずに、さも出掛ければ戦闘があると思われていそうな感じに武器を授けてくる幼女もいて。

 その後も次々と「護衛はいるかね?」とか「娘の為に合格祈願の御守り買ってきて貰えない? あ、安全守りはいいわ。貴方が買うと効果切れそうだし」とか「筋トレは欠かすなよ!」とか、そんな言葉ばかりを掛けられる始末。ちなみに最後のはカゲトラである。

 これには某つんつん頭の主人公さんのセリフを借りて、こう締めくくりたくなるの仕方ないだろう。

 せーの。

 「不幸だ……」

いつの間にか30万文字を突破しておりました。

それなりの読み応えにはなったんじゃないでしょうかね……?

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