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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編

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黒雷の強化とヴォルトのシンカ その1

 この日、とある支部に疲れきった幼女の甲高い声が響き渡った。

 「できたぞォォォォォオオオオ!!」

 その声はガラガラで、印象としては三徹かました後のおっさんみたいなダミ声。実際三日ほど姿を見ていないし、中身もおっさんなので間違ってはいないのだが、どうしてこうもギャップが激しいのだろうか。

 「ワシは天才じゃああああぁぁぁぁぁ!」

 という自己紹介みたいな奇声の後に、ドンガラガッシャンという騒音。中がどんな様子かは誰もが気になる所ではあるが、いの一番に巻き込まれたいかと言えば誰もが遠慮したくなるところ。まぁつまりは、誰もがお互いの顔を見やり、お前が行けよと無言の威圧を掛け合う事態となるのである。

 「あー……なんで私までこんなに疲れてるのかしら。ほらツカサ、入りなさい。ついでに片付けと博士の処理をお願い」

 しかしその均衡も数十秒。現場からヴォルトが出てきてツカサを指名した瞬間、誰もがツカサを見捨て仕事へと戻っていったのである。

 もうツカサに逃げ場はない。

 「……ヴォルト、博士の処理ってのは?」

 「見れば分かるわ。……とにかく私は少し休むから、よろしくね」

 カシワギ博士と一緒に研究をしていたヴォルトも、精霊なのに疲労困憊の様子でヴォルト・ギアの中へと潜って行く。


 「……一体、この中で何が起きたんだ……!」

 カシワギ博士とヴォルトが研究室へと篭もり、その間に巫女と聖剣使い事件の処理等々も終わった今日この日。ツカサはまた新たなる事件に巻き込まれる事になるのかと、半ば恐々としながらも研究室へと踏み入れる。

 その中ではあらゆる機材が散乱し、カップ麺やパックジュースのカラなどが散らかっていたり、脱ぎっぱなしの服やらヴォルト用の充電ケーブル(家庭用の電源からでも電気を補充するとちょっとは元気になるらしい)がそのまま放置されているなど、やたらと酷い汚部屋となっていた。

 そしてその中心というか、本来ならば整頓された作業台に突っ伏するように幼女が倒れていた。どうやら機材をドンガラした後に這いずってここまでは戻ったようで、普段からヨレヨレの白衣が更に酷い有様となっている。

 「ああ、ほら博士。大丈夫ですか?」

 ツカサはとりあえず博士を抱き起こし、白衣だけは別の物と着せ替えて備え付けのソファへと運び込む。

 普段から幼女のモチモチ肌を保つ為に色々と気を付けていると話していたのに、研究に熱中するとそれらを投げ捨てて気の済むまで活動し続けるこの博士。

 今も肌はカサカサで、髪はギトギトにテカり、目の下のクマは色濃く刻まれてしまっている。

 凡そ幼女が晒していい姿ではない。ヴォルトの言った博士の処理とはこの事だろう。流石にその辺は女性隊員に任せる事になるが、最初の現場把握は確かに慣れているツカサの仕事だ。


 「……おお、ツカサくん。いぃところに来たなぁ……」

 博士はもう動くのも億劫とばかりに、モゾモゾとソファの上で顔だけをツカサに向ける。

 「机の上に、ベルトが置いてある。詳しくは……後で」

 そう言って博士は力尽きた様に眠りに落ちる。

 ずっとなんちゃらストーンとやらを解析してベルトへとどう組み込むかを調べていた様だが、それもどうやら終わったようだ。

 「……片付けはやっとくんで、起きたら風呂入ってくださいね」

 ツカサはとりあえずベルトだけ回収し、女性隊員……というか博士の助手であるミツワを呼ぶ。彼女は博士の徹夜には同席していない為、まだ元気なのだ。

 こうしてツカサはまた黒雷となれるようになったが、博士のいない所で変身するワケにもいかず、今日はお預けとなる。しかし強化と聞いてワクワクしないほどツカサも冷めてはいないので、悶々と過ごす一日になりそうだった。



 ◇



 「いやー、待たせたねツカサくん」

 それから半日経って。ようやく仮眠を終えてシャワーを浴びてさっぱりした後のカシワギ博士がツカサの下へとやってくる。

 「待ちわびましたよ。どうなったんです?」

 今日は外での任務は予定されていないので、戦闘員はみんなトレーニングルームへと集まっている。

 ツカサもまた気晴らしにと、普段以上にカゲトラ達とのスパーリングを実施していたのだが、博士が起きたのならば話は別だ。

 「うむ。まずはそうじゃな……。ざっくり説明するならば、ベルトのバックル部に例の石を埋め込んで、全体的に出力やら強化されておる。あとは装飾も僅かながら増やして、それに伴って装備も強化じゃ。もう完全にワンオフ機体みたいな状態じゃな」

 これで遂に黒雷としての完成系じゃよ、とカシワギ博士は宣う。そういえば実装してから割と経ったが、これがまた実験段階の装備であった事を今の今まですっかり忘れていた。というか、神様(?)がくれないと手に入らない物を部品に使うなんて凄い贅沢品だ。

 「本当にこれ、俺が使ってていい物なんです? あの石を含め、かなり貴重品なんじゃ……」

 「問題ない。というか、キミが適任なんじゃ」

 博士は軽くツカサの腰を叩いて、笑う。

 「前線に怯えぬ気概と好奇心。そして怪我をすれども引かぬ強さ。……この辺をキミのレベルまで持っておる人間は少ない。というか、現代の若者でその心を持つ者なんてヒーローくらいじゃろ。キミにもそっちの素質があったのかもしれんなぁ」

 もう手放す気はないがの、と博士は再度呵呵(かか)と笑う。

 過度な期待をされているようでむず痒い気のするツカサだが、不思議と悪い気がしないのはそれだけ毒されてきたという事だろうか。


 「ヴォルトは……まだ眠っておるようじゃの。ならばベルトの調整だけ先にやってしまうか」

 博士はまた何処からともなく計測機器を取り出すと、部屋の隅へと設置してそちらへ移る。

 「ああ、カゲトラくん。悪いがツカサくんの相手になってもらえんかのう。怪人スーツは『海人銛守(もりもり)』を使ってくれい」

 「了解した、博士」

 どうやら本格的に動作テストまで行うようで、相手方であるカゲトラには新作の怪人スーツまで用意されていた。

 これも今までの戦闘データを組み込んで設計された物であったはずだから、もうヒーローに対し無力とは言い難いポテンシャルを秘めているはずだ。

 「手加減するなよ、相棒」

 「そりゃこっちのセリフだ、相棒」

 それでも中の人たるふたりは気楽なもの。

 戦闘員同士は明るく楽しく。それがダークエルダー。

 「ようし、準備ができたら始めとくれぃ」

 博士からも声がかかり、ふたりの周囲にも大きく輪になる形で野次馬が集まる。

 「さぁ、見せてくれ相棒。新しい『黒雷』の姿を!」

 「おうよ!」

 期待されているならば、答えねばなるまい。


 「──変身!」

 ツカサは遂にポージングをつけて変身する。

 何条もの雷エフェクトの後、煙の中から完成された黒雷が姿を現した。

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